2003年12月25日
東北大学職員組合
委員長 高橋 満
法人化推進本部は2003年11月18日付で「法人化後の大学運営及び移行に関する基本的考え方について」(以下「基本的考え方」と略)を発表しました。私たちは、この文書の内容と策定の仕方について、見過ごせない問題があると考えているので、ここに見解を表明します。
同文書は,東北大学の学内向けホームページにPDFファイルで掲載されています.
まず、策定の仕方の問題です。「基本的考え方」は、法人化後における東北大学の管理運営制度の概要を示したものであり、国立大学法人の制度設計の基礎となるものです。したがって、評議会で審議し、確認すべき性質のものです。
ところが、11月18日の評議会ではこれを審議事項とせずに、報告事項としてしまいました。そして、同日付のものが学内向けホームページに発表されたのです。このことの意味はきちんと説明されていません。「基本的考え方」が最終決定なのか、学内からさらに意見を求めるのかも明らかではありません。
私たちは、このような法人化推進本部の姿勢に危惧を抱きます。法人化推進本部は、国立大学法人東北大学の制度設計を、評議会ではなく総長と法人化推進本部で決定するつもりなのでしょうか。もしそうだとすれば、きわめて不適切です。東北大学はまだ法人化されていません。重要事項は、評議会で審議・決定すべきです。
「基本的考え方」は経営協議会と教育研究評議会の役割や構成について述べていますが、重要なことを書き落としています。それは、国立大学法人法(以下、「法人法」と略)第20条第2項第三号が経営協議会委員の学外からの任命について、「当該国立大学法人の役員又は職員以外の者で大学に関し広くかつ高い識見を有するもののうちから、次条第一項に規定する教育研究評議会の意見を聴いて学長が任命する」と定めていることです。教育研究評議会からの意見聴取をどのように具体化するかについて、「基本的考え方」は一言も触れていません。これは、学外からの委員の選出における総長の裁量を、法人法を無視してまで大きく確保しようという姿勢を示すものです。
私たちは、経営協議会委員の人選について、総長が教育研究評議会の意見を聴取し、また尊重する具体的なしくみを設計すべきだと考えます。
「基本的考え方」は、経営協議会と教育研究評議会の審議事項を、法人法条文に機械的に従って割り振っています。しかし、これは東北大学内で積み重ねられてきた議論と法案審議過程でなされた法解釈を無視した態度です。
具体的には、「学部、学科その他の重要な組織の設置又は廃止に関する事項」と「予算の作成及び執行並びに決算に関する事項」を教育研究評議会の審議事項から外していることです。これらは「制度検討委員会 A組織業務・人事制度委員会 B目標評価・財務会計委員会中間報告」(2002年10月15日。以下「中間報告」と略)では教育研究評議会(当時の呼称は評議会)の審議事項とすべきであると、はっきり記されていました。10月14日の評議会で、早稲田副総長は「基本的考え方」は「中間報告」から「大きく逸脱しているものではない」と説明していますが、制度検討委員会の議論をまったく無視しています。
おそらく、法人化推進本部は、法人法第11条第2項第三号に機械的にしたがって組織の設置・改廃を総長・役員会の専決事項とし、法人法第20条第4項第四号に機械的にしたがって予算・決算を経営協議会のみの審議事項としたのでしょう。しかし、教育・研究の死命を制する二つの事項を、研究・教育者の代表である教育研究評議会を無視して決定してよいはずがありません。特に予算については、国会審議の過程でも、文部科学省は教育研究評議会が教育、研究に関する予算審議を行うことを認めており(2003年7月8日参議院文教科学委員会における遠山文科大臣・河村副大臣の答弁)、法的にもまったく問題はないはずです。
したがって、私たちは、組織の改廃については、最終的な決定権は総長にあるとしても、学内措置として組織の改廃については教育研究評議会の意見を尊重することとし、その具体的な仕組みを設計すべきだと考えます。また予算・決算については、経営協議会・教育研究評議会の両方の審議事項とすべきだと考えます。
「基本的考え方」は、「法人法では、『学長選考会議』が学長の任期、選考方法などを審議・決定することになっている。したがって、学長選考会議における審議内容を拘束することは避けなければならない」と述べています。しかし、これは法人法の不当な拡大解釈ではないでしょうか。法人化推進本部が念頭に置いているのは法人法第12条第6項の「学長選考会議の議事の手続その他学長選考会議に関し必要な事項は、議長が学長選考会議に諮って定める」という規定でしょうが、これは学長選考会議(以下、「選考会議」と略)自体の運営に関することだけに関する規定です。学長選考方法をどう決定するかは各国立大学法人に委ねられていると考えるべきです。現にいくつかの国立大学では法人化後の学長選挙規程についての準備が進んでいますが、法人化推進本部はこれらの大学が法人法に違反しているというのでしょうか。
総長(学長)選考方法の審議・決定を選考会議に委ねた場合、選考会議は総長選挙の方法を定めるとともに、自ら総長候補者を選考できることになります。このような制度では、選挙の公正さが保てないでしょう。まず、法人化以前に評議会が総長選挙規程を準備し、これを法人化後の教育研究評議会・経営協議会で再確認すべきです。
なお、私たちは総長選挙の方法については、構成員の投票制度を維持・拡大すること、政策的争点を明確にする選挙公報や立会演説会などのしくみをつくること、総長選考会議に現職の総長や理事を加えないことが必要だと考えています。
「基本的考え方」は、「法人法では、部局長は総長が任命することとなっている」と断言しています。しかし、これは単純かつ重大な間違いです。法人法にはそのようなことはどこにも書かれていません。そもそも、法人法は部局レベルの組織については何も規定していないことを、ひとつの特徴としているのです。したがって、この部分は直ちに削除すべきです。
私たちは、法人化後も従来と同様に、部局教授会の議に基づいて部局長候補者を選出し、これを総長が任命することが適切だと考えます。
以上