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医学系研究科・病院における会議費問題と金銭提供問題について

I.はじめに

 私たちはこの間、公立病院から医学系研究科・医学部附属病院(東北大学病院)に提供された金銭をめぐる問題について、全面的な解明を求めてきた。

 提供された金銭は、四つのルートによって受領・使用されている。第一に、分野ごとの医局や同窓会が受け取り、かつ使用した分である。第二に医局や同窓会が受け取ってから改めて国庫に入れ、委任経理金として使用された分である。第三に財団法人艮陵医学振興会が受け取り、その助成金として使われた分である。第四に直接国庫で受け取って委任経理金とされた分であるが、これは違法ということで返還されている。

II.委任経理金による会議費が飲食目的の会合に使われていた

 私たちは、今回、2番目の委任経理金ルートの証書類が情報公開制度の対象であることに注目して、使途の調査を試みた。その一部として、委任経理金による会議費全般の書類を分析したところ、驚くべき実態が判明した。

 分析対象としたのは、情報公開制度によって入手した、1998年度から2003年度までの、医学系研究科・医学部附属病院における、委任経理金を用いた会議費に関する資料一切である。この期間に委任経理金を支出した会議は234件開催され、1285万8925円が支出された。会議のほとんどは来客がある場合に行われていた。ところがこのうち件数にして76.9%(180件)、金額にして59.2%(761万4914円)は、終業時刻以後に、学外において、もっぱら飲食目的の会合に用いられていたのである。典型的なパターンとしては、会議の名目は専門分野に関する打ち合わせであるが、会場は料亭やレストラン等、支出内容はコース料理や酒類など、というものである。こうした飲食目的の会合には、のべ1036人(来客377人、研究科・病院関係者659人)が参加した。そして、1件あたり平均4万2305円、参加者1人当たり平均7350円の飲食がなされた(計算方法は付録参照)。

 現在、金銭提供問題を解明すべき立場にある人々が関与していたことも見逃せない。飲食目的の会合に現総長の吉本高志氏は3回参加し、32回について研究科長として承認印を押していた。また現医学系研究科長の玉井信氏は4回参加し、26回について研究科長または病院長として承認印を押していた。現病院長の山田章吾氏は2回参加し、3回について承認印を押していた。そして、医学系研究科研究助成金問題調査委員長の菅村和夫氏は、33回参加していた。

 なお、委任経理金を支出する際に助成金の略称が明記されたものが多いが、飲食目的への支出が行われた助成金の中に、公立病院の寄附に由来するものは確認できなかった。ただし、助成金区分が明らかでない証書類もあるために、完全な確認はできていない。

III.会議費使途の説明と助成金使途の全学調査が必要である

 私たちは、この会議費使途について、二つのことを提起したい。

 第一に、公立病院からの金銭提供問題とは別に、公金である委任経理金一般をこのように使ってよいとは考えられないことである。委任経理金の支出基準は部局によって異なっており、飲食への支出を禁じている部局もあるので、こうした使い方の責任は医学系研究科・病院にある。医学系研究科・病院では接遇費としての支出を認めているという情報もあるが、そうだとしてもそれ自体が問われねばならない。玉井研究科長は金銭提供問題に関連して「研究にはお金がかかる」とたびたび強調しているが、助成金を接待に費やすことも研究の一環と言えるのだろうか。しかも、会議目的を正直に「接待」「会食」としているケースはほとんどない。「研究打ち合わせ」が最も多く、他には「情報交換」「セミナー」「資料収集」などの名目で飲食が行われているのである。いかにも不自然であり、接遇そのものへの支出が厳密には認められていないから、このような口実を設けているのではないかと疑わざるをえない。

 吉本総長・玉井研究科長・山田病院長は、このような支出を許してきたことについて説明すべきである。問われているのは会計監査を通っているかどうかという形式だけではなく、委任経理金をこのように使うことが適切かどうかであることを付言しておく。また評議会は、委任経理金の支出ルールについて全学レベルで調査と検討を行うべきである。

 第二に、委任経理金ルートの会議費に限っては、公立病院からの寄附金が問題ある使い方をされた形跡は認められなかったものの、任意調査しか行われていない他のルートに対する疑問は、むしろ深まったということである。医学系研究科では、公金である委任経理金でさえ、飲食目的の会合に支出することが認められてきた。前研究科長・現研究科長・現病院長もこれを承認してきた。このような状況下で、自ら飲食目的の会合に頻繁に参加していた菅村調査委員長が調査の指揮を執り、医局・同窓会の回答のみに基づいて「助成金等は寄附目的に則して支出されている」と結論づけたのである。はなはだ説得力を欠いた話だと言わざるを得ない。医学系研究科による内部調査の限界は明らかである。評議会の権限での再調査が必要である。

IV.迂回路を用いた助成金の受け取り・支出は違法または文科省通知違反ではないか

 私たちは、医局・同窓会ルートや財団ルートについては証書を入手できないので、法的問題について調査を行った。

 公立病院(地方公共団体)が国立大学(国)に寄附を行うことは地方財政再建促進特別措置法で禁止されている。現に、直接委任経理金に入れられた分については、違法だということで返還されている。だから医局・同窓会で受け取ったり、艮陵医学振興会で受け取るという迂回路がとられていたのである。しかし、それは許されるのだろうか。

 まず、医局・同窓会への寄附や、受け取る分野を指定した財団への寄附は、事実上東北大学への寄附とみなされてもやむを得ないということである。米沢市監査委員は2003年12月24日、米沢市立病院が2002年度に財団法人艮陵医学振興会に120万円を寄附したことを地方財政再建促進特措法違反と判断した。同病院は、2000年度まで東北大学医学部脳神経外科研究後援会実生会に寄附を行っていたが、脳神経外科医局長から寄附先を財団に変更することを要請され、その際に「脳神経外科講座への研究助成に変わりはない」と明言されていた。監査委員はこの経過から、2002年度の寄附は、艮陵医学振興会を経由しても、実質的に脳神経外科に到達することを目的としていたことは明らかとして、違法と判断したのである。この論理から言って、米沢市監査委員は実生会への寄附も脳神経外科への助成とみなしていることは明らかである。そして、吉本総長は2002年11月に総長に就任するまで神経外科学分野・脳神経外科の担当教授であった(上記医局長は別人)。

 次に、ここであえて、医学系研究科が主張するように、医局・同窓会や財団への寄附は東北大学への寄附とは別であり、かつ寄附は研究・教育に使用したと仮定してみよう。そうすると、医局・同窓会ルートの分について、助成金を国庫を通さずに研究・教育に支出して良いのかという、別の疑問が生じるのである。文部科学省の産学官連携関係通知類によれば、奨学寄附金は文科大臣から国立学校の長に経理を委任された委任経理金であるし、受託研究費であれば歳入歳出予算を通して経理しなければならない(通知類は付録参照)。これは経理の透明性を確保するためであろう。つまり、研究助成金を受けて研究・教育を行おうとすれば、国庫を通して使用しなければならないのである。しかし、公立病院から受け取った助成金については、多くの分野で医局・同窓会が直接支出している。例えば医学系研究科の内部調査において、神経外科学分野は、吉本氏が担当教授であった1998-2001年度に計1090万円を「研究費及び教育費として支出」したと回答している。これが事実だとすると文科省の通知に違反しないのだろうか。

 不透明な経理は、どう解釈しても疑問を持たれる。医局・同窓会ルートや財団ルートの寄附・支出は、事実上東北大学への寄附であるとすれば地方財政再建促進特措法違反である。そうではないとすれば、医局・同窓会が研究・教育に支出した分について文科省通知違反が疑われる。研究・教育に支出していないのであれば、その使途が問われるのである。吉本総長・玉井研究科長・山田病院長は、米沢市監査委員の指摘に答える必要があるし、あくまで財団や医局・同窓会は大学と別組織というならば、文科省通知との関係を説明する責任がある。その説明には、医局・同窓会での支出内容が含まれねばならない。説明が十分でなければ、やはり評議会のもとでの調査が必要である。

V.全学的調査と構成員・社会への説明が必要である

 私たちの問題提起をまとめよう。

(1)公立病院からの金銭提供問題の帰趨にかかわらず、委任経理金が飲食目的の会合に支出されてきたことは重大である。このような支出を許してきたことについて、吉本総長、玉井研究科長、山田病院長は説明すべきである。評議会は、委任経理金の支出ルールについて全学的な調査と検討を行うべきである。

(2)公金を飲食目的の会合に使用してよいという基準が支配している、医学系研究科の内部調査の限界は明らかである。助成金の使途について、評議会の権限で全学的な再調査を行うべきである。

(3)医局・同窓会や財団を介した助成金の受け取り・支出が、地方財政再建促進特措法と文科省通知のどちらかに違反しないのか、文科省通知に違反しないとすれば医局・同窓会は何に助成金を支出したのか、吉本総長、玉井研究科長、山田病院長は説明すべきである。説明が十分でなければ、やはり評議会のもとでの調査が必要である。

 これらの説明と調査が、大学構成員と社会の納得を得られるものでなければならないことは当然である。

 国立大学はまもなく法人化される。法人においては総長や部局長が強い権限を持つが、その権限行使についての説明責任もこれまで以上に重くなる。金銭提供問題の解明が不十分なままでは、国立大学法人東北大学の健全な大学運営はあり得ないだろう。私たちは、東北大学ではたらく教職員として、この問題の一日も早い解決を望んでいる。

2004年2月2日

東北大学職員組合


付録:委任経理金による会議費の調査基準

「米沢市立病院の財団法人艮陵医学振興会に対する公金支出に関する住民監査請求」 (監査公告。2003年12月24日)
http://www.city.yonezawa.yamagata.jp/text/kokoku/kokoku15/kansakoukoku/kansa17-2.pdf

「産官学連携関係通知等」(文部科学省ホームページ)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/sangaku/sangakuc.htm


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