A組織業務・人事制度委員会及びB目標・評価・財務会計委員会の合同会議議長
早稲田 嘉夫 殿
2003年3月31日
東北大学職員組合
法人化対策特別委員会委員長
法学研究科・教授
吉田 正志
東北大学職員組合は、去る2月28日に政府が閣議決定して国会に提出した国立大学法人法案及びその関連法案について、それが設置者としての国の責任をあいまいにし、競争原理のみに研究・教育の方向性を委ね、またトップダウン的な大学運営を可能にするなど基本的な問題点を孕み、到底賛同し得ないとの立場に立っている。しかし、この法案が万一成立した場合、法人下での教職員の労働条件を決して悪化させず、むしろ改善を実現するために準備しておくことも、職員組合として当然の責務である。そのため、本組合は昨年より法人化対策特別委員会を設置して、法人化をめぐる諸問題を労働者の立場から鋭意検討してきている。
その一環として、昨年7月12日にA委員会報告案に対し、8月30日にB委員会報告案に対して、パブリック・コメントを提出した。今回の合同会議による「国立大学法人東北大学の制度 中間報告以降の検討に関する報告(案)」(以下、「報告案」と略称)についても、昨年と同様の立場でパブリック・コメントを提出することをあらかじめ断っておきたい。
「本報告」は、「中間報告」に、その後新たに抽出した25の課題について検討した結果をまとめたものとされる。これによれば、「中間報告」はそのまま生きているごとくであるが、具体的に本文をみると「中間報告」とはまったく異なる内容が盛られているところもあるように思われる。理念及び具体案において「中間報告」のどこがそのまま生かされ、どこが「本報告」で修正されたのか、明示した上で叙述されたい。
すでに法案が国会に提出されており、また「本報告」の本文では「法案によれば云々」と法案を前提とした記述がなされている。法案がこのまま国会を通る保障はないものの、すでに法案が明らかになっている以上、以下の2点を考慮されたい。
序文の「「本報告」の性格について(案)」の叙述は時宜を失しているので、4月の評議会に報告するならば、その時点に相応しい内容に修正されたい。
本文で「法案によれば云々」と法案の参照を示す場合には、「法案の第○条によれば」と、具体的に明記されたい。
「本報告」では法人化後の労使関係についてほとんど触れるところがない。しかし、あと1年後に迫った法人化を見据えるならば、役員の制度ばかりに目を奪われているような「本報告」はきわめて不備といわざるを得ない。よって、さしあたり下記の点を課題として設定し、検討を加えられたい。
法案の附則第4条は職員の引継を規定している。この職員には常勤職員は当然のこと、非常勤職員も含まれると解される。しかし、非常勤職員は3月31日をもって契約が終了するとして、法人に引き継がれないのではないかとの不安をもっているのが現状である。これまで必要とされていた非常勤職員を法人化を期に削減することは認められない。「本報告」中に非常勤職員も法人に引き継ぐことを明記すべきである。
就業規則・労使協定・労働協約等、法人化に際して是非とも準備しておかなくてはならない労働関係諸規定について、役員となることが予定されている側から早急に案文を労働者となる教職員及び現在ある職員組合に提案し、この夏からでも協議を開始することを明記すべきである。
法人化に際して労働条件の不利益変更は絶対に認められない。たとえば、有給休暇、諸手当等について現行の労働条件を最低限維持し、むしろ改善を図るよう、役員は努力する責務を負うことを強調すべきである。なお、雇用保険掛金について労働者の持ち出しになることは認められない。
労働災害防止等の施策策定を課題として設定し、労働安全衛生法を遵守しつつ労働環境改善に努めるための制度設計を検討すべきである。
財務関係の記述も「本報告」では少ないが、さしあたり次の2点については課題として設定し、検討を加えられたい。
学生納付金については、一定の範囲内で法人の裁量に任されるようであるが、国民にとって切実な関心事項である。たとえば、部局によって異なる授業料制度を導入するのかなど、是非とも早く知りたいところであろう。よって、できるだけ早く大学の基本的態度を国民に知らせるようにすべきである。その際、東北大学としては、経済的に困難な者でも高等教育を受けられるよう最大限配慮する立場を鮮明にすべきである。そのためにも、納付金額を最低線に抑え、授業料免除制度を充実させ、また東北大学独自の奨学金制度などを積極的に工夫すべきである。
いわゆる「青葉山移転」問題は、法人の財務にとってきわめて重大な影響を及ぼすものである。片平・雨宮両地区を手放して青葉山に移ることが、これからの法人にとって有利なのか否か。また中期計画を作成する上でどのように位置づけるのか。この点は避けて通れない問題である。移転の是非も含めて再検討すべきである。
些末なことであるが、「進めていただく」(課題9)、「お願いする」(課題10)、「実行頂く」(課題16)など、敬語が使われているが、「本報告」のような文書には不必要である。書き換えられたい。
法人化後の大学においては、総長の役割は現在よりも大きくなることが予定されている。それだけに、総長が法人に働く労働者の信頼を得られる否かは、大学の運営にきわめて重要な影響をもたらすであろう。その意味で、東北大学職員組合は、これまでも大学当局とできるだけ良好な関係を維持するよう努めてきたところであるが、法人化後もこの関係を維持発展させたいと考えている。そのためにも、
総長は教職員の多数の支持を得た形で選出されることが望ましい。その選考方法については今後の検討事項であろうが、これまでのように何らかの形で教員が候補者の選出に携わるよう制度設計をすべきである。同時に、今後の大学運営における事務組織の役割の重要性を考えるならば、職員をそこから排除するのは不合理であろう。この点も合わせて検討されたい。
法案第12条第3項に「学長又は理事を学長選考会議の委員に加えることができる」とあるが、東北大学では加えるべきでない。大学の活性化、改革の推進を目指すならば、次期総長選考に現職総長の意向が入らないようにしなければならない。
法人化後の大学運営においては、理事の権限もきわめて大きくなる。したがって、理事の選考方法は重要であり、理事に対するチェックも必要である。そのため、理事の任命は、教育研究評議会及び経営協議会の承認を得ることを明記すべきである。なお、理事及び監事が高級官僚のいわゆる天下り先として利用されるようなことがあってはならない。
総長以外の役員である理事及び監事の解任に係わる学内手続きを整備されたい。
役員報酬は公表することを「本報告」中に明記すべきである。
病院運営の効率化・高収益化を図るために、医療従事者の削減を主とするならば、思わぬ医療ミスを招く結果となり論外である。とくに看護師数の配置には配慮し、適切な看護体制をとれるようにすることを明記すべきである。その際、現在非常勤の看護師をも含めた看護師数を正職員数として措定されたい。
万々一、医療ミス等により高額な賠償をせざるを得ない場合等の措置につき、財務の観点から明らかにされたい。もちろん、この問題は単に病院に係わるだけでなく、その他の部局における事故にも同様の問題がある。
学内共同教育研究施設のあり方については、それぞれの施設の実情を十分に配慮した上で検討されたい。
学内共同教育研究施設ではないが、附属図書館について他に言及するところがないので、ここで述べておきたい。附属図書館は、法人化後には学内のみならず学外に対しても開かれた場として、きわめて重要な役割を期待される。それにもかかわらず、職員は非常勤が多く、到底適切な運営をなし得る状態にない。司書など専門的な資格を有する職員を適切に配置するほか、東北大学の顔に相応しい職員数を確保するよう適切な箇所に明記すべきである。カウンター業務などを単純作業とみなして安易に外注化するなどは論外である。
部局長の選考方法を各部局で決定することについては異論ない。ただし、その場合でも極力ボトムアップ的方法を採用すべきである。
この点についてのコメントはない。
4行目「学校教育法などの法令の範囲内で」を、「教授会の設置を義務づけている学校教育法第59条等の法令の範囲内で」と修正されたい。審議機関としての部局教授会の機能を明確にするためである。
役員会と部局教授会との関係は、今後も慎重に検討されたい。その際、大学は学生の教育の場であることがつねに念頭におかれるべきである。教学なくして東北大学はあり得ない。その意味で、学生の声をも含めて、「大学の特色であるボトムアップ機能を十分活用し得る仕組み等について検討する」ことは重要である。
ここでいう「各部局における人事」とは、教員に関してのものに限定されるのであろうか。とくに「男女共同参画推進」を考えるならば、むしろ職員を含めての叙述にすべきではないか。
法人化後の大学は、役員とくに総長の役割が強大になる。そのためにも「中央(仮称)枠財源」が必要と考えるか、それだからこそそれは最小に抑えられるべきだと考えるか、意見の分かれるところであろう。しかし、いずれにしても、まずは各部局の人的・財政的確保が前提であり、また、中央枠財源の使途が適切で透明なものとなるようにする制度的枠組みを考慮すべきである。
「全学枠定員」問題については、該当教職員が不安等を抱くことのないよう、配慮されたい。
「中央枠財源」、「全学枠定員」の運用計画は、教育研究評議会及び経営協議会の承認を得るよう制度化すべきである。
本文中の2〜4行目、「任期制の導入は、〜十分期待できる」の文意は不明である。分かりやすく書き換えられたい。
教員への任期制導入は、各部局の判断で運用することが適当との指摘に合理性を認める。しかし、そのマイナス面を「報告案」は過小評価しているといわざるを得ない。もともと「大学の教員等の任期に関する法律」は、先端、研究助手、プロジェクトという3種類の限定された職に関して導入可能としている。したがって、法律及びその付帯決議の趣旨を十分尊重し、安易に一律導入などすべきでないことを明記すべきである。
プロジェクト型の任期制ポストに出る場合は、そのプロジェクト終了後には現職に復帰できるよう措置すべきである。
教員の定年については、公的年金の支給開始年齢を考慮に入れるのが自然である。
教員以外の職員については、「期限を限って設定した業務を担当する等、限定された場合を除いて、「任期制」は原則的に考慮しないという考え方がある」(3〜4行目)とあるが、限定された場合は職員に任期制を導入することが可能とする法的根拠規定を教示されたい。
教員以外の職員の定年についても、教員とまったく同様に公的年金の支給開始年齢を考慮すべきであるとの考え方もあることを明記されたい。
事務機構の構築に当たっては、現場の事務職員の声を極力吸い上げ、安易な合理化や外注化はすべきでないこと、いわゆるノンキャリアも積極的に登用すること及びこれまで顕著であった他省庁職員との格差を是正すること、等を明記されたい。
技術職員の組織構築に当たっては、大学における技能の習得及びその伝達の特殊性を考慮した上で技術職員の位置づけを明確に記述すべきである。技術職員の教育・研究に対するサポート機能を弱体化させないため、これまた安易な外注化はすべきでないことを明記されたい。
外注化は一見効率的にみえるが、職員の志気及び主体性を減退させるおそれがある。事務職員、技術職員に求められるのは機械的に業務をこなすことではなく、主体的に大学運営、研究・教育に携わることである点を明瞭にされたい。
いわゆる行二職員の処遇について配慮・検討されたい。
給与体系はきわめて重要な問題である。法人化を契機とする労働条件の不利益変更は認められない。具体案の提起に当たっては教職員及び職員組合の意見を徴することを明記されたい。
何らかのインセンティブを考慮する場合、その評価が適切かつ公平であることが前提となることを明記すべきである。
とくにコメントはない。
共通教育、語学教育等について、それを重視して検討を加えることに賛成である。ただし、処遇面で優遇する等の場合、それの基礎となる評価制度については、それが適切かつ公平なものとなるよう十分検討されるべきである。
学校教育法第58条第1項は、「大学には、学長、教授、助教授、助手及び事務職員を置かなければならない」とするが、本文でいう「教員の職位に関する事項は部局の裁量内とも言える」ということの根拠を教示されたい。
助手のポストについては、各部局の実情に応じて配慮されたい。
教務職員について何ら触れられていないが、教務職員問題は、全国の国立大学の中でも本学が最も矛盾を抱えている問題であり、このことに言及がないのは問題である。基本的に、教務職員は助手または専門職員に振り替えることで問題を解消することを明記すべきである。
教員個人の評価は各部局の責任で行うとする点は賛成である。しかし、評価制度はいまだ煮詰まったものができているとは到底いえないのが現状である。何らかの評価は当然必要であるが、それが適切かつ公平なものとなるよう、さらに検討を加える必要がある。
しかし、法人化以前の現在でも、評価のための書類作り等に厖大な時間が消費されている。その教育・研究に与える影響は甚大なものである。この点をも本文に明記した上で、検討を加えられたい。
資源配分については各部局の判断に従うべきであるが、10〜11行目の考え方はいかがなものか。また、「ペナルティ」という語そのものも不適切であろう。
資源配分については、大学の財務構造全体の中でさらに具体的な提案を望みたい。
中期目標・中期計画「案」は、法人化後の東北大学にとって重要な文書である。4月末を目処に骨子をまとめるとのことであるが、その際には、パブリック・コメントを募集するなどして、全学の叡智を集める予定であることを明記されたい。
以 上