無期転換にかかる新方針の制度的欠陥と問題点について

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2017年2月17日

国立大学法人東北大学
 部局長各位

東北大学職員組合 執行委員長 飛田博実

前略
 日ごろの東北大学の研究・教育条件の改善や、教職員の待遇改善のご努力に対しまして感謝を申し上げます。
 さて、本年1月17日の准職員・時間雇用職員の無期転換に関する大学の新方針の提示を受けて、東北大学職員組合では、1月19日 と 2月13日 に2回の団体交渉を行い、引き続き、3回目の交渉を行うべく、大学との日程調整を進めています。これまでの2回の団体交渉を通じて明らかになった新方針の制度的欠陥と問題点を部局長の皆様にお知らせし、方針の再考への御尽力をお願いします。

「限定正職員」の位置付けの曖昧さから発生する矛盾

 業務限定職員(一般、特殊)には、指導的役割や一定の責任の付加等、通常の非正規職員よりも高い職責が求められ、そのためのインセンティブとして、厚い待遇 (月給制、正規職員に準じた休暇制度等)が与えられています。ところが、「臨時的ポストとして 5年を超えると見込まれるプロジェクト等の業務に従事している者」を対象とする目的限定職員には、指導的役割等の高い職責は求められていないにも拘わらず、他の限定正職員と同じインセンティブが与えられています。その結果、例えば、法人化後に雇用された秘書業務の時間雇用職員等については、書類審査のみで、教授の定年までという期限付きながら目的限定職員になることができ、上記のインセンティブが与えられるのに対し、法人化前から秘書業務に従事している時間雇用職員等は、労働契約法第18条に基づく無期転換が適用されるため、待遇は従来のまま据え置かれます。これは、労働基準法が求める「均等待遇」や「同一労働同一賃金」の理念に明らかに反するものです。組合との2回目の交渉において、この矛盾を指摘されると、「再度調整するつもりだ」と明言しました。

限定正職員の財源は部局、選考は本部の矛盾

 大学案では、限定正職員の雇用財源は申請者の現所属部局において負担することになっている一方で、選考は最終的には本部が行うことになっており、特に、業務限定職員(一般)の採用手続きは、「本人申請→本部選考・合否判定」という流れであり、本部選考で部局による業績評価は考慮されるものの、部局が直接的には関与できない仕組みになっています。部局の雇用財源と採用人数との間に乖離が生じた場合にはどうするのでしょうか。部局での雇用予定人数をあらかじめ本部に伝えて、それにしたがって本部が選考するのでしょうか。しかし、業務限定職員(一般)は、「業務上の必要に基づく、部局を異にする配置換を行う」とされており、所属部局毎に判定基準が異なることは、論理的には許されません。したがって、現在の大学案では、業務限定職員(一般)の選考に、部局の財源状況を反映することは、原理的にできないことになります。業務限定職員(一般)の選考基準には、高いハードルが設定されているため、部局には、将来にわたって一定の人数を雇用できる財源はあるのに、それに満たない人数しか採用されないことが普通に起きます。そのとき、部局は、選考に洩れた非正規職員を雇い止めして、新しい人を採用するしか道はありません。雇用財源はあり、その仕事も恒常的であり、その人の業務実績も問題はないのにも拘わらず、「無期転換を避けることを目的として無期転換申込権が発生する前に雇い止めをする」事態が発生します。これは、厚生労働省が「労働契約法の趣旨に照らして望ましいとは言えない」と指摘しているものです。

最大の問題は改正労契法第18条に基づく無期転換枠が実質ゼロであること

 大学案には、改正労働契約法第18条に基づく無期化の枠が、(これまでも更新限度がないとされてきたB区分の人たちを除いて) 実質的にはゼロです。大学は、この点について交渉の場で、「更新上限5年は、就業規則に定められており、その5年は、以前の3年を5年に変更したものであり、労契法第18条の無期転換を回避するためではない」と主張しました。しかし、これまでの経緯を考えれば、この主張は法的に認められるものではありません。2014年以前の就業規則は、「更新限度は原則3年。総長の判断で4年目以降の更新もあり」という内容になっていて、実際に、かなりの非常勤職員が4年目以降も更新されていました。2014年4月に「改正労働契約法を踏まえた対応方針」という方針に従って、就業規則は、反復更新は「上限は、原則として5年以内」に変えられました(しかも、同「対応方針」にもなかったにも拘わらず、大学は、就業規則の附則において、上限5年を1年遡って2013年4月を起点として適用することにしました。)。この時大学は、組合に対しては、原則3年を、原則5年に変更しただけであるから、労働者への不利益変更はなく、組合と協議する事項ではない、と説明しました。そして、今、「原則5年には例外は認めない」という解釈を突然持ち出して、6年目以降の更新は認めないと主張しています。労働契約法第9条と第10条には、「合理的である場合を除いて、就業規則を労働者の不利益に変更することはできない。その合理性には、労働者への周知、不利益の程度や変更の必要性、労働組合等との交渉の状況等の事情を含む」旨が明記されており、今、「原則5年に例外なし」を主張することは、労働契約法のこの条文に違反することになります。2回目の交渉において、この点を指摘されると、大学は答弁不能になりました。組合では、この点について、労働局への指導を仰ぐことを検討しています。

「企業は無期化、大学は雇い止め」はなぜ発生するか

 独立行政法人「労働政策研究・研修機構」のアンケート調査報告(2016年5月)によれば、一般企業においては、回答のあった企業の9割以上が無期転換を進めており、無期転換権が発生する前に雇い止めすると答えた企業は全体の5%程度に過ぎない、とされています。この一般企業と東北大学との違いは、どこに原因があるのでしょうか。大学は、希望者全員を無期化できない理由として、「10年、20年先の雇用財源は保証できない」と言います。 そのような考え方に対して、労働政策研究・研修機構の主席統括研究員である濱口桂一郎氏は、「公務員時代の任用イデオロギーに立て籠っている」と批判しています。濱口氏は、従来の日本型雇用(終身雇用、職務を定めないで社員を雇用する)を「メンバーシップ型雇用」、ある特定の仕事に対しての雇用を「ジョブ型雇用」(欧米ではこちらが主流)と呼んで区別し、大学等が無期化を嫌がる理由は、非正規職員の無期化を「メンバーシップ型化」と思い込んでいるため、と指摘しています。一般企業では、ジョブ型とメンバーシップ型の雇用の違いを理解して、将来の解雇の可能性を恐れて雇い止めを繰り返すより、現在の仕事の効率や働く意欲の向上等の無期化によるメリットの方が大きいと判断して、無期化を進めているのです。法人化後12年経過して、大学においても、公務員時代の任用イデオロギーは捨て去るべき時期に来ているのではないでしょうか。

人材流出は既に始まっている

 昨年の2月方針以来、東北大学の非常勤職員は理不尽な雇用喪失への不安を抱き続けています。組合にも、悲痛な叫びが多数寄せられています。来年3月の大量雇い止めによる労働市場の混乱を避けるために、すでに、この3月末に転職を決めた、という連絡も入っています。今、ここで、限定正職員へのハードルの高い試験をパスする以外の無期化の道を閉ざした新方針を強行すれば、人材の流出は更に加速し、東北大学は取り返しのつかない痛手を被ります。一刻も早く、多くの非常勤職員が安心して働けるような方針が提示されるように、ご尽力をお願いします。


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