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東北大学医学部における「名義貸し」及び「金銭提供問題」について(声明)

この間、東北大学医学部に関わる「不明朗な金銭関係」がたびたび報道されている。例えば、2003年9月21日の『河北新報』や10月10日の『朝日新聞』では、吉本現総長、玉井医学研究科長を含む東北大学医学部の教授13人が釜石市釜石市民病院から「卒後教育の指導委託費」などの名目で多額の金銭提供を受けていたことがとりあげられている。金銭提供のあった時期に、吉本現総長は医学系研究科長・医学部付属病院長をつとめていた。この行為は、国家公務員法に基づく兼職規制に抵触する疑いがある。また玉井氏は受け取った金銭が財団法人「艮陵医学振興会」をとおして「適正に処理」されていることを主張しているが、その一方で「他の医局のことはわからない」と述べており、手続き的にも問題ある処理がなされている疑いもある。さらに、報道によれば金銭に見合う研究指導の実態がないという。これが事実とすれば、倫理的に問題があるだけでなく、地方自治体に不正な公金の支出をさせていたことになる。

これとは別に、『朝日新聞』(宮城版)の10月1日には、いわゆる「名義貸し」問題が大きく報道されている。つまり、東北大学医学部が民間医療機関に対して医師を派遣する際に、勤務の実態からすればアルバイト診療であるにもかかわらず、常勤医が勤務しているかのようにみせる「名義貸し」をしていたことが確認されている。これは当該民間医療機関が診療報酬・社会保険を不正受給していたことを意味し、明らかな犯罪行為である。こうした犯罪行為が大学の関与のもとに組織的かつ慣行的に行われてきたのである。先に問題が明るみとなった札幌医大の秋野豊明学長は、「名義貸しは医療機関の診療報酬の不正請求にも加担する犯罪行為で、大学関係者がかかわったことを大変残念で遺憾に思う」という認識を示している。

これらの新聞報道では、こうした不明朗な「金銭提供問題」や「名義貸し」問題が慣行化する背景として、一方では、大学における研修医の経済的不安定や身分をめぐる問題、他方では、東北地域の医療機関が抱える慢性的な医師不足という状況や診療報酬制度のあり方の問題が指摘されている。原因究明は慎重に行う必要がある。「金銭提供問題」と「医師派遣」・「名義貸し」問題には、それぞれ独自の問題点が認められるが、両者とも一つの構造から生じていると考えるのが妥当であろう。

今回の2つの事件は、東北大学が犯罪行為を含む慣行に組織的に関与したものである。こうした不正を慣行として許してきた大学の管理の問題、医学部の管理と組織のあり方の問題、さらには東北大学医学部と地域の医療体制との関わり、そして社会への説明責任と自治・自浄能力が問われている、と私たちは考える。

したがって、私たち東北大学職員組合は、以下のようなことを大学当局に求めたい。

第1に、何よりも優先して取り組まれるべきは、十分な権限と独立性・透明性をもった調査機関を設置して、事実の全面的解明にとりくむことである。すでに医学部に調査委員会が設置されているが、こうした対応では不十分である。ことはすでに東北大学全体の問題となっており、さらに現総長、研究科長を含む医学部の教授の多数が関与していることを考えるならば、独立した調査機関を評議会のもとに設けることが適切であろう。

第2に、設置された調査機関が、できるだけ速やかに、かつ厳正に調査活動を行い、その結果を公表することである。新聞で報道されたような、組織ぐるみといわれる慣行の実態や、関与した教授、学部長などの責任を明らかにするとともに、抜本的な「防止策」を提示することを求める。

第3に、現吉本総長の責任についてとくに指摘しておきたい。総長は、「金銭提供」があった時期に医学系研究科長・医学部付属病院長であったにもかかわらず、長年の慣行を放置したばかりか、自らも直接「金銭提供」に関与している。調査機関はこの点をとりわけ重視すべきであり、また吉本氏は自らの責任について明らかにすべきである。

最後に、東北大学職員組合は医学部及び全学の教職員に呼びかけたい。

今回の東北大学医学部の金銭授受をめぐる一連の事件から、医学部の制度的なあり方、地域における東北大学医学部の役割が問われていると私たちは考える。再発防止のための組織改革だけではなく、この議論のなかで、より積極的に、東北大学医学部が医師の供給を含めて地域医療に対してどのように関わるべきであるのか、あるべき地域医療制度を確立するための議論を深める契機にすべきである。そのためには、まず、医学部のなかで、教授層だけではなく、病院の看護師・技師や職員、医学系研究科・医学部の学生・大学院生・研修医・助手・助教授層をふくむ学生教職員に広く情報を開示し、開かれた議論を行うことが必要ではないだろうか。

また、今回の事件によって、大学全体の運営体制も試されている。法人化後の制度設計では、総長を頂点とするトップダウン型の大学運営がめざされている。しかし、リーダーシップは構成員と社会に対する説明責任を伴わねばならず、社会による批判と構成員の自治によって常に検証されねばならない。今回の問題について、適切な対応と改革をなすかどうかが、明日の東北大学のあり方につながるのではないだろうか。

2003年10月11日
東北大学職員組合

東北大学職員組合
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