Q:法人化されても、いまと同じ労働条件が自動的に維持されるのではないのですか?
A:いいえ、ちがいます。法人化によって私たちは国家公務員でなくなります。すると、労働条件をめぐる法律の枠組みが大きく変わります。
国家公務員の場合、労働条件の多くの部分が法律によって保障されています。しかし、民間企業と同じ労働者になると、法律によって保障されるミニマムは切り下がる部分が多いのです。それ以上の労働条件は、使用者と労働者・労働組合の交渉次第となり、その多くは東北大学の就業規則で決まります。大学は経費節約のために労働条件を切り下げようとするかもしれません。
一方で、国家公務員であったときには制限されていた、対等・平等な労働契約を結ぶ当事者としての権利は拡大します。例えばサービス残業を強制されたら労働基準監督機関に訴えることができます。労働組合は団体交渉やストライキをすることができますし、大学と労働協約を結んで、就業規則より高いレベルの労働条件を取り決めることもできます。
要するに、これまで法律で自動的に決まっていたことも、大学毎の労使関係・人事管理次第になるのです。
Q:その中でも、いちばん大きく労働条件を左右するのは何でしょうか。
A:国立大学法人東北大学の就業規則です。
Q:当局案はどんな中身なのですか。
A:法人化まであと5ヶ月もないのに、まだ発表されていないのです。
就業規則は法人が定めるものですが、その内容は職員組合との交渉事項です。また、労働者過半数代表から意見を聞かねばなりません。
ところが大学当局は、いまだに就業規則の骨子すら発表していません。これはたいへん不誠実な態度です。組合は、当局が一刻も早く就業規則案や関連する学内規程案を公表するとともに、組合がすでに申し入れている総長交渉を実施することを要求します。
当局案を待っていても私たちの不安はおさまりません。そこで組合では、
(1)現在の労働条件、
(2)法人化後、法的に保障されるミニマムの労働条件と東北大学当局が検討している労働条件、
(3)組合の要求する労働条件
をわかりやすくまとめてみました。組合や学内世論が弱ければ(2)に近いものに、強ければ(3)に近いものになるでしょう。私たちの労働条件を維持・改善するために、このマニュアルを使って職場で議論し、声をあげていきましょう。
項目 | 現在の労働条件 | 法人化後、法的に保障される最小限。および東北大学当局が検討している労働条件。 | 組合の要求する労働条件。 |
身分 | 国家公務員 | 国立大学法人東北大学職員として大学と労働契約を結ぶ労働者(民間企業や私学と同じ) | 就業規則は対等・平等な契約にふさわしいものにすること。 |
法人化時点での承継 | --- | 4月1日に職員であれば、法人に承継される。非常勤職員は3月30日に雇い止めされるおそれがある。 | 常勤・非常勤を問わず全職員を承継すること。日々雇用職員は正規常勤職員として承継すること。 |
労働条件の法的枠組み | 国公法、人事院規則など。 | 労基法、労組法など。 | --- |
身分保障 | 身分保障あり。しかし、官制の改廃による廃職の場合は免職させられうる。これが法人化による非公務員化を合法化する根拠になった(国公法、人事院規則)。 | なし。整理解雇もありうる。労基法と判例によって解雇権の濫用は制限されるが、無視する使用者がいて紛争が絶えない。 | 就業規則において、解雇の条件に整理解雇を含めないこと。 |
教員の身分保障 | 評議会の審査結果によらない限り、本人の意志に反して転任・免職・降任されない(教特法)。 | なし。 | 教特法と同水準の身分保障を就業規則に明記すること。 |
教員任期制 | 特定のポストを任期つきとし、当人の同意を得てそのポストに配置(任期法)。一部部局では全教官職任期制や現任教官の任期制への転換事例があり。 | 特定の教員と任期つき労働契約を結ぶ(任期法)。 | 任期法と付帯決議の趣旨を守り、全員任期制や現任教員の任期制への転換を行わないこと。 |
教務職員制度 | 教育職だが教官でない。職務に比して待遇が劣悪。 | 大学の制度によるが、当局案は不明。 | 法人化を機会に廃止して、現任職員の処遇を改善すること。 |
日々雇用の非常勤職員(定員外職員) | 定員内職員と同等の仕事をしており、勤続も長い職員が多いが、形式上、毎年3月30日に雇い止めし、4月1日からの任用を繰り返す脱法的任用形態。昇給・手当・退職金・休暇等が劣悪(国公法、人事院規則等)。 | 労基法適用。非常勤のまま承継すれば有期労働契約となる可能性。有期労働契約を反復更新した場合、一定の条件があれば整理解雇と同様の制限がかかる。多くの点は就業規則による。 | 正規常勤職員として承継すること。仮にそうできない場合でも承継すること。脱法的雇用形態を確実になくし、一方的雇い止めをしないこと。常勤職員との均等待遇を実現すること。 |
時間雇用の非常勤職員(定員外職員の中のパート職員) | 退職金なし。昇給・手当・休暇等が劣悪(国公法、人事院規則等)。 | 労基法、パート労働法適用。有期労働契約を反復更新した場合、一定の条件があれば整理解雇と同様の制限がかかる。「同じ仕事で賃金が正規従業員の8割を下回れば違法」という判例あり。多くの点は就業規則による。 | 法人職員としての承継。一方的雇い止めをしないこと。待遇を仕事内容にふさわしいものに改善すること。 |
総長選挙参加 | 教授・助教授・専任講師と一部助手が選挙権。 | 総長選考会議が選考(法人法)。構成員の投票は法的定めがないので、大学の制度次第だが、当局案は不明。 | 現在以上の構成員参加を「意向投票」として保障すること。総長選考会議に現職総長や理事を加えないこと。 |
(研究教育)評議会の権限 | 評議会が大学運営の重要事項を審議(国立学校設置法、教特法)。 | 研究教育事項は研究教育評議会、経営事項は経営協議会が審議。組織の改廃や予算審議は経営協議会が審議(法人法)。東北大制度改革委は研究教育評議会に予算審議権限を与えることを主張。 | 組織の改廃や予算に関する審議権を研究教育評議会にも認めること。 |
教授会の教員人事権 | 教特法適用。教授会の議に基づいて学長が行う。事実上教授会自治。 | 定めなし。学校教育法により教授会は設置されるが、持つべき権限はあいまい。 | 教授会を研究・教育の重要事項審議機関とし、現在と同等の教員人事権を認めること。 |
採用 | 国家公務員としての任用。教員は教授会の議による。職員は国家公務員試験。 | 国立大学法人東北大学の教職員としての採用。職員の試験について検討中。教員は法的にあいまい。 | 教員は教授会の議によること。現在の日々雇用職員については、新採用試験を義務づけずに正規常勤として承継すること。 |
給与・諸手当 | 給与法、寒冷地手当法、人事院規則等により決定。人事院勧告と法改正で賃上げ・賃下げ。 | 現状維持の法的保障はなく、就業規則次第。東北大制度改革委は能力給・業績給、任期つき教員の年俸制などの検討を言うが、具体案なし。 | 少なくとも現在の給与・諸手当を削減しないような就業規則をつくること。議論を尽くすことなく給与体系を変更しないこと。春闘要求は別途行う。 |
昇給 | 国は1年に1号俸昇給させることができる。55歳昇給停止(給与法・人事院規則)。 | 運営費交付金により人件費総額が制限される。現状維持の法的保障はなく、就業規則次第。 | 就業規則によって、少なくとも現行の昇給ペースを維持すること。 |
昇格 | 級別定数による制限あり(給与法、人事院規則等)。東北大では女性が係長以上になることが困難。 | 級別定数はなくなるが、運営費交付金により人件費総額が制限される。現行水準の法的保障はなく、就業規則次第。均等法によって性差別禁止。 | 少なくとも現在よりも教職員が不利にならないようにし、かつ女性の昇格を改善すること。 |
教員評価と労働条件の結びつき | 部局毎に検討・実施されている。 | 東北大制度改革委は、勤勉手当の査定、教員評価の結果による勧奨退職対象者リストの作成などを提案したが、具体案は出ていない。 | 公正で透明な評価基準を確立することが先。それなしに評価を処遇に結びつけることに反対。 |
勤務時間・休憩 | 8時30分始業で17時終業。8時間勤務で休憩30分。このほか勤務時間中に15分の休息が2回ある(勤務時間法・人事院規則)。 | 休憩時間は労働時間が6時間を超えれば45分以上(労基法)。休息時間は法的保障なし。具体的には就業規則次第。 | 休み時間実質1時間の維持。労働時間短縮計画を立てること。 |
職員の超過勤務 | 命令による。超過勤務手当は給与法による。不払い残業(いわゆるサービス残業)が横行しているが、労基法適用外のため、労働基準監督機関に申し出ることができない。 | 労使協定が必要(いわゆる三六協定)(労基法)。具体的な方法や手当は就業規則による。不払い残業は罰則付きで禁止されている違法行為だが、民間企業では横行している。労働基準監督機関に申し出ることができる。 | 超過勤務を極力行わず、教職員の健康と私生活を守る方針を明確にすること。不払い残業がないようにすること。組合で相談受け付け。労働基準監督機関への申し出を支援。 |
教員の勤務時間管理 | 形式は職員と同じだが、実態は異なる。 | 教員の実態に合う法制度がない。厚生労働省は専門業務型裁量労働制適用の方針。導入には労使協定が必要。 | 裁量労働制導入の場合は十分な労使協議を行うこと。授業等の負担増には適切な手当で報いること。 |
年次有給休暇 | 20日。20日まで繰り越しあり(勤務時間法)。 | 6年6ヶ月以上勤続しないと20日は保障されない(労基法)。繰り越しは法的保障がない。法定以上の保障は就業規則次第。 | 就業規則によって少なくとも現行水準を維持すること。 |
病気休暇 | 有給(勤務時間法)。 | 法的保障がなく就業規則次第。無給の場合、傷病手当金が共済組合から支給され、部分的に所得保障。 | 就業規則によって少なくとも現行水準を維持すること。 |
特別休暇(出産、結婚、忌引き、選挙権行使、ボランティアなど) | 有給(勤務時間法)。 | 出産休暇以外は法的保障がなく、また出産休暇も有給の保障はない(労基法)。就業規則次第。出産休暇が無給の場合、出産給付金が共済組合から支給され、部分的に所得保障。 | 就業規則によって少なくとも現行水準を維持すること。長期勤続者のリフレッシュ休暇を創設すること。 |
育児休業 | 子どもが3歳になるまで。任期つき教官も取得できる。無給(国家公務員育児休業法)。1年間は育児休業手当金が文科省共済組合から支給され部分的に所得保障。 | 子どもが1歳になるまで。任期つき教官には法的保障なし。休業中の給与について定めなし(育児・介護休業法)。無給の場合、育児休業給付金が雇用保険から支給され部分的に所得保障。法定以上の保障は就業規則次第。 | 就業規則によって少なくとも現行水準を維持し、任期つき教員にも任期のない教員と同様に保障すること。 |
介護休暇(休業) | 任期つき教官も取得できる。無給(勤務時間法)。介護休業手当金が文科省共済組合から支給され部分的に所得保障。 | 任期つき教官には法的保障なし。休業中の給与について定めなし(育児・介護休業法)。介護休業給付金が雇用保険から支給され部分的に所得保障。法定以上の保障は就業規則次第。 | 就業規則によって少なくとも現行水準を維持し、任期つき教員にも任期のない教員と同様に保障すること。 |
研修 | 教員は勤務地を離れた研修、現職のままの長期研修が権利として保障されている(教特法)。職員の場合は、任命権者が実施する(国公法、人事院規則)。 | 法的定めなし。就業規則・学内規程次第。 | 教員について、教特法の水準での研修を認めること。職員について、研修の機会を拡大し、権利として保障すること。 |
職員の人事交流の性格 | 国の組織内部での異動。 | 東北大学以外との人事交流は、出向または転籍。政府方針が不明確。 | 同左。 |
配置転換に関する労働者の権利 | 異動命令の権限は強力。 | 労働契約に職種・勤務地が明記されていればそれに制約されるが、一般的に使用者の配転命令権が強力。 | 適性や家庭責任などについて、本人の事情と希望を踏まえること、転居を伴う配転はその都度本人の同意を条件とすること、教員については、他職種への転換は行わず、このほかは教特法と同様とすること。 |
出向に関する労働者の権利 | --- | 本人の同意が必要。しかし、「総長は出向を命じることができる」という就業規則がつくられると、当人が採用時に同意したとみなされてしまうおそれがある。政府方針も当局案も不明。 | 出向は、その都度本人の同意を条件とすることを就業規則に明記すること。 |
転籍に関する労働者の権利 | --- | 労働契約の解除・再締結なのでその都度本人の同意が必要。理解していない使用者も多い。政府方針も当局案も不明。 | 転籍は、その都度本人の同意を条件とすること。裁量的な転籍命令権を就業規則に記さないこと。 |
兼職 | 国公法・人事院規則等による制限。 | 大学の制度によるが、当局案は不明。 | 検討中。 |
安全・衛生 | 人事院規則などによるが、罰則なし。 | 労働安全衛生法による。違反には刑事罰あり。基準を満たすための予算が不十分。 | 十分な移行予算を保障すること。学生の安全も考慮した措置をとること。 |
災害補償 | 国家公務員災害補償法による。 | 労働者災害補償保険法による。 | 補償水準を切り下げないこと。 |
苦情処理制度 | 不利益処分に関する人事院への不服申し立て。セクシャル・ハラスメントに関しては学内に相談制度あり(国公法・人事院規則等)。 | 包括的な法的定めはなし。男女差別・セクハラに関しては苦情処理制度を設けねばならない(均等法に基づく指針)。現制度は存続する見込み。 | 労使の適切な代表による苦情処理制度を整備すること。 |
定年 | 教官63歳。職員60歳。国公法、教特法、東北大学の規程による。 | 学内規程による。東北大制度改革委は、教員定年短縮を検討することを示唆。政府は65歳までの雇用を義務づける方針。 | 定年を短縮しないこと。年金支給開始年齢にあわせた65歳定年制について検討を開始すること。 |
退職金 | 国家公務員退職手当法による。法改正で切り上げ・切り下げ。 | 法的には使用者に退職金支給義務はないので、就業規則次第。 | 公務員時代からの通算を保障するとともに、少なくとも現在の水準を切り下げないような支給基準をつくること。 |
整理解雇 | (身分保障の項参照) | (身分保障の項参照) | (身分保障の項参照) |
雇用保険 | 不適用。 | 加入の見込み。保険料を負担しなければならない。 | 実質的負担増にならないようにすること。 |
公務員宿舎 | 利用可能(国家公務員宿舎法)。 | 法人化されても利用可能。 | --- |
公的医療保険・年金 | 利用可能(国家公務員共済組合法)。 | 法人化されても利用可能。 | --- |
労働基本権 | 大きく制限される。職員団体に加入できるが、職員団体の交渉権は限定されており、労働協約締結やストライキはできない。大学が交渉を拒んでも罰則はない。 | 団結権・団体交渉権・争議権を保障。教職員は労働組合に加入できる。大学が団体交渉を拒めば不当労働行為として罰せられる(労組法)。 | 当局は組合と誠実に交渉すること。 |
不当労働行為 | 制度不適用。 | 禁止。労働委員会への申し立て・訴訟が可能(労組法)。 | 当局は不当労働行為を行わないこと。 |
[注]:なお、「……法による」という場合、具体的運用は施行令、通達などによって定められている場合がありますが、煩雑なので省略しました。
[略語]
強く、賢い組合をつくって、はたらきやすい東北大学にしましょう!
あなたも組合へ
東北大学職員組合
片平5029 tel 227-8888 fax 227-0671