有期雇用職員の無期転換問題に関する質問状

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2017年9月27日

国立大学法人東北大学 総長
里見 進 殿

国立大学法人東北大学職員組合
執行委員長 片山知史

東北大学の教育研究の発展のため日々ご奮闘されていることに敬意を表します。

 現在問題となっております准職員・時間雇用職員の雇用打ち切りを含む人事制度について、総長自らのご見解をお伺いいたしたく、本文書を差し上げる次第です。

 むろん、この件は人事労務担当理事の所轄事項ではありますが、残念ながら当該理事を中心に策定された現在の人事制度案は極めて多くの問題を含んでおります。しかし当組合からの度重なる問題点の指摘や説明の要求に対して誠意ある回答をいただくことができず、団体交渉による解決を断念せざるをえませんでした。一方で、この制度案は、すでに、当事者たちの怒りと悲しみ、社会各層からの批判、各部局担当者の困惑を招いており、本学の名誉を傷つけかねない重大問題となっています。

法の潜脱です

何よりも、准職員・時間雇用職員に関する本学の現在の人事制度案は、改正労働契約法の精神に反して雇用を不安定化するものです。外形的・制度的には法を踏み外さないように設計されていますが、客観的には非常勤職員を一律に5年で雇い止めにする制度であり、その設計が巧緻であればあるほど「巧妙に法の抜け道を探した」と受け取られます。まさに法の潜脱です。すでに新聞報道や国会での論議にも取り上げられ社会問題となっています。

 従業員1万人の東北大学は宮城県内でも最大の事業所のひとつであり、本学の判断は直接に県内の労働市場に影響を与えるものであり、同時に改正労契法への対応の規範として各事業所から注目を集めるものでもあります。全国的に見ても、日本を代表する大学のひとつである本学の帰趨は日本全国の大学のみならず民間企業も含めて関心を集めるところであり、改正労契法が真に雇用の安定化に資するのか、「5年で雇い止めすることは禁じられていない」という大きな抜け穴だけが実効性を持つザル法となるのかの試金石として注視されています。今般、東京大学において本学とほぼ同様の人事制度案が明らかになり、各方面からの批判を浴びているところであり、同じ批判はもっと早い時期から本学にも向いています。

現場の困惑と予期される混乱

本学の准職員・時間雇用職員の多くは「臨時に発生した雑用を片付ける」ために働いているのではありません。国立大学時代から始まる定員削減のため、基幹的・継続的業務であっても非常勤職員が担わざるをえず、現に長年にわたり本学で勤務して誰よりも当該業務に詳しいという准職員・時間雇用職員が多数存在し、この人々によって本学の円滑な運営が担われています。これらの貴重な人材を確保するどころか敢えて放出しようとすることにどういう合理性があるのでしょうか。

 5年雇い止めとセットで提案された限定正職員の採用が進められていますが、この制度は、このままでは問題を解決せず、むしろ事態を悪化させることになります。この制度自体は、意欲ある優れた人材の処遇を改善するためのもので、こうした制度があること自体は良いことだと組合も考えます。しかし、5年雇い止めとセットになっているために、外形的には処遇改善制度であることとは裏腹に、実際には必要な人材を確保するために使われることになってしまっています。処遇改善のためにはより多くの人件費が当然に必要となり、しかし、そのための予算措置は何もなされていないのですから、必要な人材を確保しようとすれば部局予算を圧迫し、予算面を重視すれば必要な人手を確保できないというジレンマを突きつけられて、各部局の人事担当者は対策に窮しています。年俸制での採用や雇用時間数の削減などさまざまな手立てで給与を抑える対応が取られているようですが、それでは処遇改善という本来の制度設計の意図は無に帰してしまいます。この制度が本来の目的通り正しく機能するためには、必要な人材は無期転換によって確保し、その上で優秀者の処遇改善を行うという制度設計が必要なのです。

すでに人材は集まらなくなりつつある

この間の不誠実な人事制度の変更はすでに人材の流出を招いています。東北大学に見切りをつけて退職した人が多数いるのです。現在、各部局ではこれらの補充を含めて、かなりの数の准職員・時間雇用職員の募集が行われていますが、思ったように応募者が集まらない状況だと聞きます。その原因のひとつは、昨年来、東北大学が非常勤職員を大量雇い止めすることがマスコミ等で報道されたことによる東北大学に対するイメージの低下があると考えられます。里見総長ご自身が、「いつ解雇されるか分からないような魅力のない職場に、優秀な人材が集まるとは思えない。大学からは誰もいなくなってしまう。」(里見進・東北大学総長インタビュー、中央公論2017年2月号62頁)と発言されていることが実際に起こっているのです。

 現在、景気の回復の兆しとともに人手不足が話題となりつつあり、少子化の本格的な到来を待たずしても人材を奪い合う時代が訪れようとしています。募集さえかければ有能な人間が多数応募してくるという従来の考えは改める必要があります。本学の仕事をよく知り、業務に習熟した人を大切にするべきです。

財源はないのでしょうか

無期転換については常に財源が問題とされます。確かに運営費交付金が毎年削減され続けていることは重大な問題です。法人化以降の我が国の学問研究の停滞の主因がここにあることは衆目の一致するところであり、まさに国の土台を掘り崩す愚策です。里見総長が会長であった国大協が、2015年10月に、財務省が国立大への運営費交付金の年1%削減を今後15年間継続する方針を示したことに対し、「優れた人材を社会に送り出すという国立大の役割を十分に果たせなくなる」と抗議する声明を発表した通りです。

 一方、本学では、全体としての予算規模は減っておらず、准職員・時間雇用職員を雇用条件を変えずに無期化した場合でも、当面財政的な問題は起こらないことは明らかです。将来、財政的な問題が生じた場合であっても、現在の准職員・時間雇用職員の年齢構成は広く分布しており、退職後不補充で十分対応できると思われます。もちろん、個々の外部資金について見れば途切れることもあり、また部局による外部資金獲得額の偏りもあります。したがって、基幹的・継続的業務については財源を部局任せにすべきではなく、将来的には全学的にこれを担保していく仕組みを策定すべきです。名古屋大学では実際にこのような制度を作っています。同様の施策が東北大学でできないとは思えません。

当事者にとっては命と生活に関わる人権問題です

ここまでもっぱら経営的な観点から述べてきましたが、雇い止めされる労働者の権利こそが本件の最も重要な論点です。非正規労働は主として家計補助のためという時代は遠い過去のものであり、今は十分とは言えない報酬であっても、それで自らの、さらには家族の生活を支えている非正規労働者が多数存在します。不安定なポストに不安を持ちつつ働いてきた中で、雇用安定化の法が成立して希望を持ったところに、突然の雇い止め。その怒りと悲しみを考えてください。

 「もう10年も働いてきたのに、なぜ突然辞めなくてはいけないのか」「長く働けると言われて職に就いたのに話が違う」「高校生の子どもと二人の生活を私が支えている。来年4月からどうしていいのか不安でいっぱい」「本当に一生懸命に働いている人たちを簡単に辞めさせないでほしい」「いつ辞めさせられるか分からないような魅力のない職場になってしまったら、優秀な人が集まるとは思えない」

 本人の知らないところで後任人事が進められ、不本意な退職を申し渡されたあげく、後任者への引き継ぎ業務を強制されるなどハラスメントとすら見なされうる事態も発生しています。

 長年にわたって更新を繰り返して働いてきた人たちには、改正労契法施行以前から判例による合理的期待権が当然にあります。これは今年辞めるか2年後に辞めるかどちらかを選べというような「同意書」へのサインで消滅したりはしません。そもそもそのような選択を迫ること自体が不当です。最近働き始めた人であっても、長く働いてきた人を身近に見ており、更新が続けられると期待するのは当然でしょう。東北大学を職場として誇りを持って働いてきた人達の心と生活を、どうか大切に考えてください。

改正労契法に対応するためには少なくとも以下のような制度が必要です

第3期中期計画期間の最後の年に、東北大学は、東京大学、京都大学とともに指定国立大学となりました。里見先生のご努力が実ったものとお慶び申し上げます。その最後の年の年度末を混乱と社会的批判の中で終わるのはあまりにも残念です。ぜひ、指導力を発揮されてこの混乱を未然に収束させることを期待します。

以下お伺いします。

  1. 東北大学は、学問の府として、法令順守に関しては社会に対し正しい規範を示すべきであり、法の趣旨を潜脱するような行為を行うべきではないと考えられますが、如何お考えでしょうか。
  2. 限定正職員になる以外には5年以上の雇用を認めない現方針のもとで、現場で起こっている混乱をどのようにお考えでしょうか。
  3. 現方針のままでは、今後ますます、東北大学に有能な人が集まることを阻害する効果を及ぼすと危惧されますが、それについてどのようにお考えでしょうか。

この問題に対する里見総長のご見解を、ぜひご自身の言葉でお聞きいたしたく存じます。失礼ながら、この文書は公開質問状として学内外各層に公表いたします。激務の日々であることは承知しておりますが、総長からのご回答を10月末日までに頂けますようお願いいたします。頂いたご回答もまた、公表させて頂くことをご承知ください。


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