6月の給与明細を見てため息をついた方も多いと思います. それでも,「震災復興のためならば仕方ない」,「2年後には元に戻るというし…」と考えた方もおいででしょう. 実際、東北大学は説明会等で、「今回の措置は、震災復興のため運営費交付金が減額されるために やむを得ないもので、2年間の特別措置である」と説明しています. しかし,これらの説明が嘘と欺瞞に満ちたものであることが明らかになってきました.
「この待ったなしの一体改革を推進する前に、まず政治がやるべきことがあるだろう」「国家公務員の人件費の約8%の削減、さらにはこれまで特殊法人と言ってきましたけれども、今は「独立行政法人」と言うようになりました。この独立行政法人を約4割減らすこと...」
http://www.kantei.go.jp/jp/noda/discource/20120217message.html
「それをこれからもっとそれ以上に、国民の負担をお願いをする前に、今、国会改革や、独法の改革、法案を提出していますが、しっかりやり遂げる。そして、国家公務員の人件費の削減だって、マイナス7・8%という、その実績を作ったじゃありませんか。これからもそういう実績を国民の皆さまにお示しをしていくことが必要です」
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/120625/mca1206251902009-n1.htm
「国家公務員の給与削減の実施」「独法等の役職員の給与見直しなど着実に改革を前進をさせている」 「一体改革とともにやり遂げなければならない重要課題が行政改革である」 「どちらが先ということでなく同時並行で包括的に取り組んでいきたい」
http://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg6522.html
どこにも,東日本大震災も復興も出てきません.すっかり消費税増税のための公務員人件費削減の話になっています.
「政府は25日,景気対策のための2012年度補正予算案を今秋にも編成する検討に入った.」 「景気対策の財源には,11年度予算の決算余剰金や,独立行政法人と国立大学,特殊法人の給与削減分を宛てることを検討.」 (強調は引用者.以下同じ)
一方で,「H23年度の震災復興予算15兆円の内,6兆円が余っている」と報道されています.
(復興予算+余りでGoogle Newsを検索)
そのうち1兆円は各省庁に配分され,ここからは“もんじゅ”を運営する「日本原子力研究開発機構」に83億円,北海道開発事業費へ119億円,沖縄開発事業費へ2億なども支出される予定です.
(
東日本大震災復興特別会計PDFファイル http://www.reconstruction.go.jp/topics/tousho.pdf)
復興予算については,事業が遅れているだけでこれから使うということは当然あるでしょうが,それにしてもわれわれ東北大学教職員から取り上げた27億円,何に使われるのか,わかったものではありません.
2012年度運営費交付金はすでに予算として確定しており,財政法第29条によって,“予算作成後に生じた事由”がない限りこれを減額することはできません.
今年度の補正予算で運営費交付金が減額されるのは,大学から余剰金として国庫に返納されることが必要です.そのことが「予算作成後に生じた事由」となって,補正予算での減額が可能になります.
「国が各機関に支出している人件費向けの補助金を削減したり、各機関で給与を減らした分を国庫に入れたりすることで1000億円ほどの財源の捻出を目指す。」
「閣僚懇で独立行政法人等の人件費について、ご存じのとおり国家公務員が法律改正を行って引き下げたわけですけれども、公的部門全体でこれに倣ってもらいたいということで、減額分を今それぞれの法人と管理側で話をしておりますけれども、これを是非急いでほしいということと同時に、次の予算編成の際には、運営費交付金により人件費が賄われている独法等については、国家公務員の給与削減と同等の給与削減相当額を算定し運営費交付金等から減額をしたい旨、私の方から申し上げました。」
http://www.mof.go.jp/public_relations/conference/my20120511.htm
「財務大臣が言ったのは、来年度からでしょう。来年度のその予算編成に当たっては、そういうふうにしますと、いうふうに私は理解してますが。」
http://www.cao.go.jp/minister/1201_k_okada/kaiken/2012/0511kaiken.html
問 独法の話に戻って恐縮なんですけれども、102の独法の人件費を削減した場合どのくらいの財源捻出が。
答 700億。
問 年間700億ですか。
答 トータル700億。内数を言うと、独立法人300億、国立大学法人300億、特殊法人100億、合わせて700億です。7.8%乗ずれば。
国立大学法人全体で300億ならば,東北大学の適用される額は大学側の言う7.8%,27億円よりずっと小さくなるはずです(H24年度国立大学法人運営費交付金総額1兆1422.7億円.東北大学の運営費交付金505.08億円.から計算すると2.6%,13.3億円程度).
ところが,7/18文科省「情報提供」では人件費に7.8%を乗ずれば国立大学全体で600億円という数字が示され,運営費交付金への影響額は300億だが,差額の300億について「国立大学の震災復興に使う」「人件費に充当することはできない」としています.
この点について全大教との会見で,国立大学法人支援課課長補佐は「(600億というのは)財務省と確認したので間違いない」「残りの300億円を震災復興と言っているのは財務省だ」と述べる一方で,600億という数字に文科省が責任を持てるのかという問いには「補正予算の話が具体化しなければ,具体的な数字について情報提供したくてもできない」と逃げています.
たしかに公務員給与臨時特例措置は2年間の時限立法ですが,先の野田総理の発言にあるとおり,政府はこれを震災に伴う一時的措置とは見なしておらず,公務員給与削減の一歩と考えています.だとすれば2年後には新たな法案によりこの削減を固定化し,その上に更なる減額を持ち出してくる可能性が極めて高いと思われます.むろん,2年後に民主党が政権の座にあるかどうかはまったく不明な政治状況ではありますが,その他の政党も多くが公務員人件費削減を掲げているため,まったく楽観はできません.
大学側は給与削減の相当部分を勤勉手当の優秀者割合を増やすことで代償すると説明していますが,すでに2009年度の6億7000万円に及ぶボーナスカット,つづく2010年度の3億9000万円に及ぶボーナスカットの際に,優秀者の割合を大幅に増やすという代償措置を行っています.したがって,このときに優秀者となっている多くの教職員にとっては今回の代償措置は全くその効果がないものとなっています.
また,新たに優秀者となった方についても,その増分はせいぜい数万円で,到底給与削減額にはおよびません.
今回の賃下げの根拠となっている国家公務員給与特別措置法は,人事院勧告によることなく公務員の給与を削減するもので,憲法28条の労働者の労働基本権の保障と公務員でそれを制限する代償措置としての国家公務員法第28条に違反しており,日本が批准しているILO条約にも違反しています.これに対して全国の国家公務員241人が集団訴訟を起こしています.
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120525/trl12052514230007-n1.htm国立大学法人の賃金は労使交渉によって決まります.政府が国立大学法人に賃下げを要求していることは,国から独立した法人の労使交渉への国家権力の介入にほかならず労働組合法や憲法に違反します。閣僚がいつも「自主的・自律的な労使関係に基づいて」という枕詞を付けて「要請」するしかないのもそのためです.これですら権力介入と言うべきですが,文科省はさらに密室での脅しによって賃下げを迫っています.国立大学法人法によって認められた法人の経営権を踏みにじる違法な介入です.
労働者の合意を得ないまま就業規則を変更することで労働条件を不利益変更することは労働契約法第9条で原則として禁止されています.その特例として同第10条で,労働者の受ける不利益の程度,労働条件の変更の必要性,変更後の就業規則の内容の相当性,労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的な就業規則変更である場合にのみ例外的に認められるに過ぎません.大学は前述のように嘘の説明を行っており,不利益変更に必要とされる条件を満たそうとしていません.後述のように組合との団体交渉は実質的に行われていません.
東北大学職員組合では,2011年6月28日に「国家公務員の給与の臨時特例に関する法律案」の国会提出を受けて要求書「国家公務員給与削減に反対し、 本学教職員の給与引き下げを行なわないよう要求します」を総長及び各部局長に送付しています.法案成立を受けて,2012年3月21日には「声明『国家公務員の給与の改定及び臨時特例に関する法律』の成立を強く非難し、その即時廃止を求める」および,「声明 国立大学法人の『国家公務員の給与の改定及び臨時特例に関する法律』への追従を絶対に許さない」を発表してきました.
2012年5月21日に行われた団体交渉では,なぜ運営費交付金の減額が可能なのか,それは違法ではないのかについて問いましたが,当局は「減額されることは確実,文科省の課長級が皆そういっている.誰とは言えない」「特別措置法は成立したのだから合憲」という回答に終始しました.そして次の団交を行うことなく5月29日には就業規則の改定を強行したのです.これに対して組合は「声明 大学当局は、4.77%〜9.77%の大幅賃下げを撤回せよ」を発表しました.6月27日の団交では賃下げの撤回を求めるとともに,運営費交付金の削減額は大学と文科省との擦り合わせを経て確定すること,すなわち一方的に削減されるのではなく(前述のようにそれは法的に不可能です),大学法人が自ら,運営費交付金から「削減してほしい額」を文科省に示すプロセスが存在することを明らかにしました.
今回の措置は,全国の国立大学法人でも同様に行われつつあります.しかし,すべての大学が東北大学のように唯々諾々と給与削減を行っているわけではなく,対応は大学によってかなり異なっているようです.例えば,北海道大学では,今回の賃下げに関して, 組合との間で計5回の団体交渉を行い,もちろん,妥結することはありませんでしたが,9月1日まで賃金減額を遅らせています.
また,削減率を圧縮したり,若手や医療職については賃下げを行わないこととした大学もいくつかあります.それらと比較しても,東北大学の対応は極めて不誠実です.
東北大学職員組合は,
皆様からのご意見や情報があれば是非お寄せください.