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井上明久総長の職務専念義務違反および総長のユニバーシティプロフェッサー 就任手続上の重大な瑕疵を理由とする総長解任要求についての要請

国立大学法人東北大学総長選考会議 委員各位

平成16(2004)年4月の法人化後、東北大学に設置された総長選考会議は、学内構成員の選挙による総長の選出方式を否定し、選考会議が総長を選ぶ方式を制定しました。当時、私たち東北大学職員組合をはじめ多くの大学構成員の、学内構成員による選挙を求める強い反対意見を押し切って現行総長選考制度の制定を進めた小田滋学長選考会議議長(当時)は「法人化で重み増すトップの役割」「選考会議で適材選出」を題打った記事を寄稿しています(添付資料1:平成17年2月19日付 日本経済新聞)。小田氏はこの寄稿で、「この方式によって、この大学の内外、国の内外、あるいは学界にとらわれない所から、真に適材を求めることができる」と述べ、また、「ただし、この学長選考方法が有意義であるためには、学長選考会議の責任は極めて重い」とも付言しています。この現行総長選考制度によって初めて選出された総長は、現職の井上明久氏です。総長選考会議の責務は、井上総長の総長としての職務の遂行、義務、執行を常に評価・判断し、何らかの瑕疵が認められるときにはそれを正すことにあります。

東北大学職員組合は、平成23年3月に公刊された『東北大総長 おやめください 研究不正と大学の私物化』(日野秀逸ほか著、社会評論社)や過去の大学当局との団体交渉の席上での理事らの発言より、井上総長には職務上、三つの疑義(1.被選考資格の無い者をユニバーシティプロフェッサーとして選考した疑い、2.総長のユニバーシティプロフェッサー就任による職務専念義務違反の疑い、3.一副学長に対する異常な高給付与の疑い)があると考えています。これらの疑念は単に推測の域に留まっているわけではなく、職員組合が独自に情報を収集した結果、井上総長の行為は学内規則に違反している可能性が極めて高いと考えています。本要請は、特に井上総長のユニバーシティプロフェッサー就任に伴う総長の職務専念義務違反の疑いならびに井上総長のユニバーシティプロフェッサー就任手続きの瑕疵について職員組合がこれまでに収集した資料に基づき説明を行い、委員各位に疑義の妥当性について評価をお願いするとともに、「国立大学法人東北大学における総長候補者の選考及び総長解任の申出に関する規程」第8条第2項に規定された井上総長の解任申出について、総長選考会議としての判断と審査を要請するものです。

残念ながら東北大学はトップ30を目指すどころか、まったくランキングの向上が認められていません(添付資料2:世界大学ランキング)。それどころか、ARWUでは2010年に名古屋大学に抜かれています。「研究第一主義」「世界リーディング・ユニバーシティに向けて」の旗は空しくたなびき、井上総長による東北大学の舵取りは成功したとはいえない状況にあります。東北大学は開かれた大学を標榜し、また、国民の税金を原資とする運営費交付金を主たる収入源として運営されている国立大学法人なのですから、規則違反や手続き上の瑕疵であることが疑われる行為に対して合理的、説得的に説明し、疑念を解消する責任があります。「総長に対するチェック機能が弱いこと」(『中央公論』平成24年2月号「特集―大学改革の混迷」)は未だに国立大学法人制度の欠点として指摘されている懸案であり、東北大学の自浄能力を示し、大学運営の正常化を図り、今後の東北大学のありうるべき姿勢を示すためにも国民が納得できる意思表示をお願いしたいと思います。「この(=現行)学長選考方法が有意義であるためには、学長選考会議の責任は極めて重い」(小田滋初代議長)とされた総長選考会議におかれましては、総長の選考と解任に関する最終意思決定権限を持つ唯一の機関としての見識に照らしてこの危機的事態を認識され、英断をふるってくださることを切に願っております。

2012年3月6日

東北大学職員組合
執行委員長 駒井三千夫


1.井上明久総長の職務専念義務違反について

国立大学法人東北大学総長の職務は厳密には規定されていません。しかしながら文部科学大臣から直接任命される法人の長であり、総長就任にあたり教授職を解かれ、指定職8号俸相当の給与を得る地位であるからには、組織運営を司る行政職のトップであることは間違いないでしょう。平成18年11月6日井上総長就任の前年、時の東北大学総長選考会議は総長の任期をそれまでの4年+再任2年から、6年に変更しました。その際、平成17 年3月14日付け「国立大学法人東北大学の総長選考等に関する規程が制定されました。」という文書(添付資料3:別添の平成17 年1月24 日付「総長の任期に関する規程」、および、「総長候補者の選考及び総長解任の申出に関する規程」を含む)を公表し、「以上の手続を経て文部科学大臣から任命された総長には、本学のリーダーとして一定の期間全力を傾注してその職責を果たしてもらうため、総長の任期は6年間とし、再任は認めません。」と、新しい制度の4つの要点の一つとして再任(評価)をなくす理由として「全力を傾注して」総長職を全うすることを明記しました。

このような状況の中、新しい総長選考規程のもとで選ばれた井上総長は、就任直後の平成19年3月1日、それまで「招へい候補者」の対象外であった自分自身が対象者となるようにユニバーシティプロフェッサー選考の規程を変更し、その新たな規程にすら書かれていない手続きで同日の役員会において自分をユニバーシティプロフェッサーに任命しました(添付資料4)。この手続きの瑕疵につきましては後述しますが、ユニバーシティプロフェッサーは明らかに教育職(上位の教授職)であり、行政職のトップが教育職を兼任することの是非が問われるべき問題であると指摘できます。

科学研究費補助金データベースによりますと、井上明久総長は総長就任以降の平成20(2008)年度(~平成23年度)に研究代表者として科学研究費補助金を受け取っています(ちなみに、東京大学総長小宮山 宏氏(総長就任は平成17年4月)は平成17年度以降、濱田純一氏(同平成21年4月)は平成19年度以降、大阪大学前総長鷲田清一氏(同平成19年8月)は平成19年度以降、科研費を受け取っていません)。また、井上総長はユニバーシティプロフェッサーとして平成20(2008)年度は52日(12回)、平成21(2009)年度は40日(16回)と、総勤務日数の5分の1強も国内外に出張し、東北大学を留守にしています(添付資料5)。これほどまでに教育研究活動に従事している実態に鑑みて、果たして行政職トップである総長職に専念したと言えるのか、甚だ疑問です。

さらに、「国立大学法人東北大学ユニバーシティプロフェッサー制度に関する要項(平成20年7月22日総長裁定)」(添付資料6)付則第2項によると、井上総長は、要項制定の日以降、「短期ユニバーシティプロフェッサー」に就任しています。「ユニバーシティプロフェッサー制度の取扱いに関する申合せ(平成20年7月22日役員会決定)」(添付資料7)によれば本学役員がユニバーシティプロフェッサーに選考された際には「本学の研究教育等に携わるに当たっては、役員としての職務遂行に支障をきたさないよう努めなければならない。」と定められていますが、一方で、要項(添付資料6)によりユニバーシティプロフェッサーは「長期にわたり恒常的に本学の価値向上に寄与する教育研究活動に従事することができる者」、または、「一定の期間にわたり恒常的に本学の価値向上に寄与する教育研究活動に従事することができる者」であることが条件となっています。ユニバーシティプロフェッサーに就任することは、必然的に長期にわたって、または、一定の期間、総長の職務ではない教育研究活動を行うことになりますので、これだけでも総長がユニバーシティプロフェッサーを兼務できるわけがないことは明らかです。

以上に述べたように、現総長井上明久氏は、教育職であるユニバーシティプロフェッサーとしての職務を約5年間、総長任期の約9割もの長期にわたって継続的に遂行し、今年度に至るまで科研費の研究代表者を務め続け、しかも年度によっては総長の職責の重さを顧みず総勤務日数の5分の1強もユニバーシティプロフェッサーとして国内外に出張するなど、東北大学総長としての職務を十分に果たしているとは到底言えません。

2.井上明久総長のユニバーシティプロフェッサー就任手続上の重大な瑕疵について

ユニバーシティプロフェッサー就任(任命)手続きの瑕疵については以下の通りです。平成19年3月1日の時点において有効なユニバーシティプロフェッサーに関する規約等は、「国立大学法人東北大学ユニバーシティプロフェッサー制度に関する要項(平成17年7月26日 総長裁定)」(添付資料8)と「ユニバーシティプロフェッサー制度の取扱いに関する申合せ(平成19 年3月1日 役員会決定)」(添付資料9)です。後者の申合せにより平成19年3月1日以降、学内役員がユニバーシティプロフェッサーの被選考者に加えられることになりました。前者の要項によりますと、ユニバーシティプロフェッサーの選考に際しては、(1)理事、副学長及び部局の長による推薦を経て、(2)総長は役員会の議に基づき選考を行う、と決められています。選考に際しては、役員会が(3)理事・副学長会議の構成員、ならびに、役員会が必要と認めた構成員以外の委員からなる選考委員会を設置し、当該委員会に事前選考させ、その報告により候補者を決定します。これら(1)、(2)、(3)はそれぞれ要項の第5条(推薦)、第6条(選考)、第7条(選考委員会)に相当します。これらの条項は時系列としては(1)推薦‐(3)選考委員会‐(2)選考の順序であること、すなわち、最初に理事、副学長または部局の長による「招へい候補者」の推薦が役員会に挙げられ、その後、選考委員会による候補者の審査がなされ、その報告に基づき役員会の議により総長が「招へい者」を選考する、という流れが正しい手順であることを示しています。一方、平成19年3月1日役員会議事録(添付資料10)には以下の記載があります。

(3) ユニバーシティプロフェッサーの選考

議長を植木理事に交替した後、徳重理事から配付資料に基づき、ユニバーシティプロフェッサーの選考及びユニバーシティプロフェッサー制度の取扱いに関する申合せについて説明があり、審議の結果、ユニバーシティプロフェッサー制度の取扱いに関する申合せについて、これを承認した。

また、ユニバーシティプロフェッサー1名の選考については、選考委員会を設置することとし、選考委員会での審査結果をもって役員会の承認とすることとした。

この議事録を読む限り、推薦した理事、副学長または部局長と候補者が誰であるかは不明ですが、平成19年3月1日役員会開催中の時点で初めて1名(添付資料4から、この「1名」は井上総長であることは確定しています)の「招へい候補者」名が挙がり、早くとも役員会終了後に選考委員会が設置されることしか記されていません。これらの内容は上に記した選考手順の(1)推薦までが行われたことと符合しています。そこで、平成19年3月1日以後に開催されたはずの選考委員会について、情報公開法による議事録の開示請求を行いました。それに対して、東北大学は、該当文書は存在しないと返答(添付資料11)しています。すなわちこれは、大学が掌握する範囲において、井上総長をユニバーシティプロフェッサーに選任する会議が、平成19年3月1日以後に開催されていないことを意味します。

振り返って平成19年3月1日役員会の配付資料「ユニバーシティプロフェッサーの採用について」(添付資料12)を見ると、この書類はユニバーシティプロフェッサー選考委員会名で書かれ、候補者名は「井上明久」総長であり、さらに、日付は役員会前日の「平成19年2月28日」と記されています。これはいったいどういうことなのでしょうか。仮にこの書類が正当なものだとすると、選考委員会は役員会で招へい候補者が挙げられるよりも前に開催されたことになります。2月28日よりも前に役員会で推薦があったのでしょうか。公開されている役員会議事録を調べても、井上総長就任(平成18年11月)から平成19年2月までの議事録にユニバーシティプロフェッサーに関する記載は見つかりません。すなわち、「平成19年2月28日」ユニバーシティプロフェッサー選考委員会は、役員会における「招へい者」の推薦も、選考委員会設置の議決も無い段階で「勝手に」開かれたことになります。さらに不可思議なことに、「平成19年2月28日」ユニバーシティプロフェッサー選考委員会名の書類は、文書名・内容ともに全く同一でありながら委員長名が異なる2種類が存在します。ひとつは役員会に添付されたもの(添付資料12)で委員長名は徳重理事(人事労務担当、当時)、もうひとつは委員長名が北村副学長(総務・財務担当、当時)のもの(添付書類13:これは添付資料4、人事異動伺に添付されていた)です。この両者のいずれにも、誰の押印もありません。押印がなく、しかも文書名・内容ともに同一の文書が2種類存在するのですから、それらの真偽そのものが極めて不明瞭です。また、もし仮に何らかの事情によりこれら両者がともに真正だったとすれば、役員会での「招へい者」決定と大学法人の長である総長への人事異動伺とが、委員長名が異なるそれぞれ別々の文書でなされたという理解も是認も到底できない手続があったことになります。そして何よりも、もし仮に「平成19年2月28日」以前の役員会において口頭やメモなど議事録に残さない形で井上氏の推薦があったとしても、その期間には「ユニバーシティプロフェッサー制度の取扱いに関する申合せ(平成19 年3月1日 役員会決定)」が成立していないのですから、井上氏は被選考資格を有さず、井上氏を対象とした選考委員会そのものが無効であるはずです。

要項でいう「事前選考」は選考委員会による審査を指します。すなわち、役員会において「推薦」があったのち、役員会による「選考」の事前に、「推薦」された者をユニバーシティプロフェッサーとして採用することの当否を選考委員会が審査するという意味です。決して、「推薦」がなされるよりも事前に審査することではありません。事実は、役員会における「推薦」(平成19年3月1日)の前に、選考委員会による「事前選考(=審査)」(平成19年2月28日)が行われていますが、このように「推薦」-「選考委員会による事前選考」-「選考」ではなく、「選考委員会による、被選考資格を有しない者を対象とした事前選考」-(推薦)-「選考」という誤った手順での選考は明らかに手続き上の瑕疵であり、井上総長のユニバーシティプロフェッサー就任そのものが無効であるといわざるを得ません。

以上より、ユニバーシティプロフェッサー就任(任命)手続きの瑕疵として、

(1)就任手順の誤り:「推薦」-「選考委員会による事前選考」-「選考」という正規の手順を経ていない
(2)真偽不明な2つのユニバーシティプロフェッサー選考委員会文書:委員長名が異なるユニバーシティプロフェッサー選考委員会の審査結果をもって役員会での招へい者決定と人事異動伺がなされている
(3)資格を有しない者の選考:被選考資格を有しない者を対象としたユニバーシティプロフェッサー選考委員会は無効である

が挙げられます。なお、上記に関しまして、当該の2種類の選考委員会文書の双方に氏名の明記がある学外委員のうち、1名は「平成19年2月28日」のユニバーシティプロフェッサー選考委員会に出席していないこと、1名は「平成19年2月28日」に出張していないことが明らかとなっていることから、当該選考委員会が「平成19年2月28日」に開催されたことすら疑わざるを得ないことを付言しておきます。

3.まとめ

以上に述べた事実から、私たち東北大学職員組合としては、井上氏は総長の職務に専念しているとはいえず、「国立大学法人東北大学における総長候補者の選考及び総長解任の申出に関する規程」第7条「解任申出の理由」第二号、総長の「職務上の義務違反」に該当すると考えます。また、就任手続きに重大な瑕疵がある井上氏のユニバーシティプロフェッサーの称号は直ちに無効を宣せられるべきであり、かかる井上氏のユニバーシティプロフェッサーとしての職務に費やされた諸費用は直ちに大学法人に返納されるべきものと考えます。 さらに、井上総長が役員会の長として瑕疵ある手続をもって自分自身をユニバーシティプロフェッサーに選考して多額の旅費を得たという事実から、井上総長は国立大学法人東北大学の支出権者でありながら自分自身への利益供与を主導的に行ってきたと言わざるを得ず、これが社会倫理規範に抵触しないと考えることは到底できません。

よって、「国立大学法人東北大学における総長候補者の選考及び総長解任の申出に関する規程」第8条「解任申出の決定の手続」第2項に則り、文部科学大臣に対する総長解任の申出手続きを行っていただくよう要請いたします。

以上

添付資料リスト

  1. 日本経済新聞 平成17年2月19日
  2. 世界大学ランキング
  3. 東北大学総長選考会議文書(H17.3.14)、他2点(規程)
  4. 人事異動伺
  5. 『東北大総長 おやめください』p.78より抜粋(表2-1)
  6. ユニバーシティプロフェッサー制度要項(H20.7.22 総長裁定)
  7. ユニバーシティプロフェッサー制度申合せ(H20.7.22 役員会決定)
  8. ユニバーシティプロフェッサー制度要項(H17.7.26 総長裁定)
  9. ユニバーシティプロフェッサー制度申合せ(H19.3.1 役員会決定)
  10. 役員会議事要録(H19.3.1)
  11. 法人文書不開示決定通知書
  12. ユニバーシティプロフェッサー選考委員会文書(H19.2.28)(徳重委員長)
  13. ユニバーシティプロフェッサー選考委員会文書(H19.2.28)(北村委員長)

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