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2004年7月30日

国立大学法人東北大学
理事(財務・人事担当) 北村 幸久 殿

「職員就業規則第36条(政治的活動等の禁止)の運用について(案)」の問題点について

国立大学法人東北大学職員組合
執行委員長 吉田 正志

 東北大学職員組合は本年2月はじめに就業規則第36条(政治的・宗教的活動の禁止)が提示されて以来、本条は教育・研究活動や教職員の思想信条の自由を危うくする条項であると判断し、その削除を主張してきた。しかし、すでに就業規則が施行されている以上、第36条の恣意的な運用を防ぐために適切な運用方針を労使間で確認することは必要なことと考える。その見地から、4月28日の北村理事との懇談の席上において、「就業規則第36条の運用に関する組合の提案」を提示した。

 以上の経緯をふまえて、今回人事戦略企画室会議にて検討された「職員就業規則第36条(政治的活動等の禁止)の運用について(案)」(以下、「大学案」とする)を検討したところ、重大な問題点を多数含んでおり、根本的な書き換えが必要であるという結論に達した。以下、大学案の各条について問題点を具体的に批判する。なお、末尾に4/28組合案を再度記載する。

大学案の問題点

3.「1 基本的事項」について

(1)この基本指針は、職員就業規則第36条の運用に関し、職員の政治的活動の自由及び信教の自由の重要性を踏まえつつ、国立大学法人東北大学(以下「本学」という。)における服務規律の確保を期するため、指針となるべき事項を定めることにより、その円滑かつ適切な運用を図ることを目的とする。

 「服務規律の確保を期するため」とあるが、服務規律とは国家公務員用語であり、就業規則制定時にとりいれられなかったものである。職員就業規則第33条では「職場規律」となっている。このような用語を用いるところに、この案が国家公務員法人事院規則の発想を引きずったものであることがあらわれている。

(2)本条の規定は、公教育の政治的中立性及び宗教的中立性を確保するとともに本学の施設内の秩序を維持することを目的とするものであるという趣旨に従い、これを解釈し、及び運用しなければならない。また、本条の規定は、思想及び信条の自由、信教の自由、表現の自由及び学問の自由を尊重するように、これを解釈し、及び運用しなければならない。

 この文言は、一般論としては異論はないが、就業規則の運用指針に入れるには、形式上、内容上、問題がある。

 まず形式として、公教育の政治的中立性や宗教的中立性は教育基本法や公職選挙法で保たれているのであり、なぜそれにプラスしてこの就業規則と運用指針が必要であるのかが明らかでない。法律で律するべきものを無理に一大学法人の就業規則で律しようとするお門違いはないのかどうかに、注意が必要である。後段で、さらに具体的にみる。

 次に内容として、「政治的中立性」と「宗教的中立性」、「本学の施設内の秩序」の意味が明確であり、必要以上に拡張されていないかどうかが問われる。これも後段で具体的にみる。

4.「2 制限される政治的活動」について

(1)職員就業規則第36条の「政治的活動」とは、次に掲げるものをいう。
ア 教育基本法第8条第2項の規定に違反して政治的活動をすること。

 「政治的活動」とは、「政治的活動をすること」になっており、文章としてわけがわからない。拡大解釈と恣意的な運用が可能になってしまう。

イ 公職選挙法第137条の規定に違反して選挙運動をすること。

 公職選挙法第137条が禁じているのは、教育者による、学校の児童、生徒及び学生に対する教育上の地位を利用した選挙活動である。この点を明確に書くべきである。

ウ 特定の政党その他の政治的団体の構成員になるように、又はならないように勧誘運動をすること。
エ 政党その他の政治的団体の機関紙等の発行、編集、配布等をすること。

 勧誘等の活動は、特に組織立った系統的なものだけを、また業務の正常な遂行を妨げるか、業務に必要な秩序を損なうことを基準として規制すべきである。

 例えば、政党や政治団体の構成員である教職員が機関紙読者の教職員に対して、勤務時間外に機関紙の手渡し配布や集金を行うことなどは禁じられるべきではない。また、一定の政治問題を論じた政党・政治団体機関紙の配布は自由な言論活動の一環であり、禁じられるべきではない。たとえば、同じテーマの政策問題を論じても、学術的団体の政策論ならばよく政党ならばだめだというのは不自然である。

 政治資金規正法第3条に規定されている「政治団体」でなく、「政治的団体」という定義不明の言葉を使う理由は何なのか。拡大解釈と恣意的運用を許すものとなっている。政治問題を取り扱う学問的研究会や政策研究会までもが禁圧されかねない。

オ 特定の政党その他の政治的団体又は特定の内閣若しくは地方公共団体の執行機関を支持し、又はこれに反対する目的をもって、あるいは公の選挙又は投票において特定の人又は事件を支持し、又はこれに反対する目的をもって、次に掲げる政治的行為をすること。

(i)公の選挙又は投票において、投票するように、又はしないように勧誘運動をすること。
(ii)寄附金その他の利益の募集又は受領に関与すること。
(iii)政治的目的を有する文書又は図画を配布又は掲示すること。
(iv)学内の施設等を利用し、又は利用させること。

 政治的活動の対象は、政党をめぐる組織的活動に限るべきである。前項で述べたとおり、「その他の政治的団体」を加えると、いかなる団体の活動でも恣意的に禁圧の対象とすることが可能になる。

 この案文の「オ」と(ii)(iii)(iv)を組み合わせると、「大学内の会議室を用いて何らかの政策問題のセミナーを行い、そこで政府もしくは地方自治体の個々の政策について賛否を論じること」までも禁止の対象となりかねない。これは学問の死であり、大学の死である。大学案は、教職員に対して、政策問題に一切口を出すなというのであろうか。

 政治的活動の規制は、公職選挙法と教育基本法に違反する場合、及び業務の正常な遂行を妨げる場合に限るべきである。

(2)公職選挙法第137条の規定に違反した場合にあっては、刑事上の処罰の対象にもなることに注意する。

 教育基本法と公職選挙法に違反する場合については、次のことを明確にする必要がある。これらの法に対する違反を、大学は独自に判断するのかどうかということである。仮に、教職員のある活動について、警察検察裁判所が教育基本法違反、公職選挙法違反と判断した場合は、自動的にそれに従うのか。逆に、大学が独自の判断で教職員のある活動を教育基本法違反、公職選挙法違反として懲戒を行うことがありうるのか、その際に、刑事上、不起訴や無罪となった場合はどうするのかということである。このあいまいな案文では、何も分からない。

5.「3 制限される宗教活動」について

3 制限される宗教活動
(1)職員就業規則第36条の「宗教活動」とは、次に掲げるものをいう。
ア 教育基本法第9条第2項に違反して宗教的活動をすること。

 政治的活動と同じく、「宗教活動」とは「宗教的活動をすること」であり、何も分からず、拡大解釈と恣意的適用を許すものである。

イ 宗教の教義を広め、又は入会、体験その他の勧誘運動をすること。
ウ 宗教上の祝典、儀式、行事その他の宗教上の行為をすること。
エ 信者の教化育成その他の宗教上の行為をすること。
オ 他人の信教の自由を不当に侵害する活動をすること。

 「イ」にどの程度の活動を含むのかがあいまいである。禁止対象は、組織だった、系統的な活動で、業務の正常な遂行を妨げるものに限るべきである。信仰を持つ個々の教職員が、親しいものに対して、日常会話の中で宗教団体の活動について肯定的な発言をしたり、集会に誘ったりする程度のことは規制すべきではない。

 「ウ」により、一切の「宗教上の行為」が禁圧されてしまう。異常な規制である。大学において、このような規制が必要となる理由は何もない。

 宗教活動を規制することができるのは、業務の正常な遂行を妨げ、業務に必要な秩序を侵害するような場合に限るべきである。他人の権利を妨げるような場合(執拗な勧誘やいわゆる洗脳)が規制されるべきことはもちろんであるが、それは法に定められた個人の権利であり、就業規則においては、精神的規定として確認する以上の必要は特にない。

(2)特定の宗教に起源をもつ活動であっても、一般人にそのことを感じさせない程度までに生活様式化又は慣行化している場合には、宗教活動に該当しない。

 「一般人にそのことを感じさせない程度」という基準はあいまいであり、恣意的適用を許すものである。例えば、ある教職員が行う祈りは宗教活動とみなされる一方、大学が地鎮祭を行ったり、天皇に関わる行事(大嘗祭や大葬の礼)の日に大学を休講にしたりすることは宗教活動ではないとされるような、恣意的なことが起こりかねない。大学の業務の正常な遂行を妨げる活動だけを禁止すべきである。仮に大学の業務を妨げない宗教活動が複数みられるときに、これらをあえて「一般人にそのことを感じさせない程度に生活様式化又は慣行化している」かどうかで選別し、処罰すべきものとそうでないものにわける理由などどこにも存在しない。

(3)本条の規定は、内心における信仰の自由を制限したり、自らの信仰に基づいて個人が単独で行う礼拝その他の宗教的信仰の表白としてなされる行為を排除したりするものではないが、いかに個人的な宗教上の行為であっても、他人の権利、利益や社会に害悪を及ぼす場合には、秩序の回復に必要な業務上の指導、命令を発することはありうる。

 3(1)ウで「宗教上の行為」一般を禁じていることと、ここで「自らの信仰に基づいて個人が単独で行う礼拝その他の宗教的信仰の表白としてなされる行為を排除したりするものではない」の関係が不明である。前者は理不尽、後者は妥当であり、併存できるものではない。

 「社会に害悪を及ぼす場合」「秩序の回復」はあいまいであり、拡大解釈と恣意的適用を許すことになる。

 また、この表現は、大学案が国家公務員法の発想に立っていることをはっきりとあらわしている。国公法や人事院規則の内容をそのまま就業規則やその運用指針に取り入れることは間違いである。就業規則第36条は公の秩序を律する法律ではなく、東北大学という雇い主と教職員という労働者との契約関係を律する就業規則である。就業規則は公の秩序を担うのではなく、国立大学法人東北大学の業務に必要な秩序を担うものであり、それ以上でもそれ以下でもない。よって、禁止の理由は「社会」や「秩序」ではなく、「業務の正常な遂行」や「業務遂行にあたっての秩序」でなければならない。業務に関係のないところで、「社会に害悪を及ぼす」として大学が職員を処罰することはおかしい。

(4)本条で禁止される宗教活動は、行為の目的、方法、結果等の外形的事項のみに着目して判断されるべきものであって、行為の基礎にある信仰、教義等の宗教的事項に基づいて判断されてはならず、いわゆる疑似宗教についても、真正であるかの判断には介入せず、およそ宗教的な活動は対象となる。

 「宗教的事項」の語が適当かどうかという点と、末尾の文脈がとれないという点で悪文である。

6.「4 正当化される場合等」について

4 正当化される場合等
(1)本条の規定は、公教育の政治的中立性及び宗教的中立性を確保するとともに本学の施設内の秩序を維持するという目的を達成するために必要な範囲内においてのみ「政治的活動」及び「宗教活動」を制約するものであることから、当該活動が、形式的には本条に該当する場合であっても、職場内の秩序を乱すおそれのない特別の事情があると認められるときは、この規定に違反するとはいえない。「特別の事情があると認められるとき」に該当するか否かは、その行動の態様、経緯及び目的、並びに行動の内容に則して判断される。
(2)本条の規定は、職員が本来の正当な職務を遂行するために当然行うべき行動を禁止又は制限するものではない。

 論理的に混乱している。「当該活動が、形式的には本条に該当する場合であっても、職場内の秩序を乱すおそれのない特別の事情があると認められるときは、この規定に違反するとはいえない」というならば、はじめから「職場内の秩序を乱すおそれがある」活動だけを指定して、禁止すべきである。これまで見てきた条項が、本来、何の問題もない活動までも禁止していることを自ら示しているようなものである。

 また、問題のない活動までも投網をかけるように禁止してしまってから、特別の事情がある場合だけは許すというのでは、役員会や懲戒審査会に過大な裁量を与えることになる。大学の役員会にとって都合の良い活動は「特別の事情がある」として認め、都合の悪い活動だけが禁圧されるおそれがあり、適切でない。まさに「政治的」な行為である。

 「職員が本来の正当な職務を遂行するために当然行うべき行動」がどこまでを含むかが明らかではない。とくに教員の場合、授業が含まれることは明らかであるが、学内研究会での発言、学外研究会での発言、市民団体のセミナーでの発言、労働法の専門家が労働組合で講演した場合、などがどうかとなると、境界は相当あいまいになる。学問の自由を確保するため、研究に関わる自主的な活動は、極力規制の対象外とされるべきである。

7.「5 懲戒手続き」について

5 懲戒手続き
 本条の規定に違反した場合には、就業規則違反として懲戒処分の対象となるが、懲戒処分を行うに当たっては、事実関係をよく確認し、違反活動を厳しく警告し、本人に弁明の機会を与えるなど、慎重な手続きを踏む必要がある。

 規程違反者について、ただちに懲戒手続きに入るのかどうかが明らかではない。人の内面の自由に踏み込む問題であるから、まずは懲戒手続きに入る前に事実確認や警告を行うべきである。

以上


就業規則第36条の運用に関する組合の提案(4/28 大学に提示)

<目的>

 この規定は、国立大学法人東北大学の職員が職務遂行の上で、公職選挙法第137条(教育者の地位利用の選挙運動の禁止)および教育基本法第8条第2項(法律に定める学校における政治教育・政治的活動の禁止)、同第9条(国及び地方公共団体が設置する学校における宗教教育・宗教的活動の禁止)の精神を尊重することを確認し、あわせて職場内の秩序維持に資するために制定される。職員の教育・研究の自由及び思想・信条の自由が尊重されることは当然であって、この規定の解釈・運用にあたってもその点に十分な配慮をしなければならない。

<定義>

  1. 禁止の対象になる政治的活動とは、特定政党を支持し、または攻撃することを主要な目的とした組織的活動のことである。職員が、個々の政治的争点や政策について意義や是非を論じることは規制されない。

  2. 禁止の対象になる選挙活動とは、国政選挙・地方選挙において、ある候補者を当選させるために選挙人に働きかける組織的行為のことである。職員が選挙の意義や見通しを論じることは規制されない。また、職員相互の自然なコミュニケーションの中で、選挙における候補者の支持・不支持が話題となることは規制されない。

  3. 禁止の対象になる宗教活動とは、特定の宗教に対する信仰を広めようとする組織的活動のことである。信仰について論じることは規制されない。また、日常生活において自らの信仰を、その自然な表現として発露することは、その表現方法が業務の正常な遂行を妨げず、他の職員の権利を侵害しない限りにおいて規制されない。

<職員の業務との関係>

  1. 職員は教育基本法第8条第2項、第9条第2項、公選法第137条に反しない限り、研究・教育活動において選挙や政治や宗教に関わる問題を論じることを妨げられない。

  2. 前項における研究・教育活動は、厳密な意味での業務のほか、専門的見地からの自主的なセミナーや意見発表、研究団体の設立などを含むものである。

<労働組合活動との関係>

  1. 労働組合は、大学施設内における正当な活動の一貫として選挙・政治・宗教に関わる問題を論じ、政府や大学の方針に対する一定の見解と方針をもって活動することを妨げられない。

<大学の基本姿勢>

  1. 大学は、職員に対して、選挙に対する態度、政治的信条、信仰を理由とする差別的な取り扱いを行わない。

  2. 大学が、職員の活動が選挙活動その他の政治的活動及び宗教的活動にあたるおそれがあると判断した場合、まず当該職員と誠実に協議して解決を図る。


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