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声明
「国家公務員の給与の改定及び臨時特例に関する法律」の成立を強く非難し、その即時廃止を求める

 さる2月22日、民主・自民・公明の3党が議員立法として「国家公務員の給与の改定及び臨時特例に関する法律」案を国会に提案した。この法案は翌2月23日に衆議院総務委員会においてわずか3時間の審議で可決、同日午後の本会議でも可決されて、さらに2月29日の参議院本会議においても可決され、異例の速さで法律が成立してしまった。この法律は、国家公務員に対して①2011年人事院勧告どおりに俸給表を改定し(第2条)、2011年4月に遡って本俸を平均0.23%引き下げ、②2011年度分の減額は、2012年夏期の期末勤勉手当で実施(附則第6条)、③2012年4月から2年間、人事院勧告分を含め給与を平均7.8%減額(第9条)することを主な内容とするものであり、文字通り「国家公務員大幅賃下げ法」の名に値する悪法にほかならない。

 すでに2011年6月3日に当時の菅内閣が「国家公務員の給与の臨時特例に関する法律案」を閣議決定して政府提案として国会に提出したが採決に至らず継続審議となっており、上記法律が成立したことにより取り下げられた。この政府提出法案に対しては、国家公務員の職員団体(労働組合)の合意を得られていないことのほかに、それが国家公務員法第28条第1項、同第2項の明文に反して人事院勧告によることなく公務員の給与を削減する内容であったことから「違憲である」との見解が人事院、自民党を含む野党、さらに労働団体をはじめ諸方面から出されていた。その主な論拠は、この法案が、国家公務員法による公務員への労働基本権制約(争議行為の禁止)が憲法第28条に違反しないと判示するにあたってその根拠を「(公務員の)労働基本権を制限するにあたっては、これに代わる相応の措置が講じられなければならない。」「法は、…代償措置として身分、任免、服務、給与その他に関する勤務条件についての周到詳密な規定を設け、さらに中央人事行政機関として準司法機関的性格をもつ人事院を設けている。」「人事院は、公務員の給与、勤務時間その他の勤務条件について、いわゆる情勢適応の原則により、国会および内閣に対し勧告または報告を義務づけられている。」(1973年4月25日、「全農林警職法事件」最高裁大法廷判決)として人事院の存在と人勧の役割を極めて重視した判例に反しているというものであった。

 しかるに、今回成立した「国家公務員の給与の改定及び臨時特例に関する法律」とは即ち2011年人事院勧告と菅内閣が提出した政府提出法案とをセットで実施するという内容であるに過ぎず、前年度人勧による賃下げを2011年4月に遡って行い、2011年内に支払われた給与との差額を2012年夏期の期末勤勉手当のカットによって回収し、しかも、それに加えて平均7.8%もの賃下げをこの法律をもって行うという過酷極まりないものである。たとえ前年度のマイナス人勧を実施することをそこに織り込んだとしても、2012年以後は人勧の内容にかかわらず法律で平均7.8%もの賃下げを行うとする以上、それは上出最高裁判例に反することにおいて上出政府提出法案と何ら変わりがなく、その違憲性の程度は少しも減殺されないどころかむしろ強まっていると言わねばならないのである。

 東日本大震災から1年を迎えるにあたって、最近、震災後に自衛隊が果たした役割ばかりが大きく喧伝され、今回成立した「国家公務員の給与の改定及び臨時特例に関する法律」においても自衛隊員ほか防衛省職員給与法適用者についてのみ「6ヶ月を超えない範囲内で政令で定める期間における給与減額支給措置の適用について、政令で特別の定めをすることができる。」とされている。しかしながら、3・11東日本大震災後に人命救助、遺体捜索、被災者支援および生活基盤の応急的立て直しを実施するにあたって文字通りの地獄絵の中で粉骨砕身の働きをしたのは自衛隊ばかりではない。自らも被災しながら休むことなど一切できずに働いた被災地自治体の職員も、被災地にある国の行政機関の国家公務員も、また、被災地外から派遣されてきた国家公務員、消防職員、警察官をはじめとする自治体職員、国公立病院医師・看護師等も同じであり、また、民間人である地元消防団員をはじめとする被災住民自身の平時には考えられないような自助努力と団結・協力があってはじめて被災地は復興に向けての第一歩を踏み出すことができたのである。このことを、全員が被災者である我々東北大学職員組合の組合員は自らの目で見てよく知っている。

 今回成立した「国家公務員の給与の改定及び臨時特例に関する法律」は、その第1条で「東日本大震災に対処する必要性に鑑み」と謳いながら、被災地在勤の国家公務員をそれ以外の国家公務員と一切区別せずにその給与を大幅に削減するものであり、自らも被災しながら懸命に働いた国家公務員の給与を震災直後に遡って大幅削減するという恐るべき暴挙であって、まさしく被災公務員の「傷口に塩を擦り込む行為」と呼ぶべき蛮行である。

 また、ただでさえ震災で大きな出費を強いられた被災地の公務員の購買力がこの悪法の実施によって極度に落ち、それが瓦礫の中の茫然自失状態からようやく立ち上がりつつある被災地に景気のさらなる悪化をもたらし、デフレに拍車をかけ、ひいては民間企業の従業員や農家の人々を苦しめることも被災地に住む我々にとっては容易かつ明らかに予想される事態である。

 東日本大震災とは「千年に一度」と言われるほどの天災であり、その規模と被害の大きさゆえに、被災住民を助け、被災地を復興させるための費用は全国民によって負担されること以外にはあり得ない。また、地震と津波に続いて起こった東京電力福島第一原発の事故とは東京電力株式会社という営利企業の津波軽視および緊急電源確保に関する見通しの甘さと怠慢によって引き起こされた人災であって、それにかかわる事故処理費用と損害賠償責任は全面的に東京電力(株)が負わねばならない。いずれにせよ、そもそも国家公務員の給与を大幅に削減して震災復興に当てるという考えはいかなる根拠も持ち得ないのである。

 我々東北大学職員組合は、かかる稀代の悪法を僅か3時間の実質審議をもって採決し、成立させてしまった国会と、特にそれに賛成した諸議員の被災地事情に関する無知と憲法無視を強く非難する。そして、この悪法に賛成した国会議員各位には猛省をし、その即時廃止に向けて動くよう、被災地最大の国立大学の教職員からなる労働組合として強く要請する。

 また最後に、この法律に「地方公務員の給与については、地方公務員法及びこの法律の趣旨を踏まえ、地方公共団体において自主的かつ適切に対応されるものとする。」(附則第12条)とあることについて若干言及するが、いかに悪法といえども、この条文を「この法律が定める給与削減を被災地の地方公務員に対して準用せよ」との意味で解釈する必要はない。震災復興に向けて激務に取り組まなければならない地方公務員のこれまでと今後の労苦に報いるために、被災地の地方公共団体の長におかれては地方自治の本旨に従って「自主的かつ適切に」自らの有する予算編成権を行使され、また、地方議会議員各位におかれてもそうした地方公務員の労苦を十分に考えに入れつつ予算および条例の審議にあたってくださるよう強く要望する。

2012年3月21日

東北大学職員組合


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