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総長候補適任者アンケート回答

 現在、今年11月からの東北大学総長を選考する一環として、教育研究評議会が推薦する総長候補適任者についての選考が行われており、3/9には意向投票が行われます。総長候補適任者の「所信表明書」および「履歴書」は、すでに本学のホームページにて学内閲覧が可能になっています。組合は、意向投票を前に労働組合としての立場から公開された所信に加えて各総長候補適任者の見解を聞くためにアンケートを実施しました。以下に質問項目および回答全文を掲載します。全学教職員のみなさんの判断の一助としていただければ幸いです。

 質問項目(詳しくは,総長候補適任者アンケートをご覧下さい)


Q1 法人化のメリット、デメリットについて

犬竹正明氏

法人化後の「予算の減少」は大きなデメリットです。しかし、独法化された以上、デメリットをいかに克服するかということと、メリットをいかに大きくするかを考えたいと思います。国大協と協力しつつ、他の先進国並みのレベルにまで「教育研究予算」を引き揚げるよう、文部科学省へ働きかけていくことは大事であります。他方において、競争的資金などの外部資金獲得に着実に努力する必要があります。また、大学が人材養成を通じていかに社会貢献を行っているのかを国民の皆様に知ってもらい、理解していただくことも大切です。

法人への移行期であるための「業務の多忙化」がありますが、事務手続きの簡素化と専門家の育成や事務処理システムの高速化を急ぐ必要があります。

「評価報告の煩雑さ」も、法人への移行期であることが原因の一つですが、大学認証評価、大学評価機構による評価の他に、専門家や有識者に依頼して実施する自己評価もあります。このように多種の評価があるために煩雑化していることもあり、簡素化していく提案を積極的に行っていくことも必要でしょう。それぞれの評価を、実質的でかつ簡素なものに整理していく働きかけが必要です。これまで大学は「評価される」というシステムを備えていませんでしたから、全面的に自らを点検することによって、優れた点と改善すべき点を明確化する機会であるとも言えます。

現実的な問題として、評価のためのデータを整備する作業は大変な労力を要します。教員一人ひとり、学科と専攻、部局、大学の各レベルでのデータフォーマットをしっかり整えて、1年に一度これらを更新していけば全ての評価に対応したデータが自動集積されるシステムを評価機関に早急に確定してもらうことは、二重、三重の評価データを作成する時間と煩雑さを減らすために重要なことです。

井上明久氏

法人化は本学に多くのメリットをもたらしつつあると思っています。その主な点として、(1)センターや施設の新設、新しい教育研究組織体制の構築などに代表される、これまで文部科学省の概算要求事項として承認を得なければならなかったことが、部局、大学の戦略に基づいて自主・自立的に自己責任の下で行えるようになったこと、(2)人件費などの運営費交付金が部局に渡し切りとなり、部局責任者の裁量に委ねられ、また年度繰越しも可能となり、長期的戦略に基づいた人事組織体制の構築が可能になったこと、(3)真に斬新で特徴ある概算要求事項であれば同一部局からの提案であっても毎年でも文部科学省から採択して頂けるという自由で柔軟な競争的環境により、大学としての予算や研究費を増加させることが出来るようになったことなどから、大学が大飛躍できる絶好の機会を与えられたものと捉えられます。デメリットと指摘されている業務の多忙化や評価報告の煩雑化は、現在の過渡期の一時的なものとみなすことも出来、今後業務の簡素化・効率化及びIT化の更なる推進により改善・解消できるものと思われます。また、今日の状況はデメリットをメリットに跳ね返す工夫や力量が求められていると考えます。

根元義章氏

大学が、自主的、自立的な運営を行うことにより、時代に即した大学としての責務を果たすことを主目的として法人化が行われたと考えます。この制度のもと東北大学は発展し、自らの責務を果たしていかなければなりません。国立大学の歴史は長く、運営上の多くのノウハウが蓄積されており、法人化後2年が経過した今でも過渡期であり、法人化のメリットが具体的に得られるには時間を要します。国立大学の枠組みで機能したものが、法人化のもとでは不整合が生じているものがあり、これらを明らかにし解決することが今後の課題で、この不整合が生じている点を法人化後の体制でどのように改善していくかについて、戦略的に対応していくことが必要です。必要に応じては中期目標の修正、次期中期計画への反映が必要となると思います。

野家啓一氏

メリットとしては、大学の使命としての「教育(人材育成)」の重要性の再認識、競争的資金獲得へ向けた努力など、教員の意識改革が進捗し、大学の納税者に対する説明責任が自覚されたことが挙げられます。デメリットとしては、効率化係数の導入などによって厳しい財政運営を強いられるようになり、人員は増えないにもかかわらず、教育研究という大学本来の業務に加え、法人経営に関わるさまざまな業務が増え、教員も事務職員もそれに忙殺されるようになったことが挙げられます。いずれにせよ、法人化は既定の事実であり、後戻りはできませんので、今後は大学が「法人格」をもったことによる規制緩和を最大限に生かすことによって、本学の「個性」を積極的にアピールすることが肝要であると考えています。

早稲田嘉夫氏

「多くの事項を法人独自の考え方で、スピディーに決められる」という法人化のメリットは、原則的には誤りではないと思います。しかし、このメリットを活用した職場環境の抜本的改善等は十分達成できないまま、現状は、法人への移行作業、法人として新たに生じた業務(各種の報告、届け出)が発生している状況と考えています。例えば、現在戦略的に取り組んでいる「教職員用の全学電子認証システム」が構築されれば、システムごとの重複入力が不要になり、紙媒体と印鑑で行っている決済プロセスの簡略化等が実現、評価報告書作成プロセスの習熟化等と相俟って、改善が期待できます。いずれにしても、今後、法人化のデメリットを顕在化させないためにも、東北大学をどのような仕組みで、どのような長期展望を持って戦略的に運営するかが極めて重要だと考えます。とくにこの数年は、大学の運営と将来構想として「所信表明書」あるいは(http://res.tagen.tohoku.ac.jp/‾waseda/)に示しました重要指針を着実に推進するためにも、非常に大切な時期と考えています。

Q2 給与改善について

犬竹正明氏

先の人事院勧告では、地域ごとの民間給与に合わせて公務員給与を定めるという方針です。「評価に応じた給与」も基本方針に盛り込まれています。前の質問に対する回答でも述べたように、「評価」の有効性と限界性を見極めた運用が肝要であると思います。

事務・技術職員の給与が国家公務員行政職(一)の86%に過ぎないという現状は、その歴史的背景を踏まえて、現状に見合った制度へ改革していくことを要望していくことが重要であると思います。給与改善の実現のためには、まず大学自身が変革努力を真剣に進めつつ、国民的な理解を得ていく努力が必要でると思います。

井上明久氏

公明・正大で且つ長所を伸ばす加点評価体制下で優れた努力を重ねている人には当然給与改善を行うことが必要と考えています。効率一辺倒でない前向きの努力・研鑽を正当に評価して、給与改善を図る温かみのある施策が重要と考えています。

根元義章氏

国家公務員行政職(一)に比して、旧国立大学の事務・技術職の給与水準が低いのは、東北大学に限ったことではなく他の大学法人にもあてはまります。大学法人の職員が公務員でなくなったといっても、給与に関しては、人事院勧告に準じた扱いにせざるを得ないところがあります。給与改善が職員の業務遂行の活性化に結びつく重要なことであり、この枠組みの中で給与改善に向けた取り組みをしていくことが重要であると考えます。努力している者に対する処遇のあり方は当然検討されるべきですし、国に対して財源の要求ができる場合には、その方策も必要かと思います。人事院勧告との関連をどうするかは、他の旧国立大学法人とも連携して対応していくことが必要と考えます。

野家啓一氏

国立大学法人の教職員は、私立大学の教職員とは異なり、いまだ「見なし公務員」といった身分にありますので、給与に関してもある程度は人事院勧告をガイドラインにせざるをえない面があります。もちろん給与改善が可能ならば、今すぐにでもすべきでしょうが、現在のように効率化係数1%が課せられている状況では、人件費を含めた運営費交付金は年々減少していっています。全体のパイの大きさが小さくなっている現状で給与改善を行えば、他方で大幅な人員削減をせざるをえなくなります。したがいまして、給与改善の必要性は認めますが、それはパイの大きさを増やして財政基盤を確立する方策と連動せねばならないと考えています。

早稲田嘉夫氏

今後の東北大学は、89の国立大学法人間の競争環境下で、独自の運営・展開を求められているのですから、中期計画も極めて大事ですが、これからの10〜20年を見越した長期的展望に基づく新たな施策が不可欠だと考えます。そして、そのような施策には、本学の教職員の給与改善も含めた総合的な内容にすべきだと考えます。一方、平成15年度末に職員であった者はすべて自動的に法人に移行した経緯と、毎年度ごとに財務省との協議事項となる限定された財源という制約下では、多くの事項で公務員に準ずる扱いで措置される本学を含む国立大学法人が、人事院勧告の枠組みからかけ離れた対応をとることは、難しい状況もあると思っています。ただし、構成員への説明等を十分に行う努力を図ることも大事だと思います。

Q3 不払い残業や、労働法制に関するコンプライアンスについて

犬竹正明氏

教員も、有給休暇を返上し残業をしなければ、教育・研究上の業務が滞ることになっているのが現実です。教育・研究の支援を志したプロとして、無理をしても滞りなく業務を遂行することを誇りとしている教職員も多いと思います。しかし、不払い残業は違法ですから、これを行ったことを「評価」することも違法です。不払い残業がでないように、入試のようにある時期に集中する業務の場合には、柔軟な人員支援策を適宜考え出すことも重要であると思います。

井上明久氏

まず、労働基準法で決められた最大残業時間を守ることが出来る業務内容の職場であるべきと考えます。また、残業が行われる時には当然不払いが生じないような充分な予算措置がなされる職場環境の構築、一層の業務の簡素化・効率化に努めるべきと思います。さらに、労働法令に関するコンプライアンスについては遵守することは当然であると思っています。

根元義章氏

労働法令に基づいた労働環境を整備しなければならないのは当然です。不払い残業がないように労働計画をたてることが必要で、業務の効率化を行った上で、“仕事のために必要な雇用量”を確保すべきです。コンプライアンスプログラムとして、すでにどの部分が対象であるかのガイドラインなどが作成されております。さらに、職員に対する研修、啓蒙、情報提供が行われていると思いますが、これらをより徹底することが必要と思います。もし、違反が起きた場合に対応する、チェック機構、是正のための体制についての検討が必要と考えます。

野家啓一氏

事務部門に関しては、労働基準法を遵守して不払い残業をなくす方向へ努力することは当然であり、そのためにも事務の簡素化を一層押し進めることが必要と考えます。労働法令に関するコンプライアンスに関しても、法令を遵守することはもちろんですが、裁量労働制をとっている教員に関しては、研究時間をどうカウントするかなどの問題もあり、実情に合わせた運用が必要であると思います。

早稲田嘉夫氏

法令遵守は、いかなる組織の運営においても基本的事項だと考えます。国立大学時代の基本的枠組みの多くを残したまま移行した現実を踏まえ、課題については早急に、かつ着実に整備改善に努めつつ、国立大学法人の枠組みの中で、適切な解を求めることだと思います。それでも解決できないと判断される事態が生じるようであれば、新たな緊急対策を措置するなど適切な対応が望まれると考えます。そのためにも、教育研究現場に責任を持つ教職員と大学運営に責任を持つ執行部との間の、十分な信頼関係に基づく対応が重要だと考えています。

Q4 非正規職員の待遇改善について

犬竹正明氏

この発端は、バブル崩壊後に世界的な経済競争に勝つために実行された政策であり、いまや日本の非正規労働者は500万人にも達しているといわれています。その結果、低賃金のため結婚することさえ困難な若者が増えており、少子化に歯止めがかからなくなっていると云えるでしょう。非正規職員の待遇改善は喫緊の課題ですが、運営交付金が削減され続ける限り、根本的な解決は難しいように思います。この問題は一大学の枠を越えた問題であり、永続的雇用対策が必要であると思います。

井上明久氏

現在の役員会のスタンスを基本的には引き継ぐことになります。その上で、準職員、時間雇用職員の仕事の性質に応じた待遇の在り方について、仕事への意欲を呼び起こす待遇条件を見出すまで互いに粘り強く協議を重ねることが重要だと考えています。正規、非正規を問わず仕事の性質と能力に応じた正当な評価体制とそれに伴う処遇をするよう努力すべきものと考えます。また、勤務状況の厳しい病院の看護師には労働意欲を沸き起こすインセンティブの付与を考えることも必要であると思っています。

根元義章氏

労働の成果も実質的に非正規職員に負うところが少なくありません。非正規職員の待遇改善については、雇用のあり方、業務の内容、性質等に応じた待遇のあり方を検討し、必要に応じて、休暇制度などの労働条件の点において、正規職員との差が少なくなるようにすることが必要と考えます。

野家啓一氏

非正規職員が正規職員と質・量ともに同等の仕事をしていながら、その待遇に格差があることは大きな問題と感じています。ただ、これも財政運営と密接に関わる事柄ですので、直ちに抜本的な解決はできませんが、社会全体の流れを見据えながら、職種ごとにきめの細かな待遇改善のあり方を検討していきたいと思っています。

早稲田嘉夫氏

Q1でも述べましたが、法人化に伴うメリットを最大限活用した職場環境の抜本的改善計画の推進に努めたいと考えます。それと同時に、教員と教員、教員とその他職員、その他の職員の間 の適切な役割分担を組織的に構築し、常勤・非常勤を問わず教職員がそれぞれ「やりがいを感じる」職場にしなければならないと思います。それには、常勤・非常勤職員のスキルアップ研修等にも、組織的・戦略的に取り組む体制を整備する必要性を感じています。そのような施策を鋭意進めつつ、法人業務・法人運営と教職員のやりがい等をトータルに勘案した処遇の在り方を検討することだと考えます。

Q5 総人件費の5%削減について

犬竹正明氏

独法化の目的のひとつが国家公務員人件費の削減でしたから、「自主的」変更とは無関係に、法人運営経費は5%削減されるでしょう。いずれにしても、独法化以前の定員削減に続く5%削減は、大学の教育研究に大きな支障を及ぼしてきました。この解決には国大協などでの対策協議と共に、教育・研究現場の現状を国民の皆様に広く知って頂き、ご理解を得る努力が必須であると思います。

井上明久氏

人件費の削減を軽減する方策の一つとして、国立大学職員は非公務員化されたにも拘わらず、今回国立大学法人においても総人件費を5%削減すべく、中期目標・中期計画の変更を自主的に行うとの要請は極めて遺憾であると思っています。

根元義章氏

公務員の総人件費の削減の対象から、大学法人が除外されることのないことを聞いております。現時点でも人件費で、極限の対応が迫られている部局もあると思います。人件費は大学の活動に密着に関連するもので、更なる人件費の削減は大学としての活動に大きく影響を与えるものです。研究・教育のための資源は一律に削減すべきでないと思います。削減を具体的に実施することは、大学の責務の遂行に極めて大きな影響を与えるもので、その実施のあり方には全学として十分な検討を要し、慎重な対応が必要と考えます。また、国への要望等は東北大学単独で行うことは無力であり、旧国立大学の連携で展開すべきと考えます。

野家啓一氏

すでにこれまでの回答の中でも触れましたが、現状のような厳しい財政運営の中で、さらに総人件費を5%削減することは極めて困難であり、たとえ実行されたとしても、それは大学の教育研究機能を著しく低下させることにつながりかねません。政府に対しては、国立大学協会や学術会議を通じて、高等教育機関に対して少なくとも欧米並みの財政支出(対GNP比10%)を行うよう粘り強く求めていくことが必要であると考えています。

早稲田嘉夫氏

国立大学法人は、平成16年度〜21年度までの中期計画期間中に、政府から交付される運営費交付金に対して、毎年度効率化係数1%の対応がすでに課せられており、今回の総人件費の5%削減の対応は、この中に当然含まれると考えます。中期計画の変更もこの枠組みの範疇で、適切に対応すれば良いと思います。

Q6 リーダーシップと構成員自治のあり方、総長選考規程について

犬竹正明氏

大学・企業を問わず、経営の基本は構成員の力を最大限に引き出すことです。そのためには、透明性を最大限に高め、何が問題であり、どのような施策を実行すれば、どのような結果が期待できるかを常に明確にしておくことが必要です。このことは権限が集中する場合ほど重要であると思います。意向投票を実施すべきであるとの強い要望は以前からありましたが、法人化の前に規定を整備することができませんでした。この度の評議会による意向投票は、総長から提案され、教育研究評議会が策定したものです。総長選考規程の改正は是非必要であると思います。

井上明久氏

総長のリーダーシップのもとに行われる様々な施策に対する評価は東北大学法人自体の業績として直に現れ、様々な評価システムを通してチェックされる体制になっています。また、総長の業績は総長選考会議によっても評価され、業績の達成度によっては解任されることも可能な仕組みとなっています。このような多様な検証体制の有効活用を通して総長の権限と大学構成員による自治との関係は良好なバランスを持つことが出来るものと考えています。総長が大学職員及び経営協議会の学外委員の総意で選ばれることは重要と思います。現在の総長選考規定の範囲内でも、現在行われている意向投票を行える教員、総長選考会議の学内委員を選ぶ教育研究評議員及び総長選考会議委員と大学職員との互いの意思の疎通を図ることによって、大学職員の総意に基づいた総長を選ぶことが出来るものと思っています。

根元義章氏

時代の変革に遅れることなく、将来動向をも踏まえて大学の責務を果たすために、法人化された大学においては、運営面での迅速な意思決定が必要であるとのことから、総長の強いリーダーシップが求められています。しかし、意思決定には多様なレベルがあると思われます。大学のあるべき姿、進むべき方向とその実施体制の構築には、大学の特色が十分に考慮された、総長の強いリーダーシップが必要です。また、実施内容については、研究教育の実施主体である部局の価値観、取り組みなどを配慮し、構成員との直接・間接のコミュニケ-ションを通して構成員の知と活力を集積できるボトムアップの良さを十分取り入れ、全体として優れた状況を確保したうえでの、リーダーシップが示されることが必要であると思います。

 総長選考規程は、法人法にのっとり策定されております。大学の活動の活性化を図るうえからも、構成員の意向が反映される制度が必要であると思います。今回は教育研究評議会が鋭意策定した意向投票が大きな意味を持つと思います。今回の意向投票が十分機能することを実績として残すことが、将来にとって重要と思います。また、今回の総長選考プログラムをよく検討し、必要があるならば、次回の総長選考に向けて、総長選考方法の見直しも考えられます。

野家啓一氏

法人化後の大学の総長は、大学構成員の代表であるのみならず、法人の長として大学の経営責任をも担っており、その強力な権限は社会的責任と表裏一体のものです。また法人という観点からは、外部委員から成る経営協議会も大学を構成する枢要な組織の一つにほかなりません。したがって、大学の自治の重要性は言うまでもありませんが、それは狭義の構成員(教職員)のみの「内向きの自治」であってはならず、社会に対して開かれた「外向きの自治」でなければならないと考えています。

 現行総長選考規程についてさまざまな批判があることは承知しています。しかし、従来の総長選挙にしても、構成員の多い大部局の代表に有利な制度であったことは否めません。国会議員の選挙と同様、選挙制度にベストはありませんので、よりベターな制度を模索するほかはないと思います。私としては、最終的な総長選考の決定権は法律上総長選考会議にありますが、総長の権限は大学構成員によって附託されたものである以上、決定に至る何らかの段階で「意向投票」を制度的に組み入れておくことが望ましいと考えています。

早稲田嘉夫氏

一定の時間経過後に成果が現れる教育研究の推進と、それに基づく人材養成を担う大学では、Q3に関連して述べましたように、教育研究現場に責任を持つ教職員と大学運営に責任を持つ執行部との間の、十分な信頼関係に基づく対応が求められると考えます。また、学術領域に応じた各部局の自主性尊重とともに、大学らしい見識に基づく大学運営や展望について、大学の構成員が共通理解できる仕組みを構築する努力が必要だと理解しています。本学の総長選考規程は、法人法に則した内容となっていると理解していますが、国立大学時代に比べ各段に強化された総長及びそれを支える執行部の権限の大きさを考えると、構成員に自主性や公正さ等を実感させられるような本学として独自の工夫を考慮すべきだと感じています。

Q7 教授会審議の形骸化等について

犬竹正明氏

教育研究評議会で教育研究に関する重要事項を審議することは法人法に明記されています。構成員の意見を聞き、大学の施策に生かしていくことは、大学および各部局執行部に対する構成員からの信頼を取り戻し、一体感のある活気ある大学および部局となるために必須要件です。 未来を創る英知を生み、それを生かす人材を育む大学であり続けるためには、学生はじめ、教職員一人ひとりが誇りと使命感を持って、日々切磋琢磨し、成長していける場を確立することが何よりも大切だと思います。

井上明久氏

少なくとも金属材料研究所においては、日頃の日常的な管理・運営に関しては運営会議で審議・決定し、毎月開催される教授会で報告する方式によって情報の共有化とその周知徹底を図っています。また、将来の研究部門・分野の性格決定、教員人事、共同利用研究を含む教育・研究に係わるすべての事項は法人化前と同様に教授会で審議し決定する体制となっています。従いまして、金研では実質的な審議が行われていないといった声は聞こえてきていませんが、様々な会議で形骸化が起きないよう留意することが大事だと考えます。

根元義章氏

大学においては研究の実施主体である部局、研究者が、研究の目標、本質が何であるかを自ら明確にしつつ、効率的に目標に向かい活動し責務が果たせる状況を確保することが基本であります。部局の意思決定の方法は、部局にゆだねられるものと考えます。一部少数の意見のみで決定されるのではなく、広く構成員の議論、意見交換により、総意としての自らの進むべき道を迅速に確立していくべきです。

 部局長連絡会議、教育研究評議会は最も重要な構成員とのコミュニケーションの場であり、単なる報告ではなく、十分な議論、意見交換がなされ、部局の意向を汲み取り、必要に応じて、それを反映し、全学としての意思決定を行うことが,実質的であり有効であると考えます。

野家啓一氏

さまざまな課題に対して法人としての迅速な意思決定が求められている以上、ある程度のトップダウンはやむをえないと考えています。もちろん、手続きの透明性と公正さは十分に確保された上での話です。たしかに、教育研究評議会ではかつての評議会におけるような議論はなされなくなりましたが、それは求められる機能が違ってきたからだと思います。私の印象では、実質的な議論は、部局長連絡会議や財務・人事戦略会議のほうでなされています。教授会については、各部局の事情が異なりますので何ともいえませんが、現状に不満があるのならば、トップダウンの変革を待つことなく、構成員自身が声を上げていくべきではないでしょうか。少なくとも私の所属する部局(文学研究科)では、相変わらず(?)長時間の議論が続けられています。

早稲田嘉夫氏

国立大学時代を含め、近年、教員が教育研究以外の業務に割かなければいけない時間が急増した現状を考えると、適切な役割分担による改善が、本学の教育研究の質の向上には不可欠だと思います。ただし、このことで、構成員の大多数が自らの意思等を率直に表明する機会が奪われてしまうような形骸化を生んではいけないことです。大学は適切なボトムアップの仕組みを確保することが不可欠です。そのためには所信表明にも書かせていただいたように、例えば本学の発展のためにも、教育研究評議会の活用を積極的に図るべきだと考えています。

Q8 社会に開かれた大学のあり方について

犬竹正明氏

構成員が大学のあり方に関して見識ある意見を表明することは民主主義の基本です。

井上明久氏

社会に開かれた大学として、大学や部局の組織情報は出来る限り公表されるべきものと思っています。なおその際、大学法人として公表内容に十分な責任と信頼性を持たせることも極めて重要と思っています。従いまして、大学や部局が広報の窓口を一元化して、すなわち、スポークスマンを決めて、その人を介して積極的情報公開を図ることは重要と考えています。

根元義章氏

大学のアクティビティを広く社会に発信していくことは重要で、大学として的確な情報発信の方法を設定することは有効であると思います。このとき発信すべき組織情報の定義を明確にし、全学に周知すべきです。組織情報の公表をスポークスマンに一本化することはそれなりの理があると思います。それは異なる組織情報が公表されるならば、情報としての意味と責任を失うからです。しかし、そのことは組織内での相互批判を封ずることを意味しません。むしろ、組織内での相互批判は自由になされるべきと考えます。なお、基本的人権である発言や表現の自由、学問の自由は充分に尊重されるべきです。

野家啓一氏

「批判精神と自由な言論」は、もちろん大学に不可欠のものであり、それが消滅すれば、大学は「生ける屍」となってしまいます。しかし、『広報マニュアル』にある「組織情報」とは大学が組織としてメディア等に発表する公式情報を指しており、これが不統一であれば社会からの批判を受けますし、発表内容については社会的責任が伴います。たとえば、入試ミスや医療事故など大学が組織として対処すべき事案がそれに当たります。こうした問題については、政府にしろ会社にしろ、広報担当のスポークスマンが組織としての統一見解を述べるのが当然であり、これは「批判精神と自由な言論」と何ら抵触するものではありません。

早稲田嘉夫氏

大学、特に本学のように多様な領域をカバーする部局の集合体である総合大学では、各部局の自立性尊重が基本だと考えます。同時に、それぞれの立場で自由な意見が述べられる雰囲気を大事にしなければならないと思いますし、その上で、大学全体としてのガバナンスの確保が望まれます。学内外に漏洩すべきでない・するはずのない情報等が流出するような事態は、組織として避けなければならないことは、言うまでもないことだと思います。

Q9 テニュア・トラックについて

犬竹正明氏

研究職を目指す学生は、順調にいって27歳で博士課程を卒業しますが、運良く研究職に就けるのはその後2,3年のPDを経てからです。したがって、定職に就けるのは30歳前後になります。その後、5年間も任期付きの不安定な身分となりますと、大学教員は魅力の無い職業となり、優秀な人材確保が難しくなるでしょう。さらに、他大学などから教授を迎える場合には、人事交流の壁を作ることになります。仮にこの制度を導入する場合であっても、全国的に統一された規定を作らないと人事交流は難しくなるでしょう。

他方、准教授制度は若手を登用することにより教育研究を活性化することが目的ですが、現在であっても、助教授も博士の学位審査の主査になれますし、実際になっている例があります。テニュア制と任期制については、今後広く構成員の皆様と共に、議論し検討を深めていく必要があると思います。

井上明久氏

学校教育法改正により、助教、準教授職が新設され、教育・研究者として出来るだけ早くに自立し活躍できる機会を得ることが出来るようになることは大変良い事であると思っています。その際に提示された案では、助教は全ポストノンテニュア任期制、準教授の一部も同様であるとの事ですが、これは少なくとも金研のこれまでの助手、講師、助教授の人事体制と同様であると思っております。さらに現在非任期制の助手・助教授にまでテニュア・トラックを適用する可能性があるとの事が示唆されているとの事ですが、これは現時点では示唆であり、実際の採択は慎重を要する側面もあり、今後議論を重ねる必要があると思われます。

根元義章氏

平成19年4月に、新たな教員制度が実施されますが、その背景には、教員の自立性、流動性、活性化の確保にあると思います。教員人事は、部局の活動そして将来構想に直接連結する重要事項であり、各部局は、部局の研究、教育の特色を考慮し、部局の長期将来計画のもとに、戦略的な人事が慎重に行われていると考えます。人事は長期的な観点で実施されており、制度の急激な変化への対応は容易ではありません。現在の構成員の多くがノンテニュア、任期制で契約されていないことを考え、現在の助教授、助手から准教授、助教への移行のあり方は十分注意深く検討する必要があります。そのため、当面は、一般的な対応は全学として決定し、具体的対応は、部局が、分野の状況、現教員の身分保証などを十分に検討し実施していくことが必要と考えます。

野家啓一氏

平成19年度から施行される助教・准教授の新職階制度と現在学内で検討されているテニュア・トラック制度の導入とは、密接に関連してはおりますが、分けて考えるべき事柄だと思います。まず、法的に導入される新職階制度については選択の余地はありませんので、現行制度との整合性を考慮しながら最大限スムースな移行措置を取るべきでしょう。次に、テニュア・トラック制度については、文系と理系、また研究科と研究所とでは人事システムの考え方や運用の仕方が異なりますので、導入のガイドラインは全学的に定めるにしても、制度の採否については各部局の判断に任せるのがよいと思われます。いずれにせよ、本人の同意なくして身分の不利益変更がなされないよう十分に留意すべきです。

早稲田嘉夫氏

この課題は、2月21日付で評議員を主たる構成員とするWGが結成され、本学としての基本方針が早急にまとめられる予定となっています。基本的には、テニュア・トラック制度の導入も、在職中の職員の新制度への移行も、それぞれの部局の判断で行われることであり、学術領域の特性にも配慮した選択ができる仕組みとなると考えられます。とくに在職中の職員の移行には、不利益を被らないように十分配慮された内容にすべきだと考えています。この質問に関連して、あえて付言させていただきます。例えば現に「助手」に在職中の教員を単純に新制度の「助教」に移行させると、現在任期がついていない教員も任期制や再審制(継続を前提とした形式的再審制は不可)の対象になることを理解する必要性があります。もちろん、そのような事態を回避できる本学独自の移行制度も考慮すべきだと考えます。

Q10 労使関係の在り方について

犬竹正明氏

これに関連しては、私の所信表明書とビデオメッセージをご覧頂ければ幸いです。以下に、そのエッセンスを数行でお伝えします。

“まず構成員、そして社会・世界に開かれた大学、一人ひとりの可能性を引き出す大学の創造”

○学生の潜在力を信じて引き出す創造性教育、国の内外の人々と本心で関わるコミュニケーション能力向上の教育、そして高い志と見識を備える豊かな教養教育の重視。

○自由闊達な討論と公正な審議を大事にする評議会の風土を築き、全教職員の個性と能力、そして人間的成長が尊重される教育研究の場の確立。

○次世代を拓く多様な創造的基礎・応用科学研究と、人間や世界に対する信頼をとり戻す人文・社会科学研究の振興。

井上明久氏

法人化の理念・特徴を最大限に活用して、今後本学が世界トップレベルの研究教育拠点として飛躍・発展を遂げていくためには、本学の全職員が生きがい、働きがい、誇りを持って働くことが出来る職場環境を作り上げることが不可欠と思っています。そのためにも、健全で良好な労使関係の構築に取り組むことは極めて重要であると考えています。

根元義章氏

法人化された大学においては、健全な労使関係は重要であります。労働法制に基づき、職員の諸権利を尊重していくことが重要と考えます。

 研究・教育水準を向上させ、大学の総合力を高め本学を発展させる視点から、労使で労働条件等について十分な意見交換を行っていくことは必要なことであります。当然、労働組合との誠実な交渉も欠かせないことです。

野家啓一氏

法人としての大学にとって正常な労使関係は発展の基盤ですので、私ももちろん「健全で良好な労使関係の構築」に努力したいと思っております。ただ、ここ10年ほどの日本社会の推移を見ただけでも、労働組合のあり方は大きく変化しています。職員組合におかれても、組織率の向上に努められるとともに、時代を先取りする組合活動を展開されますよう期待しております。

早稲田嘉夫氏

事項によっては、役員会の考え方と職員組合の考え方の差ができることは、あると思います。しかし、東北大学は双方にとって、ともに愛する職場であり、それぞれの立場を認め合いながら、なにごとにも私心なく、誠心誠意で対応することにより、結果的に本学構成員が「公正さと人間的な暖かみ」を感じてもらえるような責任ある姿勢を心がけたいと思っています。


伊藤弘昌氏の回答

拝復 2月21日付けの「総長候補適任者アンケート」へのご協力のお願いを拝読いたしました。

 今般私は、教育研究評議会において総長候補適任者として選考され、総長候補者の選考方法に関する申合せに基づき、所信表明書及び履歴書を提出致しました。私の考えは、すでに所信表明書に掲載しており、ホームページにおいても公開されております。また、ビデオで所信を直接述べる機会も与えられております。
 今後は総長選考に関して、経営協議会においても総長候補適任者が選考され、最終的に総長選考会議で総長が選考されることになっております。
 このように現段階で、私は教育研究評議会における総長候補適任者としての立場であり、大変申し訳ありませんがアンケートの具体的項目への回答については、控えさせていただきたくご了承願います。                 敬具


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