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若手研究者の自立性向上、学問的専門性の尊重、移行における不利益変更なきことの保証が、新制度の鍵である
―教員組織の新制度に関する職員組合の見解―

2006年7月
国立大学法人東北大学職員組合

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 学校教育法の改正を受けて、2007年4月1日より、全国の大学教員組織が新しい制度に移行します。東北大学でも、新しい制度の設計と、現制度からの移行に関する議論が行われています。法人側は、6月6日に早稲田理事名で「教員組織における新制度の導入及び移行に関する方針(案)」(以下方針案)を提示し、7月19日にはこれを改訂したもの(以下改訂案)を各部局に送付しました。今後、学内の意見交換を経て、9月には法人側の正式案が設定されるとのことです。

 職員組合は、現在の方針案と、それをめぐる議論の仕方に重大な懸念を持っています。以下、新制度への移行に当たり、これだけはどうしても踏まえるべきだという基本的視点を提示して、学内論議の進展に寄与したく思います。

1.若手研究者の自立性・自律性向上が最大の目的

 何よりも強調しなければならないのは、今回の学校教育法改正の最大の目的が、若手研究者、とくに助手を自立した教育・研究者として認め、長年にわたる助手問題を解決するところにあるということです。助手が教授や助教授を「助け」、助教授が教授を「助け」るという従来の法の規定は、若手研究者の地位向上を阻み、過重な業務負担のもととなってきました。これを取り払うというのが今回の法改正の趣旨です。テニュア制の導入が目玉であるかのように宣伝されていますが、違います。職階の変更は法定事項ですが、テニュア制は法的に義務づけられたものではありません。

 したがって、「若手研究者の自立性・自律性向上」という一線を守っているかどうかが、今回の制度変更の成否を判断するもっとも単純かつ重要な基準となります。そして、何よりもすべきことは、現行助手・助教授に比べて、新組織のもとでの助教・准教授の研究・教育条件が実質的に改善される保証をつくることです。もしそれができないのであれば、この組織変更には積極的意味は認められません。

 6月の「方針案」は、「背景」として今回の制度改正の趣旨が「若手研究者の自律性の向上」にあることに触れるだけで、具体的な方策は何一つ書かず、もっぱらテニュア・トラック制の導入を前面に押し出したものでした。その後、「改訂案」では、「すべての部局において、教授のみでなく『准教授』が主査として学位審査を担当できるとともに、『准教授』及び『助教』が自らの判断で研究費を裁量可能な整備等を図ることとする」という文章が加わりました。「改訂案」の方が改革の本旨に近づいてはいますが、これだけで研究費や必要な権限が保証されるわけではありません。財政的裏付けを伴った、実効ある措置が必要です。

2.単なる任期制拡大に終わる危険を持つテニュア制

 「改訂案」は、若手研究者の研究・教育条件については具体的に取り扱わない一方で、テニュア制については、「領域の特性に配慮しつつ」「テニュア・トラック制の活用に努める」という方針を示しています。

 現在論議されているテニュア制は、その語感とは裏腹に、テニュアに積極的な意味をもたせるようなものではありません。テニュアとは、「本学の定める教員の定年に関する規程の範囲で在職を保証すること」にすぎないのです。アメリカで見られる制度のように、定年なしの終身在職権が確保されるわけでもありませんし、法人化で弱められた教員の身分保証が再強化されるわけでもありません。つまり、テニュア制という名の下で導入されようとしていることの目玉はテニュア職ではなくノン・テニュアの職、具体的には助教の原則任期制なのです。

 現行助手と比べると、助教は原則任期付きとなり、しかも授業を正式に担当することになります。これでは、責任・負担の増大と雇用の不安定化だけが助教に押しつけられることになります。助手問題をより深刻な助教問題に転換するだけであり、若手研究者の自立性・自律性向上という改革の本旨は置き去りです。新制度がこうした方向に向かうことを、私たちは決して容認することはできません。

3.学問特性に基づく部局判断の尊重を

 一方で、現行の研究助手の数がきわめて少ない部局が存在することにも注意しなければなりません。このような部局では、助教職の設置やテニュア制の導入は、教員の職階構成を大幅に変動させることを意味します。そのような大規模な変更を仮に行うとすれば、専門分野の特性を踏まえ、教授会をはじめとする教員組織の合意に基づき、部局の自主的な判断によって行われることが不可欠です。「改訂案」も、一方では部局の判断を尊重することに触れていますが、他方では「活用に努める」の名において全学に一律の制度を強制する危険をはらんでいます。権力的に、あるいは財政誘導によって画一的制度を全学的に強制するようなことはあってはなりません。それは、専門性に基づく正当な教員自治を破壊することであり、研究・教育活動を歪めるものであることを警告しておきます。

4.移行における労働条件の不利益変更があってはならない

 「改訂案」は、「『新規採用者』と『在職者の移行』は、分離して考える」という副題を持っており、移行問題の独自性に注意を払っています。このことは評価できますが、より徹底することが必要です。すなわち、現任の教員に関する労働条件の不利益変更がないことを保証すべきです。そのためにもっとも必要な具体的方策は、現在、期間の定めのない雇用契約を結んでいる教員を、すべて自動的に期間の定めのない雇用契約のまま、新制度に移行させることです。

 移行に際して、もっとも懸念されるのは現行助手が助教に移行する際に、任期付き契約への転換が強制されることです。これは、契約内容の一方的不利益変更であり、労働基準法と大学教員任期法の双方に違反する行為です。もしこのような強制を行えば、コンプライアンスに関する大学の信用を失墜させ、法的紛争を招くであろうことを、私たちは強く警告します。なお、実質的に同意しないことが困難な条件下で、同意書を形式的にとることも事実上の強制です。そのような事態、あるいはそう解釈されうる事態が生じる危険を一切排除するために、移行に際しての任期付き契約への転換は一切ないと保証するのが、経営者としての見識ある態度です。

 「改訂案」では、現任者の移行を「部局の判断において」行うとされていますが、こと労働条件の維持に関しては不適当です。なぜならば、これはコンプライアンスの問題であり、労働基準の法的ミニマムを保証する問題だからです。部局管理者が任期制への転換を強制するといった逸脱行為がないようにすることが、雇用契約の当事者としての法人の責任です。

職員組合は、今後も教員組織の新制度に関する検討を重ね、提案を行っていきます。そして、団体交渉を通して教員の労働条件が維持・改善されるように努力します。この機会に多くの教員の皆さんが組合に加入され、よりよい新制度の実現に向けて知恵と力を結集することを呼びかけます。


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