2004年10月23日
国立大学法人東北大学
総長 吉 本 高 志 殿
理事各位
経営協議会委員各位
教育研究評議会評議員各位
国立大学法人東北大学職員組合 執行委員長 吉田 正志
現在、寒冷地手当削減・廃止について法人側から就業規則の改正が提案されています。これをめぐって、法人側と職員組合の団体交渉が行われており、また過半数代表者に対して意見書提出が求められています。しかし、職員組合は以下の理由から、この就業規則改正手続きには重大な瑕疵があり、国立大学法人法に照らしても疑問がある上、労働基準法の求める過半数代表者からの誠実な意見聴取、労働組合法の求める誠実な団体交渉という条件を満たしていないと考えます。
そもそも、今回の就業規則改正はどこから提案されているのかが明確にされていません。総長や役員会の正式な提案文書もなく、はっきりしているのは北村理事が提案していることだけです。
国立大学法人法第11条にしたがえば、就業規則の改正は、総長か役員会が発議すべきです。あるいは、総長や役員会が権限を財務・人事担当の北村理事に委譲して、北村理事が提案することもあるかもしれません。また、寒冷地手当は国立大学法人法第20条第4項により、経営協議会の審議事項の一つ(「学則(国立大学法人の経営に関する部分に限る。)、会計規程、役員に対する報酬及び退職手当の支給の基準、職員の給与及び退職手当の支給の基準その他の経営に係る重要な規則の制定又は改廃に関する事項」)です。素直に考えれば、提案内容を確定する前に経営協議会にかけられるべきでしょう。
そこで10月22日夕方に組合が人事部職員課職員係に確認したところ、今回の提案について、「大学の中の会議は通っていない」という回答でした。これが本当ならば、提案は役員会で確認されていないし、経営協議会で審議されてもいないということでしょう。
それでは、北村理事は、総長または役員会から適切な権限委任を受けて提案しているのでしょうか。また、提案内容を確定する前に経営協議会にかけないことは、法人法上、許されるのでしょうか。組合は、北村理事が、これらの点について納得のいく説明を組合および過半数代表者に対して行うことを求めます。さらに一般化して言えば、国立大学法人東北大学の就業規則改正提案のプロセスはどうあるべきかについて説明すべきです。
法人側が10月14日に過半数代表者に配布した意見書の様式には、「平成16年10月14日付をもって意見を求められた就業規則案」と印刷されていました。しかし、寒冷地手当削減・廃止に関する就業規則改正案の明文が人事部職員課職員係から各事業場人事担当係へメール送信されたのは、10月20日の終業時刻後(17時40分)であり、多くの過半数代表者の手元に届いたのは21日になってからでした。また、組合に届けられたのも21日の朝でした。そして、改正案はさらに修正されて22日の午後に団体交渉の席上組合に届けられ、また各事業場人事担当係にメール送信されました。要するに、実際の提案日は22日なのです。
団体交渉において組合がこの点を質すと、北村理事は、提案日を事実に合わせて22日とすることを明言しました。しかし、交渉後の22日午後に北村理事からあらためて過半数代表者に送られた「就業規則改正に伴う意見書の提出について(依頼)」には、意見書雛形を「平成16年10月14日及び22日付をもって意見を求められた就業規則案」と訂正すると記載されており、依然として「14日提案」が事実であるという取扱いになっています。これでは提案日を偽り、意見書への虚偽記載を誘導しているという疑念が払拭されません。
北村理事は、14日に開催された第1回全学労使懇談会での趣旨説明が、就業規則改正の提案にあたると主張したいのだと思われます。しかし、全学労使懇談会においては、寒冷地手当削減・廃止に関する趣旨説明が行われ、国家公務員用の制度解説および給与法改正案が配布されただけであって、国立大学法人東北大学の就業規則改正案は配布されませんでした。趣旨説明と改正案の配布はまったく異なります。経済学研究科事業場過半数代表者の発表文書によれば、宮城労働局の労働基準監督官は「たとえ趣旨説明をしたとしても、就業規則改正案が存在しない状態で意見書提出を求めることはナンセンスだ」、「就業規則改正案が実際に過半数代表者に向けて送られた、または届いた時点が提案日であり、意見書提出を求めた日である」という見解を表明したそうです。北村理事が団体交渉で、提案日を事実に合わせて22日とすることを明言したのも、それを踏まえてのことでしょう。それならば、「14日提案」が事実であるという取扱いをきっぱりとやめるべきです。姑息な操作で提案日を偽り、またその偽りを過半数代表者の認識であるかのように誘導し続けることは許されません。
組合は、事実に基づき、また北村理事が団体交渉の場で明言されたように、就業規則改正案の提案日が10月22日であることを、再度確認するように法人側に求めます。
就業規則改正案の提案日は10月22日です。これにあわせて、十分な意見聴取と団体交渉の期間が設けられねばなりません。しかし、法人側は、当初21日までの意見書メール提出、25日の書面提出を要求していました。21日の時点で、過半数代表者は、改正案(最終修正以前の版)を入手した当日に意見書を求められるという状態になっていました。このため、複数の過半数代表者が意見書提出を拒否したり、改正手続きの不備を指摘する要請書を提出したりしましたが、当然のことと思います。その上、意見書を集約した翌日の22日に、法人側は新たな修正案を出してきたのです。この手続きは、まったく異常なものとしか言えません。
北村理事は、22日付の「就業規則改正に伴う意見書の提出について(依頼)」にて「今回の改正手続きにつきまして、皆様にご迷惑をおかけいたしました」と述べています。これが真摯な反省であるかどうかは、意見聴取・団体交渉期間を十分にとり、労使の意見を交流させて変更すべきものを変更できるようにするかどうかによって証明されます。
しかし、北村理事は同じ文章の中で意見書の提出期限を28日と再設定しており、わずか3日間延長しただけです。しかも、法人側は以前から経営協議会・役員会を10月26日に設定しており、それを変更する予定はないと述べています。もしも、26日に就業規則改正を決定するつもりであるならば、ことは重大です。つまり、法人側が過半数代表者と組合の主張を容れて方針を変更する可能性があるのは、25日までに限られてしまうのです。繰り返しますが、改正案が提案されたのは22日であり、23日は土曜、24日は日曜日です。これは、改正案に対して、提案の翌稼働日までしか過半数代表者と組合の意見を反映させないぞ、という姿勢です。過半数代表者との関係ではまともな意見聴取とは言えませんし、また組合との関係では誠実な団体交渉とも言えません。
この理不尽な状態を克服する道は、26日の役員会では改正を決定しないと、法人側が約束する以外にありません。すでに別文書(「声明 役員会は、拙速な寒冷地手当改定を中止して、経営者に相応しい説明責任を果たすべきである」)で指摘したように、今回の寒冷地手当削減・廃止は、教職員の生活を直撃する重大な不利益変更です。就業規則の不利益変更は、高度の合理性がなければ実施できませんし、その合理性の中には過半数代表者からの誠実な意見聴取と、労働組合との誠実な団体交渉が含まれます。
職員組合は、法人側が、26日の役員会で就業規則改正を決定しないことを約束し、手続きに重大な瑕疵のある就業規則改正案を撤回するか、適切な意見聴取スケジュールを設定してやりなおすことを要求します。
最後に、そもそもなぜこのような瑕疵のある手続きが行われているかについて一言します。それは、北村理事が自ら団交の場で語られたように、人事院勧告と給与法改正と寸分違わぬ制度改正を行おうとしたからです。そして給与法改正案ができるのが予想外に遅れたから、東北大学の就業規則案の作成も遅れたというのです。
役員会の目はどこを向いているのでしょうか。過半数代表から誠実に意見を聴取し、組合と納得がいくまで団体交渉を行うことよりも、政府のスケジュールにあわせることを優先する。これが今回の法人側の行動原理です。しかし、このような自主性のなさこそが、国立大学法人化によって克服すべきものだったのではないでしょうか。組合は、法人側とは立場が異なりますが、法人側が政府にひたすら追従するのではなく、主体的に東北大学を運営することを望んでいます。それが研究・教育の自主性を守り、労使関係を健全なものとする大前提だからです。組合は、国立大学法人東北大学の将来のために、法人側が今回の失敗を適切に改め、その教訓をくみ取って、自主的な経営姿勢を確立されることを願ってやみません。