国立大の独法化、そして非公務員化が行われた2004年の春。私は全く時を同じくして、旧国研の(独)水産総合研究センター中央水産研究所に移りました。当時私は、東北大職組の中央副委員長として、独法機関のしくみや、就業規則、過半数代表選出の方法について、毎日のように検討していました。独法化そのものの理不尽さに憤慨しながらも、教職員の働き易い労働環境を作るために、正面から取り組んでいたことを思い出します。吉田先生を中心にまとめあげた「東北大職組版就業規則」は、今でも立派な案であったと考えています。しっかりとした理念を基に、何回も全大協に足を運んで勉強した知識を積み重ねたことで、当局交渉でも十分に主張できたと自負しております。
そんな独法化・非公務員化対応の渦中であったにも関わらず、ポンッと横浜・横須賀に職場を移して2年を過ぎました(執行部の皆さんには、本当にご迷惑をお掛けしました。この場を借りてお詫び申し上げます)。私の勤務する(独)水産総合研究センターは、元々水産庁の研究所であったのですが2001年に独法化しました。中央水産研究所は横浜市金沢区にあるのですが、私の属する浅海増殖部は離れたところに位置しており、約30km離れた横須賀市長井にあります。主に水産生物の資源管理や増養殖に関する調査研究に携わっています。赴任して、直ぐに組合員となったのですが、流石に組織率は高く、常勤職員の約80%が組合員でした。そして数ヵ月後には執行委員になり、少しずつ組織の仕組みや組合の活動スタイルがわかってきたところです。ちなみに、こちらの組合は、全農林労働組合(全農林:26500人)の分会です。この全農林は、連合傘下の日本国家公務員労働組合総連合会(国公総連:36800人)の半分以上を占める中核組織です。
旧国研の独法機関は大学とは異なり、中期計画が5年間単位です。ですので、発足の2001年から5年が経ち、丁度この春に「中期計画の作りなおし」と組織の「見直し」が行われました。もう2-3年前から、この見直し時期に非公務員化することは種々の情報によって伝わってきていました。ですので、私がこちらの組合の執行委員になった時には、大学での経験を活かしていろいろ貢献できるものと思い、ある程度腹をくくっていたわけです。しかし、執行委員会では、全農林のいろいろな指示を右から左へとこなす打ち合わせをしているだけで、全く非公務員化の議論をしません。問題提起をしても「全農林の対応を待ちましょう」と暖簾に腕押し状態でした。そんな悶々としている間に、04年12月末に政府行革本部は、独法機関見直し内容(機関統合と8300人の非公務員化)を発表し、05年1月に何と全農林は早々に、農林省当局に対して、非公務員化を含む独法見直しを「了」とする回答をしました。あっと言う間の出来事(というか出来事にもなっておらず、機関紙によって淡々と伝えられました)。不戦敗です。自らの身分を守ってくれない全農林って・・・と失望感に襲われました。
(しかし、こちらの組合は、大変強力に「私達を守っている」という面があることを実感しています。高い組織力、そして全農林という強い組織の後ろ盾で、職場では「組合要求」の影響力は高く、不本意な異動や職場管理職に対する圧力は絶大なものがあります。)
職場レベルでも組合は、高い組織率にも関わらず、反対運動を展開しませんでしたし、「そもそも論」の論議もありませんでした。多少議論されていたことは、海上保安部との船員の異動、水産庁との異動、外国との交渉時の身分といったことでした。本来ならば、何故旧国研独法が公務員であるべきか、公共性とは何かといった議論の中から税金によって賄われている私達の仕事の任務と役割を認識し直すことができると考えます。大学でも、公立大の存在意義や大学における教職員の身分保障の重要性をその都度議論し確認していたと記憶しています。
労働条件についても、異動の仕方、就業時間、裁量労働制といったものが中心で、身分保障(何と!)、災害保険、非常勤の待遇、過半数代表の選出については、全く検討していませんでした。
私は、種々の検討事項を整理した上で、使用者である理事長と組合委員長との交渉を提起しました。しかし、各分会単位での交渉はせず、全農林が独法をまとめて所轄省庁と交渉するとのこと。全農林には、『中央本部』、『地方本部(10地本)』、『分会(303分会)』があるのですが、その中央本部が農林省と交渉するというわけです。しかし上述したように、全農林そして国公総連は、一連の独法見直しを「了」としていますし、「公務員制度改革に対するわたしたちの基本的立場は、改革「反対」ではなく、労働条件と職場における労働組合権をしっかり確保しながら、現行制度の問題点を改善していく立場で、積極的に対応しています(国公総連HP)」ということなのです。地本は、強い指導性をもって、現場のトラブル解決に当局へ圧力をかけますが、交渉を通じた使用者との対抗軸は設定されていないわけです。対抗軸を失った組合に闘う姿勢は生まれないことを実感しました。交渉が遠くの場(地理的にではなく)で行われているためか、組合としての論点が全く浸透せず、議論の広がりはありませんでした。
実は、このような中で、非公務員化直前の3月になって、問題が生じました。東北大では組合の提案を中心になんとか民主的な方法で選ぶ制度を作ってきた「過半数代表」についてです。組合は組織率が高いため、組合委員長=過半数代表であると誰もが考えていたのですが、多く雇われているパートさん達を母数に入れて計算すると、過半数組合ではないことが判明したのです。結局、組合委員長が過半数代表となり一連の手続きを行いましたが。時間も無かったこともあり、過半数代表が構成員の意思を汲み上げるプロセスが欠けてしまいました。
私が感じたのは、「組合は組合員だけを守ればいい」は一理ある理屈ですが、そのように割り切る危険性です。過半数代表をいう新たな局面では、職場の信頼を失う原因になりかねないものと思います。特に、職場で決して恵まれているとはいえない待遇で働いている非常勤職員の要求を如何に汲み取るか、重要な課題だと思います。
組合としての交渉システムや組織運営の問題は多々あると考えますが、そもそも省庁・国研・独法機関の組合の上部組織が「小さな政府」を求めていることに根本矛盾があると思います。私は、現在の「小さな政府」路線に正面から挑むこと無しに、独法機関(大学も!)で働く者の地位向上はないと考えます。労働者全体の待遇、権利、生活を守るという基本姿勢を失わないように、しっかり対応していきたいと思っています。
片山知史 (Satoshi KATAYAMA)
本稿は職組新聞コア第216号に掲載された記事の完全版です.