私たちは、10月11日に声明「東北大学医学部における『名義貸し』及び『金銭提供問題』について」を発表し、十分な権限と独立性・透明性を持った調査機関を評議会の下に設置すること、厳正かつ迅速な調査を行い、結果を公表すること、吉本総長が自己の責任を明確化することを求めてきた。その後、私たちは評議会および医学系研究科内の調査委員会の動きを見守ってきたが、現時点でも問題はなお解決されていないと考え、ここに改めて声明を発表するものである。
12月12日、医学系研究科「研究助成金調査委員会」の調査結果が発表された。
調査委員会は、1998年4月1日から2003年9月1日の間に、公立病院等から医局・同窓会、学会事務局、財団法人艮陵医学振興会等への研究助成金、学会開催経費等の提供があったことを認めた上で、これらが寄付目的、あるいは財団の趣旨に則って支出されていると主張している。そして、研究助成金の受入と医師の就職・アルバイトとの関連性は認められなかったと結論づけている。吉本総長が発表したコメントも趣旨は同様である。
しかし、これらの見解は裏づけに乏しいものである。12月16日に開催された臨時評議会では、調査委員会の調査方法がアンケートと補足的な聞き取りであり、資金の流れを示す関連証書を精査したものではないことが確認された。その席上とりまとめられた評議会見解は、「医学部調査委員会の報告を慎重に吟味した結果、任意調査としての制約と限界はあるものの、その範囲内で調査が厳正かつ適切に行われたものであり、その調査結果は信頼に足るものであると認める」と述べている。しかし、任意調査に制約と限界があるならば、医局の領収書や請求書、また委任経理金の請求書や支出命令書などを、改めて調査しなければならないはずである。
特に、病院から艮陵医学振興会等へ直接寄付されたり、医局等でいったん受け取ってから改めて寄付されたりして委任経理金となった部分については、調査は難しくないはずである。支出命令書等が公文書として確実に保管されているからである。例えば玉井研究科長が教授をつとめる眼科学分野は、いったん受け取った寄付のうち400万円を委任経理金に入れているが、その支出内容は証書類を見ればわかるのである。こうした作業を怠った調査結果では、疑惑を晴らせるはずがない。
以上のことから、私たちは医学系研究科調査委員会の調査結果は十分な説明を与えていないと考える。評議会は、自ら指摘した任意調査の不十分性を放置してはならない。「東北大学社会貢献策検討委員会」よりも先に、この問題に関する新たな全学的調査委員会を設置し、資金の流れを示す書類を精査すべきである。
10月28日、医学系研究科の「名義貸し問題調査委員会」は、医療機関に対する「名義貸し」に関する調査結果を発表した。その結果、1998年9月から5年間について、大学院生78名を含む86名が名義貸しをしたことが明らかになった。これらの院生等は、勤務実態が全くない、あるいはアルバイトに過ぎないのに常勤医として登録されていた。報酬額は月額10数万円から30数万円であったという。
こうした調査結果を受けて、医学系研究科がどのような対応をとるのかが注目される。しかし、現在まで伝えられている玉井研究科長の発言は、果たして適切な措置がとられるかどうか、私たちに疑問を抱かせるものである。
報道によると、玉井研究科長は10月28日の記者会見において、「関係者の処分を検討する。受給した報酬についても、病院への返還を求める」「働きもしないでお金をもらうなんて、社会人としてあり得ない」と述べ、名義貸しをした大学院生等を批判した。しかし、院生が自分たちだけで名義貸しを行うとは考えにくく、教員が関与した組織的行為であったと考えるのが自然であろう。玉井研究科長も、11月に行われた朝日新聞のインタビューでは、名義貸しは医局ぐるみだと指摘する院生からの投書について、「大学院生がそう言うのは当然だと思う。自分で名義貸しの相手を探せるわけがない。しかし、そういう関与が実際にあったかどうかは今後、調査委で調べてみないとわからない」と答えているのである。それならば、院生のみを処分してはならない。名義貸しの組織的イニシアチブをとった教員こそが第一義的な責任を負うべきだからある。
私たちは、医学系研究科が院生のみを処分し、教員のより重い責任を曖昧にすることに反対する。そして、この件についても研究科内部での調査には限界があるため、評議会の下に調査委員会を設置すべきだと考える。
前回の声明でも指摘したとおり、吉本総長は金銭提供問題の当事者であり、二つの問題を長年の慣行として見過ごした前医学系研究科長でもある。そして、これらの問題を解決すべき総長でもある。にもかかわらず、この間、何の問題もないかのような発言ばかりを繰り返している。金銭提供問題を議題とする臨時評議会が開催されたのも、総長からではなく、評議員からの提案によるものであった。私たちは、吉本総長のリーダーシップに大きな疑問符をつけざるを得ない。
金銭提供問題、名義貸し問題では、地域社会の中での東北大学のあり方が問われている。私たちは、二つの問題の全容を解明するために、今後とも努力することを表明する。
2003年12月19日
東北大学職員組合