ホームに戻る

部局の運営に関する「法人化推進本部第一部会報告(案)」に対する意見表明

2004年1月7日
東北大学職員組合
執行委員長 高橋 満

現在、「法人化推進本部第一部会報告(案)」(以下「第一部会報告案」と略)について、各部局からの意見聴取がなされています。この「報告案」は、法人化後の部局の運営に関する基本原則を取り扱っています。11月18日付で発表された「法人化後の大学運営及び移行に関する基本的考え方について」(以下「基本的考え方」と略)が全学レベルの管理運営制度についての基本原則を論じていたことと対になっていると考えられます。

 12月25日に私たちは、「基本的考え方」への批判と対案を発表しました。「基本的考え方」にいくつか見られた問題点に共通するのは、総長のトップダウン体制を強め、教員と構成員の自治を軽視するものだということでした。これに比べると、今回の「第一部会報告案」は、部局運営に関する部局自治・教授会自治を尊重した上で、研究・教育活動のためにより自由な制度設計を可能にしようとする姿勢がうかがえます。私たちは、この姿勢を評価します。その上で、いくつかのコメントと提案を行いたいと思います。

1 職員組合からの意見聴取について

 まず、このような重要文書を策定する場合には、部局からの意見聴取を行うことはもちろん、私たち職員組合との協議も行っていただきたく思います。すでに国立大学法人法は施行されており、衆参両院の附帯決議も有効になっています。附帯決議では職員団体との十分な協議を行うことが定められており、これに従えば、決定過程にある文書についても私たちとの協議を行うべきです。また、第一部会が取り扱っているのは管理運営事項ですが、今回の文書の内容から言っても労働条件に関わることは明白であり、したがって組合との協議の対象と考えるべきです。民間企業では、労働条件に関する重要事項を、最終決定以前に労働組合と協議するのが普通の方式です。

2 各部局の「自己収入確保の責任」の内容について

 「第一部会報告案」は、「部局とは、大学の主要責務である『教育研究(関連する医療等を含む)』を実施する自己責任の単位であり、部局は、国からの交付を受け法人内で一定のルールの下に配分される運営費交付金以外の、学生納付金、病院収入はもちろんのこと運営に必要な外部研究資金等の自己収入確保の責任を負う」と述べています。この定義自体は適切ですが、具体的な学内財政システムについて記されていないために、「自己収入確保の責任」の内容が不明です。この文章だけだと、部局に独立採算を求めているかのようにも読めてしまいます。

 もともと、独立行政法人も国立大学法人も独立採算制ではありません。国は、自己収入拡大の努力を法人に求めつつも、独立採算にはなりえない部分を国の責任で保障するというのが、運営費交付金の考え方です。この考え方は、部局にも適用されるべきです。私たちは、この運営費交付金による収支差補填機能を踏まえた上で、部局の財政責任の内容を規定すべきだと考えます。これは第1部会だけで決められることではなく、第2部会の審議事項を含むかもしれません。その概略は以下のようになるでしょう。

 まず、部局がなすべき標準業務を設定し、それにかかる標準費用を見積もります。また部局の標準的な自己収入を見積もります。その収支差については、不可避なものとして運営費交付金を割り当てるのです。まず、この収支差補填機能を明確にすべきです。その上で、自己収入が増加・減少した場合、費用の節約や超過があった場合、業務を拡大・縮小する場合に関する制度設計を行うべきです。つまり、収支差があってもやむを得ないとされる部分と、部局が収支均衡に責任を負うべき部分の境界を、できるだけはっきりさせておくのです。このために、標準業務・標準費用・標準収入を設定すること、その改訂ルールを定めることが必要でしょう。

 なお、この点から見ても、私たちが「基本的考え方」への批判で述べたように、教育研究評議会が予算・決算に関する事項を審議できるようにすべきです。部局の研究・教育業務の標準的な範囲やその改訂を審議するためには、それに伴う費用と収入の問題もあわせて取り上げざるを得ないからです。

3 各部局の運営原則について

 「第一部会報告案」は、「各部局の運営の原則は、各部局教授会の意向を尊重する。例えば、副部局長の設置、代議員による運営委員会制の導入、附属施設等の設置・改編・廃止等は部局教授会で決めることが原則である」と述べています。2003年の東北大学制度検討委員会「中間報告以降の検討に関する報告」においては、教授会が研究・教育に関する重要事項を審議するという学校教育法で定められた原則があいまいになっていました。これに比べると、「第一部会報告案」は教授会自治を尊重したものだと言えます。私たちは、現在の部局教授会の運営に何の問題もないとは考えませんが、研究・教育の自主性を守るために教員自治を後退させないという見地から、「第一部会報告案」の上記の考え方を支持したいと思います。

4 部局長の選考について

 「第一部会報告案」は、部局長の選考について「部局長等の選考等については各部局教授会の意向を尊重することを原則とする。すなわち各部局の教授会において、任期、途中交代の場合の措置等を含む部局長の選考方法等を審議・決定する。その結果に基づいて、各部局の意向を、総長に申請する手続きを法人化後も維持する」と述べています。11月に出された「基本的考え方」では、あたかも総長が部局長を任命することが法人法で定められているかのような誤った理解が見られましたが、今回は、従来の選考方法が尊重されています。私たちはこの見解を支持します。

 ただし、「第一部会報告案」が、「部局長の選考対象を部局の専任教授に限定しないで、幅広く人材を求める仕組みの採用を可能にする選考規定の整備が望ましい」と述べていることには疑問があります。これは、部局長が一教員という立場とは切り離された経営者・使用者であるのか、部局教員の代表であるのか、という問題と関わります。国立大学法人全体においては、総長・理事は経営者・使用者ということができます。しかし、部局レベルにおいて部局長は経営者・使用者であると割り切ることができるかどうかは疑問です。この点は、部局毎の事情の違いも踏まえて、より慎重に検討すべきです。

5 部局の人件費について

 「第一部会報告案」は、「法人化後の教員人事の考え方」「法人化後の職員(教員を除く)人事の考え方」という項目を立てていますが、教員の選考方法については触れられていません。私たちは、まず教員の採用と昇任は教授会の議を経て行うという、従来と同様の原則を確認すべきだと考えます。

 「第一部会報告案」が重点的に述べていることは、部局の人件費枠がどのように決定されるかということです。その要点は、「各部局は、大学の方向性・機能強化に向けた全体像等を理解した上で、『配置職員数』及び『人件費総枠』の2つの指標に基づく自己責任の範囲で、人件費(退職金・雇用保険等を除く)を適切に管理する」というところにあります。私たちは、「配置職員数」と「人件費総額」という考え方は、さしあたりの移行期には有効であっても、今後とも用いて行くには問題があると考えます。

 まず、両指標とも、現在の定員内教職員だけを計算の基礎にしていることです。現実には、現在の定員外職員にあたる職員が、法人化後も有期雇用職員、時間雇用職員などの形で存在するでしょう。こうした職員の人件費を含まない「人件費総額」では、法人化後の業務の実態を適切に管理できません。また、情報公開される人件費はすべての教職員の人件費を含む金額ですから、「人件費総額」はこれとも一致しなくなります。すべての雇用形態の教職員を包括した人件費基準をつくるべきです。

 次に、二つの指標は運営費交付金の学内配分を意味するので、雇用の財源が運営費交付金に限られてしまうということです。これでは、自己収入を増やして創造的な活動を行うという法人化の建前と整合しなくなります。各部局が自己収入を標準以上に増大させるなどして自己財源を確保した場合は、それを用いて雇用計画を立てることができるような制度設計を行うべきです。

 なお、どのような基準を用いるとしても、運営費交付金や「配置職員数」が減少した場合に、ただちに雇用調整につなげるようなことは許されません。私たちは、東北大学が教職員の身分を公務員時代と同様に尊重し、整理解雇を行わないこと、具体的には就業規則の解雇事由に整理解雇を含めないことを求めます。仮に整理解雇の可能性を残すとしても、解雇権の濫用(労働基準法により禁止)は許されず、整理解雇の4要件(最高裁判例により確立)を満たさなければ整理解雇は行えないことを、就業規則で確認しておくべきです。

6 教務職員について

 「第一部会報告案」は、「学位を持った教務職員を、部局の判断で『助手』に振り替えることも原理的には可能である。ただし、部局によって教務職員の採用・役割等が異なるので、画一的に措置することは適当でない。学内ルールの整備が必要である」と述べています。このこと自体は、職員組合や教務職員が歴史的に要求してきたことと合致します。しかし、教務職員は、職務に対して待遇が劣悪すぎる職種であり、この問題を解決する必要性は組合との交渉の中で歴代総長も認めてきました。したがって、法人化を機会に職種としては廃止すべきです。そして、現在はたらいている教務職員は、当人の希望に基づき、現在ついている職務を考慮した上で、助手等に職種転換し、一刻も早く待遇の改善を実現すべきです。

7 法人化後の教員任期制について

 「第一部会報告案」は「法人化後の職員の任期制」という表現を使っていますが、これは「教員の任期制」の誤記ではないかと思います。もしも、教員の「任期制」と職員の「期間の定めのある雇用」を同一視しているのでしたら、両者には法的な違いがあることに注意していただきたいと思います。

 教員の雇用契約について、「第一部会報告案」は「法人化に際して、教員の任期制、テニュア制等の多様な雇用形態(第二部会担当)を検討し、必要な整備を図ることとするが、その導入については、学問分野の特性を考慮しつつ、各部局教授会の意向を原則として尊重する」と述べています。雇用形態について部局教授会の判断に委ねることは、全学一律任期制などをトップダウンで導入したりはしない、という点で賛成です。ただ、大学教員任期法第5条第2項に定められている「当該大学に係る教員の任期に関する規則」を全学レベルで明確にしておく必要があることを、補足的に指摘しておきます。

 また「第一部会報告案」は、「現在、学内の複数部局が採用している教員の任期制(例:教授10年、助教授7年)は、例えば米国の大学で標準的なテニュア制度との対比において逆センスの面がある。優秀な教官は、むしろ任期制からはずし、落ち着いて教育研究業務に専念できる仕組みの整備が適当と考えられる」とも述べています。これは、研究・教育の特性からいって正当な見識だと考えます。

8 教職員の定年制について

 「第一部会報告案」は、「職員の定年制については、法人化後の多様な人事を可能にする制度、現状の定年制を柔軟に運用できる制度等を考慮し、総合的に整備することが適当である」と述べていますが、具体的内容はまだ不明です。私たちは、定年は年金支給開始年齢にあわせ、段階的に65歳まで引き上げることが妥当と考えます。その際、60歳で退職しても不利にならないような早期退職制度も整備すべきです。

9 教員の職階制度について

 教授、助教授、講師、助手という教員の職階は、学校教育法で定められたものです。「第一部会報告案」は、このことを前提としつつ、教員の位置づけと呼称を柔軟化することを述べています。私たちは、このこと自体には特に異論はありません。ただし、職位呼称の変更はあり得ても、それに伴う労働条件の不利益変更はないことを明確にしておくべきだと考えます。

以上


ホームに戻る