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法人側提案に対する見解

2006年2月14日
国立大学法人東北大学職員組合賃金・人事制度検討委員会

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[1]「本学職員の給与の取扱いに関する基本方針」について

現在、法人側は「本学職員の給与の取扱いに関する基本方針」(以下「基本方針」)を提示して、2005年人事院勧告・給与法改正に追随する形で、2006年4月1日から給与の改定を行おうとしています。その柱は、給与改訂を行って基本給引き下げ・一時金引き上げを行うこと、給与構造改編を行い、基本給の大幅引き下げ、調整手当の廃止と地域手当の新設を行うことです。私たちは、これらの給与改訂に反対します。人事院勧告に追随して東北大学の給与水準を引き下げることには、まったく合理性がないことを、私たちは昨年8月以来、繰り返し指摘してきました。その理由は要約すると以下の通りです。

  1. 給与構造改革による損失額はきわめて大きいものです。定年まで勤務した場合の所得を現在の制度で予想されるものと比べると、現在45歳の教授は770万円程度、現在40歳の係長は710万円程度の損失となります(基本給、調整手当、地域手当、退職手当のみ考慮)
  2. 東北大学事務職員の平均給与水準は国家公務員行政職(一)の86%に過ぎず、高すぎるということはまったくありません。
  3. 東北大学教員の平均給与水準は私学教員の給与より低く、教授が私学の92.3%、助教授が私学の91.3%に過ぎません。
  4. 東北大学は昨年度黒字を計上しており、給与引き下げを行わなければならない財政状態ではありません。
  5. 人事院勧告・給与法改正に追随しなければ運営費交付金が減額されるということはなく、この意味でも引き下げを行わねばならない財政上の必要はありません。
  6. 人事院勧告による給与構造改編は、地域間の給与格差を拡大するものであり、これに追随することは東北大学での人材採用・育成に逆行します。

こうした、根拠ある警告にもかかわらず、法人側が人事院勧告に追随する「基本方針」を提示したことはきわめて遺憾です。しかも、法人側は組合の指摘に対して、「基本方針」でも団体交渉の席上でも、合理的な反論を何ら行っていません。寒冷地手当の削減・廃止のときと同様に、法人化のメリットであるはずの経営の自主性を放棄した態度であると言わざるを得ません。したがって、私たちは、「基本方針」にまったく納得することができません。当面、法人側に対して以下のことを求めます。

1.「基本方針」をいったん撤回し、今後の給与システムについて自主的に検討して、教職員に提示すべきです。

2.法人移行にあたっての教職員の労苦に正当に報いるために、3月15日頃までに期末手当0.1月分を復活して支給すべきです。

3.「基本方針」をなお主張するのであれば、本学2004年度決算の黒字分(当期利益11億3000万円)と、今回の給与改定により生ずることとなる資金の使途について、教職員に説明すべきです。

[2]65歳までの継続雇用について

◇基本的な考え方

高年齢者雇用安定法に基づき、65歳までの継続雇用のシステムを整備しなければならなくなりました。この制度の精神は、年金支給開始年齢の引き上げに伴い、支給開始年齢に至る前に、年齢を理由として雇用が打ち切られることがなくなるようにすることであり、この趣旨に従った誠実な制度設計が求められます。

現在、法人側が提示している「65歳までの継続雇用システム(案)」(以下、法人案)について、私たちは以下のように考えます。

◇原案提示の遅さ

この制度を4月1日から実施しなければならないことはわかっていたにもかからず、組合への提示が1月末とたいへん遅かったことは遺憾です。今後、学内での議論と合意形成を短期間に充実した内容で行う責任が、法人側にはあります。

◇法改正への対応による当然増としての運営費交付金の要求

継続雇用制度によって、大学財政における人件費が増大するかもしれません。それは、法改正への対応による当然増であって、やむをえないことであり、このことを理由に大学の財政が脅かされることは不合理です。よって、運営費交付金の当然増を求めるべきです。

徳重理事が文部科学省に問い合わせたところでは、民間企業も自己負担で対応しているのに、国立大学法人だけに財政措置することはできないと回答されたそうです。しかし、国立大学法人は民間企業ではなく、法人化は民営化ではありません。その運営に当然必要な資金は運営費交付金で手当するというのが独立行政法人の考え方です。文部科学省の回答は独立行政法人制度を理解しないものです。

また、今後、民間企業と同様に、国家公務員に継続任用制度が導入されることも考えられます。その場合は、人件費は当然に国家予算から措置されるでしょう。国立大学法人に対しても措置しておかしいことは何らありません。

◇教員について

  1. 定年を引き上げるのか、評価に基づく再雇用や勤務延長などの制度をとるのか、法人案はまだ提示していません。このこと自体が、たいへん遺憾です。
  2. 私たちは、少なくとも63歳という現行の定年年齢を引き下げるような再雇用・勤務延長案には反対します。それは今回の法改正趣旨に逆行して、雇用を不安定化するものです。定年年齢が63 歳以上になることを前提として制度設計すべきです。
  3. 定年引き上げを行う場合、63歳で早期退職しても不利益を蒙らないように、退職手当の制度改正を行うべきです。具体的には、63歳以後の早期退職については、現行制度での63歳定年退職と同率で計算された退職手当を受け取れるようにすべきです。

◇事務職員・技術職員について

1.事務職員や技術職員について、現在の60歳定年制を維持したうえで、それに加えて65歳までの継続雇用制度(再雇用制度)を導入することは、少なくとも当面は現実的な対応策だと考えます。ただし、今後、定年の延長についても検討すべきです。もちろん、その際も、60歳で早期退職しても退職金が従来の定年退職の場合と同等になるようにすべきです。

2.制度改正の趣旨から言って、再雇用を希望する職員については、原則として全員を雇用すべきです。この点から見て、法人案には2つの問題点があります。

  1. 法人案は、再雇用制度対象者の基準として、「直近3年間において、昇給及び勤勉手当に係る勤務成績の判定基準に照らし、「良好(標準)」を下回る場合に該当する事実がないこと」とあります。直近3年間において、1度でも「良好(標準)」を下回れば再雇用されないというのは、厳しすぎます。「良好(標準)」を下回るのは、現行制度では「懲戒処分等を受けた場合」です。懲戒処分といっても色々あります。過去において「良好(標準)」を下回ったということは、免職にならない程度の処分を受けたということであり、定義上、その人の行為の問題性は雇用を打ち切るほどの重大なものではないということを意味します。にもかかわらず、これを理由に再雇用しないというのは行き過ぎです。また、現在法人側が提案している人事評価システムでは、「良好(標準)」に相当する区分は「B」と思われますが、これを下回る評価は「C」と「D」の二通りあります。すると、最低ランクではない「C」であっても再雇用されないということになります。これは、現行制度に比べてもなお行き過ぎです。ある行為を、一方では雇用を打ち切るほどではないとしながら、他方では雇用を継続しない理由にするのは評価の一貫性を欠いています。訴訟となった場合に、法人側は正当性を主張できないでしょう。
    また、「下回る場合に該当する事実がないこと」というのは曖昧であり、具体的な判定の場面で「良好(標準)」を下回る記録がないのに、恣意的に「それに該当する」とみなされる危険があります。
  2. 法人案は、「再雇用職員の従事する業務を遂行するのに必要な能力、資格等を有している者であること」と述べています。これは、基準になっておらず、厚生労働省の「改正高年齢者雇用安定法Q&A」が戒める類のものです。
    徳重理事は、「必要な能力がなければならないのは当たり前のこと」と繰り返し発言しています。しかし、何に必要な能力なのかが明確でなければなりません。とくに、再雇用の際は、就く職務が変わることもありうると想定されています。あらかじめどのような職務に就くのかが明確にされた上で、「必要な能力、資格等」を問うのでなければ意味がありません。そのルールが一切明示されていないので、恣意的な選別が行われるおそれがあります。
    法人案では、再雇用の希望は定年1年前に確認することになっています。私たちは、この時点で再雇用後の職務を明示し、当人の希望を尊重しつつ、能力・適性に合った職務に就けるよう配慮すべきだと考えます。当初提示された職務では困難がある場合には、法人側は別の職務を提示してマッチングに努力すべきです。65歳までの雇用の機会を確保し、適切な仕事配分を行うのが法人側の責務だからです。このようなマッチング・ルールを明示することを求めます。

3.給与水準について、法人側のおおまかな想定では、フルタイムの再雇用職員について、東北大からの給与、部分年金、雇用保険の高年齢継続雇用給付をあわせて、59歳時の60%の所得とすることを想定しています。

私たちは、職務に応じて、適切な水準を維持するのが原則であるとともに、大学の財政事情に応じて現実的な対応をとることはやむをえないと考えます。法人案は、給与水準と大学財政への影響の関係を明示しておらず、また職務の軽減度についての提案が具体的ではないため、提案されている給与水準の根拠が不明です。なお情報を公開した上での検討の余地があると考えます。

4.雇用期間について、法人案では契約期間を1年として、1年ごとに更新するとしています。しかし、1年契約とすることに何ら合理的理由はありません。65歳までの雇用の機会は、60歳までと同水準の安定性をもって保証されるべきです。したがって、期間の定めのない雇用とした上で、年金支給開始年齢をもって退職する制度とすることが合理的です。

5.法人案は、長期に勤続している准職員や時間雇用職員について、何ら触れていません。これらの職員についても、再雇用制度の対象に含めるべきです。長期に勤続している准職員や時間雇用職員の雇用を打ち切ることは、正職員を解雇することと同様の意味を持っています。したがって、長期勤続の准職員・時間雇用職員についてのみ、60歳で雇用打ち切りとすることは差別的です。「改正高年齢者雇用安定法Q&A」でも、「有期雇用契約者に対する雇い止めの年齢についても、改正高年齢者雇用安定法第9条の趣旨を踏まえ、段階的に引き上げていくことなど、高年齢者雇用確保措置を講じていくことが望ましい」とされています。なお、この点で法人側が作成した労使協定案が、対象を正規職員に限った文言となっていないことには注目しています。

6.雇用保険の高年齢者雇用継続給付の活用について、加入期間が不足している職員について本学の負担による暫定手当を支給することについては、制度の公平さを保とうとする法人側の見識を評価いたします。

なお、高年齢者雇用継続給付を受けるための雇用保険加入期間が不足する職員がいることは、非公務員型法人化に伴う不可避の現象です。大学にも本人にも何ら責任のあることではありません。これは制度設計のエラーとして、政府が責任を負うべきです。したがって、前述した、継続雇用制度全体に関する運営費交付金増が獲得できない場合であっても、大学は政府に対してせめて暫定手当財源に相当する分の運営費交付金増額を求めるべきだと考えます。

[3]事務系職員等の人事評価システムについて

現在、大学は「事務系職員等の新たな人事評価システムに関する基本方針(案)」(以下法人案)を提示して、現行の勤務評定制度にかわる人事評価システムを構築しようとしています。これに対して、私たちは以下のように考えます。

◇基本的な考え方

1.組合は、あらゆる人事評価を排除するような見地はとっていません。しかし、人事評価は常に公正なものでなければならないと考えています。とくに、日本国憲法が定めた基本的人権をベースとするコンプライアンスの徹底、透明性、納得性が重要です。

2.まず、人事評価を何のために行うのかについて、よく考えることが必要です。大学として、よいパフォーマンスを発揮するという組織の目的のために、職員への適切な仕事の配分や報酬の支給、インセンティブの付与が必要になることは理解できます。その一方で、教職員の労働意欲の向上および職場の相互理解の増進も重視されなければなりません。このことを忘れると、「とにかく差を付けることが大事なんだ」という一面的な目的に偏った人事評価となり、ぎすぎすした、暗い職場となります。それは結局は大学のパフォーマンスの悪化にもつながります。

日本における民間企業の人事評価の経験から、教訓をくみとることも重要です。人事評価には、企業による職務を超えた社員の全人格的な支配、性別や思想・信条による差別という負の側面があることは、歴史が証明しています(遠藤[1999] 、鈴木[1994] ほか)。同じ問題を起こさないように細心の注意を払わなければなりません。

◇改革の方法について

1.私たちは、現在の勤務評定制度には公正さが欠けていると考えており、改革の必要性という点では法人側と問題意識を同じくする部分もあります。

2.しかし、大がかりな人事評価システムを導入することについては、内容は別としても危惧があります。評価作業そのものがあまりに煩瑣になり、評価業務におわれて疲弊したり、肝心の業務に支障をきたすのではないかということです。これは常識ですが、部局評価や大学評価の現状を見ると、また今回の法人案を見ると、こうした事態が危惧されます。

公正さを保つためにはさまざまなしくみが必要です。ですから、後述するように、法人案を実施しようとするならば、私たちは改善策を求めざるを得ません。その一方、必要以上に煩瑣なシステムも結局は職員と大学のためになりません。組合は公正さを犠牲にするべきではないと考えますが、公正さを守りつつ、できるだけ簡素にする必要があると考えます。

例えば、新しい人事評価システムを丸ごと導入するのがよいのか、現行の勤務評定制度において問題のある部分を重点的に改革する方がよいか、よく検討する必要があると思います。

3.以上の観点を前提として、法人案の内容に対するコメントを述べます。

◇目的と理念について

1.人事評価システム導入の目的として、教職員の労働意欲の向上および職場の相互理解の増進を目的とすることを明確にうたうべきです。

人事査定制度の国際比較によれば、アメリカでは査定制度の主要目的に上司と部下のコミュニケーションの促進がある一方、日本ではこれがまったく意識されていません。このことは、査定の公開性をどれほど重視するかの違いにもつながっています(遠藤[1999] 75-78 頁)。コミュニケーションが目的であれば、公開性は当然に必要だからです。

2.日本国憲法第14 条と、労働基準法、男女雇用機会均等法の各条項に誠実に則り、性別や思想・信条による差別は絶対に行わないことを明確にすべきです。また、労働組合法の趣旨にのっとり、不当労働行為を行ってはならないこと、労働組合員を差別してはならないこと、職場での正当な労働組合活動を妨害してはならないことを明確にすべきです。このことを評価者研修で常に徹底し、具体化すべきです。例えば、「男女に違う基準を適用していないか」、「組合員であることから類推して評価していないか」、「業務に関係ない外見の印象を評価基準にしていないか」などを問い返す研修をして、差別的運用をしないための最大限の努力をすべきです。

◇評価要素について

1.法人案では、評価要素が能力評価、職務遂行過程評価、実績評価の3要素となっています。そして、職種とキャリア・アップに応じて評価要素を組合せ、実績評価は課長クラス以上にのみ、能力評価は課長クラス以下のみに適用されるとしています。現時点でコメントすべき点は以下の通りです。

  1. 従来の勤務評定には、恣意的な評価や、仕事と無関係な要素の評価になりやすい「性格評定」がありました。これを廃止することは評価できます。
  2. 能力評価や職務遂行過程評価の基準が、職務の種類に関係なく一律のものとして設定されています。そして、職務内容に関係なく、「課長クラス」、「係員クラス」などといった職階に対する「役割」と期待される「能力」、「評価指標」が設定されています。これでは職階上の役割に解消できない能力、とくに専門職員や技術職員、図書館職員の能力を適切に測定できないと思われます。混乱と恣意的評価を誘発するでしょう。職階上の役割に期待される能力と職務遂行能力の評価は異なっており、両者を混同してはいけません(木下[1999] 175-178 頁)。評価基準は、職階ではなく、職務の種類・性質にもとづくものであるべきです。
  3. 能力評価については職務遂行能力について、具体的な能力・行動を明示し、能力の発揮度合いを的確に測定し、公正に評価するとしています。あいまいなままに人格や性格を問題にするのではなく具体的な能力・行動を明示し、潜在能力ではなく能力の発揮度合いを測定するという姿勢は評価できます。民間企業が査定を効果的で公正なものにするために取り入れているコンピテンシーの手法と同じ考え方と思われます。

しかし、実施されようとしている具体案には問題があり、建前と大きく乖離する結果になるおそれがあります。

まず、前述したように、職階に基づいて職務遂行能力を定めていることです。これは、職務の実態と見合っておらず、具体的ではありません。

次に、能力評価と職務遂行過程評価の違いがはっきりしないことです。職務遂行過程評価では、仕事の中で発揮される、目に見える能力や行動特性がそれなりに明示されようとしています。コンピテンシー評価の考え方はそれなりにとりいれられています。これを充実させれば能力評価は要らないはずです。ところが、法人案では能力評価が別にあります。仕事で発揮された能力を測るならば、職務遂行過程評価と重複してしまいますし、現にいくつかの項目が重複しています。また、仕事の中で発揮されていない潜在能力を、上司が推し量って評価するならば、もともとの理念と異なりますし、民間企業の事例が示すとおり、恣意的な点数付になりかねません。繁雑な作業と混乱、そして恣意的評価を誘発するでしょう。

この問題を解決するには、前述の通り職務の性質に応じた評価基準を定めることと、能力評価を職務遂行過程評価に統合するとともに、評価指標を、真に仕事に関連性のあるものとして充実させていくことでしょう。

2.職員に対する評価結果のフィードバックを行うとしたことは評価できます。なお、本人への評価結果のフィードバックを確実とするために、文書を本人に交付する方法によって行い、かつ、本人署名による受領確認を義務づけるべきです。さらに、この受領確認は、評価内容を本人が承認するという意味ではなく、評価の通知を受領したということのみの確認であることを、文書に明記しなければなりません。

なお、アメリカでは、査定結果を従業員が見ていないと査定は差別的とされる判例が確立しており、企業の査定表には、おそらくその全部に従業員の署名欄があるといいます(遠藤[2001] 18-20 頁)。参考にすべきでしょう。

3.複数の評価者を置くことについては、重大な疑問があります。一次評価者と二次評価者を置くとしていますが、二次評価者は誰を評価するのでしょう。二次評価者が対象者を(例えば理事・副学長が本部課長等を)日常的に監督・観察し、直接評価するというのは無理なことです。合理的な評価ができるとは思えません。現在の勤務評定では、二次評価者が、一次評価者の評価者を調整しており、私たちはこれを望ましいとは思いませんが、二次評価者が何をしているのかはわかります。しかし、今回の法人案では二次評価も絶対評価です。対象者の直接評価も不可能、調整もしないというのでは、二次評価とは何なのでしょうか。この点は不可解であり、また不必要に制度が煩瑣になっていると考えられます。

4.複数の評価者という点に関わって、法人案では触れられていませんが注意すべき点があります。職員が配置転換になって別の部署に配属された場合、また上司が配置転換になって新たな上司が来た場合に、ある職員に対する過去の評価結果を現在の上司が参照できるようにしてはなりません。もし参照すると、過去の評価結果に引きずられて、いったん高い結果がついた者はいつまでも高く、いったん低評価の烙印を押された者はいつまでも低くなるという結果が生じます。この場合、複数の上司が長期にわたって評価することが、評価のエラーを累積させる結果になってしまうのです(遠藤[2001] 6-9 頁)。

したがって、評価者の独立性を保証するために、ある職員の過去の、別の評価者による評価履歴について、現在の評価者は参照できないようにすることを要求します。

5.評価者とは逆に、職員は、自分自身の評価履歴についてはいつでもさかのぼって参照できるようにすべきです。その際、上司に気兼ねなく参照できるしくみを考えるべきでしょう。

6.一次評価を絶対評価としたことは適切です。最終決定に分布制限が入るのは、現行制度ではやむを得ないところですが、評価の本来の精神から言うとおかしいことをはっきりさせる必要があります。優れているものは優れているものとして、人数制限なく絶対評価しなければならないからです。

現行の、もしくは現在提案されている給与制度改定案での昇給、昇格、勤勉手当の基準から言えば、分布制限自体はさほど重大な問題を引き起こさないでしょう。昇格については、職務の級別の人数が定められている限りでは、相対評価はやむを得ません。また昇給と勤勉手当については、「良好」という標準的なレンジに達することのできる人数が制限されていない限りは、深刻な問題を起こさないかもしれません。しかし、もしも制度変更によって、昇給や勤勉手当において、標準的なレンジに分布制限がもちこまれるならば、この人事評価システムはきわめて不公正となります。こうした変更を行わないように、あらかじめ警告しておきます。なお、分布制限は日本では比較的認められているものの、アメリカでは違法に近いとみなして採用しない企業が多く、連邦政府公務員の査定制度においては禁止されています。この点も参考にすべきでしょう(遠藤[1999] 89-96 頁)。

7.評価者研修の内容について公開するとともに、その改善について組合と継続的に協議すべきです。

8.現在の昇格状況、職位別男女別在籍者数の現状は、昇格における男女差別が行われているのではないかと疑わせるものです。昇格者の性別構成について毎年度調査し、昇格者にしめる男女の不均衡がある場合は、その理由を検討して公表すべきです。

◇今後の方向性

組合は、法人案には上記のように問題が多く、公正なものとするためには様々な改善が必要と考えます。

今後については、法人案を改善していくことも考えられます。しかし、それでもかなり複雑なシステムであり、評価業務に追われる結果を招くかもしれません。これを避けるために、現在の勤務評定制度の問題点を、公正さという観点から重点的に改革するという方法もありうるでしょう。

私たちは、現行制度の改革を行う場合は、以下の点に重点を置くべきと考えます。これまで指摘したことと重複するので、要約的に記します。詳しくは、該当箇所に記したとおりです。

  1. 性格評定のような、仕事自体と無関係の、恣意的評価につながりやすい要素をなくす。
  2. 評価の指標を、より具体的で仕事内容に密着したものに改善する。
  3. 評価者訓練を行う。その際、憲法、労基法、均等法、労組法をはじめとするコンプライアンスを徹底する。
  4. 評価結果のフィードバック、書面による通知と受領確認を行う。
  5. 男女共同参画を推進するために、昇格者の性別構成について毎年度調査する。
  6. 評価のあり方について、労使でたえずチェックと検討を行う。

<参照>

鈴木良始[1994] 『日本的生産システムと企業社会』北海道大学図書刊行会。
遠藤公嗣[1999] 『日本の人事査定』ミネルヴァ書房。
遠藤公嗣[2001] 「人事査定は公正か」(上井喜彦・野村正實編著『日本企業 理論と現実』ミネルヴァ書房)。
木下武男[1999] 『日本人の賃金』平凡社。