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教文部ニュース第十五号
1999.3.24発行
東北大学職員組合教文部 発行
Tel:022-227-8888 Fax:227-0671
E-mail:ma53625s@ma5.seikyou.ne.jp
独立行政法人化の学習会
「独立行政法人化で大学はどうなる?」
日時:3月19日(金) 18時〜20時
場所:東北大学金属研究所・本多記念館3階・視聴覚室
主催:東北大学職員組合,共催:日本科学者会議宮城支部
「国立研究所における独立行政法人化について」
山崎 誠 (農林水産省・東北区水産研究所)
コメント:「大学の独立行政法人化」
片山知史 (東北大学職員組合・教文部長)
・独立行政法人化≠独立採算制
・「独立行政法人化で自由度が増す」は幻想.逆に統制が強くなる
・国民(納税者)に対するアカウンタビリティー(説明責任)が鍵
国立大学の独立行政法人化は5年後に先送りされましたが,その準備は着々と進められているようです.そこで,国立研究所の独立行政法人化の内容をうかがって,「一体独立行政法人化とは何なのか」を学習しました.
2001年から独立行政法人化が実施される農林水産省・水産研究所の山崎氏からは,「中央省庁など改革に関わる大綱(1999.1.26)」の内容の説明があり,独立行政法人化は独立採算制を意味しないこと,独立性は逆に減少し「中期目標(3-5年)」と通して予算・人事・研究内容に対する政府の管理は一相厳しくなること,予算・定員の柔軟運用は将来の統廃合をし易くすることが強調されました.
片山氏からは,国立大学の独立行政法人化は行革(公務員減らし)の一環であるが,理念としては従来のドイツ型大学からアメリカ型大学への移行を意味すること,大学は「自由」と「統制」という二つの対立概念によって規定されていることがコメントされました.
討論では,大学がサイエンスの場であることの再認識が必要,どのように「統制」を受けるのか,国民(納税者)への説明責任をどうするのか,といった大学の本質論から大学の将来像といった活発な議論がなされました.
「国立研究所における独立行政法人化について」
山崎 誠 (農林水産省・東北区水産研究所)
ここでは,山崎氏の使われた資料を再掲するかわりに,ネットワーク資源の有効活用のためwebでアクセス出来るものを紹介することとしました.このため山崎氏の用いたものとは細部において多少異なる部分もあります.
「中央省庁等改革に関わる大綱」(1999年1月26日決定,首相官邸ページ)
独立行政法人制度に関する大綱(1999年1月26日「大綱」時,首相官邸ページ)
「独立行政法人の問題点」 全農林筑波地本行革対策委員会作成.
コメント:「大学の独立行政法人化」
片山知史 (東北大学職員組合・教文部長)
当日片山氏の使われた資料を元に作成しましたが,一部順序や表現を変えてあります.
1.大学の独立法人化をめぐる動き
- 大学法試案要綱(1948-「中央審議会」と「管理委員会(理事会)」):独立法人化積極推進
- 国立大学管理法案(1951-「国立大学審議会」と「商議会(理事会」):独立法人化積極推進
- 国立大学運営法案(1963)頓挫
- 中央教育審議会「46答申」(1971):独立法人化慎重論
- 臨時教育審議会最終答申(1987):独立法人化慎重論
- 臨時行政改革推進審議会中間報告(1991):主として財政効率の観点から生産性,活動性を求めて独立採算的経営を期待する.これ以降行革の一環として論議
- 行政改革会議事務局案(1997.5.28):国立大学がリストアップされる.
- 行政改革会議最終報告(1997.12):慎重に.
- 中央省庁等改革基本法(1998.6):慎重に.
- 中央省庁等改革推進本部事務局(1998.12.20):再び対象に.
- 中央省庁等改革に関わる大綱:(1999.1.26):「大学の自主性を尊重しつつ,大学改革の一環として検討し,平成15年までに結論を得る」(文部省関係では科学博物館,西洋美術館,病院,大学校は独法化.大学共同利用機関等は早急に)
2.大学をとりまく情勢
- 小子化,大衆化,国際化 → 大学の淘汰,生き残り戦術
- グローバルスタンダード,規制緩和,新自由主義 → 大学の効率的運営,競争原理・市場原理の導入,高等教育市場の形成
- 行政改革,公務員25%削減 → 国立大学関係職員12万5千人がこの数合わせに利用される(しかし,公務員数は日本3.4%,欧米7-8%)
3.学内における独法化期待論
- 予算(支出内容,研究者雇用,年度繰越)の自由度アップ
- 文部省支配からの独立
- 特許
- アメリカ型大学への憧れ
4.大学本質論からみた独立行政法人化とは?
(高木,1998から引用.一部改変)
・ドイツ的大学自治の理念
「研究と教授の統一こそ大学の中心的理念」
「学問の教授とは真摯に研究された研究成果を学者の良心と責任において教え伝えることであり,その自由がなければ真理を正しく伝えることは不可能」
・アメリカ的大学運営の理念
「研究教育機能こそが大学のみに許された特別の機能」
研究・教育を志向しながらも,同時に「社会奉仕」を強調する.「社会を代表する」とされる「理事会」が大学管理権を握って,各々の大学に対する社会的要求を具体化する仕組み.(社会奉仕的大学)
・自由と統制 ─ 独立性の限界
大学の本質的機能が研究とその成果の伝達(教育)にあり,その機能の完全な遂行のためには大学における「学問の自由」が不可欠.それを守るための制度的機構的な仕組としての「大学の自治」.
この場合の「自由」とは,
1.研究・教育機能遂行の自由(学問,思想,表現,言論等の自由)
2.法的存立形態が完全独立体としての自由
大学が国家・社会の発展に,また人類の福祉に重要な意義をもつ学問の研究と教授をその基本的な使命とする(大学は国立・私立を問わず,高等教育という公的な任務を負う公的な機関である)が故に,国家は大学に対して常に無関心たり得ず,何らかの形において積極的に大学に関与しようとする.国立の場合,大学と国家との関係はより直接的となり,大学に対する国家の関与は「統制権」「管理権」として表出する.結局のところ大学自治の機構は大学の側からする自由の主張と国家の側からの統制の要求,この「自由」と「統制」という二つの対立概念によって規定されている.
5.独法化の具体的な問題点
- 授業料アップ(教育の機会均等の歪み)
- 自治問題(全構成員自治か教授会(評議会)自治かを整理しておく必要がある)
- 基礎分野,人文系の学問の継承は保証されるのか
- 競争原理,市場機構は独占・寡占,情報の非対称性,不確実性を伴う.
- 多数の落ちこぼれ
- 地方大学の駆逐
- パトロン不在
- 外部評価方法
6.今後の動き
- 勧告権をもつ大学運営諮問会議設置(これは独法化への大きな足掛かりになる)
- 学長への集権化(組織運営,裁量予算…)
- 任期制導入実施
- 先取り改革そして横並び改革
7.結論
メリットなし!期待論は幻想である.
- 国立大学を独立行政法人化することが直ちに財政的な「独立採算化」を意味しない.
多額の一般会計の支出を伴うため,特殊法人であっても会計法の適用を受け,総務庁管理局などの規制を受ける.(財政面のみならず,事業計画=教育研究内容,人事においても自由度は減少する.
- 第三者評価機関が学内意思決定機関(+執行機関)よりも強いリーダーシップを発揮できるならば,大学の機能遂行の自由が妨げられる.
8.論点(検討課題)
- 自由競争への期待世論(規制緩和はわかりやすい)のなかで,どのように国立大学の必要性を説明していくか.
- 大学の特殊性は説得力をもつか.
- 私立否定論につながりはしないか,それぞれの役割をどう位置付けるか.
- 大学は社会からの「統制」をどのような形で受けるのがよいのか.情報公開?会計監査?
参考資料:
・平成10年度「我が国の文教施策」文部省,1998
・「エコノミストによる教育改革への提言」経済企画庁経済研究所,1998
・「大学の法的地位と自治機構に関する研究」高木英明,多賀出版,1998
・「大学-変革の時代」天野郁夫,東京大学出版会,1994
・「全大教」号外--規制緩和問題特集,全大教,1999
討論
- 国立研究所や国立大学が独法化されたら,基礎データの蓄積はどこが行うのか.
- 大学は行政組織ではないのに,行革に巻き込まれている.
- 大学と国立研究所とは役割が違う.サイエンスの場としての大学の役割を再認識する必要がある.
- 今回の独法化は縦割行政を正すいい機会かもしれない.そうしないと,直面する環境問題の解決は望めない.
- 大学は国民へのアピールが下手.しかし,成果の数値化などできない.
- 納税者へのアカウンタビリティー(説明責任)はある.ただ今は,説明責任が矮小化されている.
- 理念のみならず,学内においては独法化で大学自身に得はないこと,社会に対しては社会における大学の必要性を,実用的(実利的)に説明する必要がある.
- 国立大学の今日的評価は?自己批判も必要.
- 独法化は特殊法人への移行も可能にする.特殊法人は,官僚の利権の巣であり,天下り先である.
- 国研は,どうして国立機関である必要があるのかを行革委から再三問われている.民間になったら,国の仕事をできなくなると説明しているが….
- 5年間の猶予期間が設けられているが,実際はもっと早く独法化への移行を迫られるであろう.教授会や学生が沈黙の状態であるので,組合や科学者会議が声を上げることは重要である.
教文部より
今回の独立行政法人化構想は,理念に基づくものではなく行革(公務員減らし)の一環であること,学内にある期待論は幻想であることが明らかとなりました.独立行政法人化は,大学および組合の死活問題であります.今後教文部では,まず学内での問題認識形成,そして社会への訴えを,どのように,どのような論点で行っていくかを検討します.皆様のご意見をお待ちしています.
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