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国立大学の独立行政法人化に反対する声明

1999年11月15日
日本科学者会議宮城支部

 現在、国立大学を法人化する動きが急速に高まりを見せています。これは国立大学を廃止すると言うものであり、政府が推進している国家機関のリストラ、すなわち行政改革の一環に位置付けられるものです。全国に配置された国立大学は、これまで我国の高等教育および広範な分野にわたる基礎から応用までを網羅した学術研究の中心的な役割を果たしてきました。国立大学が廃止され法人格を持った組織に改変される動きに対して大学人を初めとする多くの階層から、国の将来の高等教育および学術研究に取り返しのつかない禍根を残すものであるとする危惧が表明されています。科学の自主的民主的発展に寄与することを目的として組織されている日本科学者会議宮城支部は、このような国立大学の独立行政法人化に強く反対します。

 国立大学の民営化に関する議論はこれまでも幾度か浮上しましたが、その都度多様な議論によってその制度が維持されてきました。仮に、今日再び国立大学の根本的な改変が議論される要因が生じているのであれば、これまでの議論をふまえ国立大学が果たしてきた役割を総括し、その上にたった21世紀における我国の高等教育、学術研究のあり方に言及し、科学技術の発展を思考するものでなければならないのは当然です。しかし、現在問題にされている独立行政法人化の動きは、単に定員削減を含む国家機関の縮小という政治課題を文部省がどのように解決するかという極めて目先の問題を国立大学の法人化で乗り切ろうとする安易な発想によるものです。

 国立大学は基本的に各県に一つ以上設置され、置かれた地域との多様な連係の下にその機能を発揮してきました。この機能は「地方大学」においてその地域における高等教育を支え、地域を支える人材の養成に寄与してきました。こうした成果は論文や特許の様に数値的に表しにくいばかりでなくその評価方法も確立されていません。国立大学の運営に「効率」と市場原理の導入を図るとする独立行政法人化構想では、このような側面の評価をどのようにするのかについて何ら記述することなく、「効率性」に依拠した研究教育費の配分、教職員数を減らすなどによるコスト削減による「企業努力」を大学に強要する仕組みとなっています。これらは結果として存続が困難になる大学を生み、国立大学の数の縮少というリストラが実現されること必至です。事実、「数県にまたがる地域の『覇者』になることが本大学の『生きる道』である」と宣言する大学が出ていることはこの図式が関係者の常識的な理解となっていることを物語っています。私達は国立大学、とりわけ地方大学が果たしてきた役割を単なる国家財政の危機の打開という一時の政治課題の下に反故にすることに強く反対します。

 国立大学が国費によって国民の高等教育を保証して来た意義は高く評価されるものです。授業料の高騰が問題になっているとはいえ国立大学の学費は相対的に低廉であり、質の高い教育を機会均等の原則の上に保証し社会の発展に大きく貢献してきました。この役割は安定した大学運営が保証されてこそ達成出来るものです。自己責任(企業努力)に基づく効率性の追求とそれに基づく教育研究費の配分は大学がその本務に専念することを困難にします。安定した大学運営が国民から付託された高等教育を保証するために必須です。

 学術研究は広い裾野を維持し、厚い研究者層で支えることができればこそ社会が要請する多面的な課題に対応できるのであり、同時にそれは学問研究それ自身の深化を意味します。その過程を通してこれまで私達は数々の技術革新を成し遂げ、新しい科学観を創出してきました。その中心には常に大学があり、そして大学が明日の科学を担う有能な人材を輩出してきたからこそ学問の継続性が保証されています。独立行政法人の通則法が示す「3-5年を目途した中期目標、計画に基づく業務の遂行とそれに伴う評価」は成果の評価に長期間を要する研究の排除につながります。理論的な予言が数百年を経て実験的、現象的に証明されたり、当時にはさして注目を浴びなかった研究や技術がその後飛躍的な社会を革新する成果として花開いた例は枚挙にいとまがありません。通則法が規定するような短期間での業務の遂行のもとでは学問が著しく限定的になり、その底辺の広がりが制約される危険性を持っています。これは我国の学問が独自に発展する道を狭め、結果として外国における科学の成果のつまみ食いをする「物まね科学技術立国」に陥ることでしょう。高度の学術研究が社会的、経済的に安定した制度の下で開花することは歴史的にあるいは国際的に見て十分証明済みのことです。独立行政法人化の道はこれに完全に逆行するものです。

 私達は新しい世紀の始まりを迎え、これまでの科学と科学者の足跡が更なる真理の探究に如何なく生かされる道を築くことに努力します。国立大学の独立行政法人化は私達の期待とは全く相容れない無謀な政策であり断じて許すことができません。


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