日教組大学部作成討議資料(1988年5月)
高度の教育研究機関である大学が、国民から付託された任務を果たすためには、教員、技術職員、事務職員などの共働と協力が不可欠であり、そのなかにあって、教務職員は重要な役割を果たしています。教務職員は教育研究活動のうえで、研究題目を担当し、直接研究を行う研究的職務と実験装置や機器等の開発設計と学生の実験、実習、演習の指導をと直接教育研究にかかわる職務を担っています。しかし、研究者・技術職員としての地位、身分上の保障、待遇などが、不十分のまま放置されています。そのことの根底には、教務職員の教育研究上の位置づけが明確でないことと関連して職務が多様性をもっていることがあります。
このことに対して、国立大学、公立大学など、全国の教務職員はその改善を強く要求し、長期にわたって積極的なとりくみをすすめています、大学部も、教務職員の要求前進のために一定の方針提起と、それにもとづく運動をすすめてきました。そのなかには、賃金引上げや研究条件の改善をはじめとする教務職員の地位、待遇の改善はもとより教務職員の教員化を含む制度の抜本的改善など、多方面にわたっています。これらは今後もひきつづいて強化していくことが重要です。
今日、科学技術政策の進展と相まって、大学の教育研究活動は高度化し巨大化しています。また、大学に対する国民の期待も高まっています。こうした情勢のもとで、教育研究活動に従事する教務職員の地位の確立、待遇改善と制度の抜本的改善をはかることは緊急に重要になっています。この討議資料はこうした要請にこたえるためにだすものです。同時に国立大学と公立大学における教務職員の間に一定の実態のちがいや要求のちがいがあることもふまえて「国立大学」と「公立大学」それぞれについて解決策を明らかにしています。全国の教務職員の仲間をはじめ、広く教職員組合として積極的な討議をすすめ、合意の形成を期待するものです。
文部省の1988(昭63)年度級別定数表によると、全国の国立大学に勤務する教務職員は1600名とされ、その配置は国立学校(学部など)1363名、附属病院56名、附属研究所181名となっています。
教務職員は官名は「文部技官」と称されていますが、給与上は教育職(一)表の適用となっています。
国家公務員の給与法によれば、教育職(一)表は、「大学及びこれに準ずるもので人事院が指定するものに勤務する教授、助教授、講師、助手その他の職員で、人事院規則で定めるものに適用する」(給与法附表「教育職(一)表備考)。そして人事院規則9-2「俸給表の適用範囲」第8条では、教育職(一)表は次に掲げる職員に適用する、として、「国立大学、国立短期大学.........に勤務する副学長、教授、助教授、講師、助手、厚生補導に関する部の長及び指令で指定する職員」と規定しています。ここでは「教務職員」はあげられておらず、「指令で指定する職員」に該当する、とするのが人事院の解釈です。その人事院指令(9-56、教育職(一)表適用について)は、第2項で、「国立大学の学部もしくは附置研究所、国立大学に附属して設置される教育施設もしくは研究施設、または国立短期大学に勤務し、教授研究の補助を行う者で、学生の実験・実習・実技もしくは演習を直接指導し、又は研究題目を担当して直接研究を行うもの」として、教務職員を規定しています。
今日の教務職員制度がどのようにして生まれたか、この問題は大学の研究体制と職員制度にかかわっています。戦前の大学においての職員制度として、教授・助数授・助手があり、助手はさらに「有給助手」と「無給助手」に分かれていました。この無給助手はその後「副手」と改称され、さらに戦後の学制改革において、研究における助手の比重の増大と、きわめて徐々にではあったがその地位の改善がはかられる中で、新制大学発足とともに、副手制度は1949(昭24)年6月臨時職員制度の廃止に伴い廃止され、助手に任用替えになりました。その際助手への任用洩れとなった人たちを任用しておくための暫定的措置として、教務職員制度が生まれました。この教務職員は、その果たしている役割や出身大学、学歴、経験年数のちがいなどによって、教務職員甲、乙、丙に区分され、甲は講師相当、乙は助手相当、丙が教務職員として扱われ甲・乙・丙のわたりがありましたが、甲、乙は1963(昭38)年までに、それぞれ講師、助手にふりかえられ、丙だけが教務職員として残り、現在にいたっています。
その後、学問研究の発展に伴って、助手の役割は増大し、その定員増も一定はかられましたが、教育研究の必要に追いつかず、多くの大学では、本来助手として採用すべきものを教務職員として採用する例があらわれ、その人数は全国で相当数にのぼるとみられます。しかし、現状ではこれらの教務職員は、助手に昇任することがきわめてきびしい状況におかれています。また、教員と同等の職務にたずさわっているにもかかわらず研究費、研究旅責が措置されず日本育英会の奨学金返還免除とされていないなど、教員としての処遇に問題があります。このように、教務職員制度は本来「教員」として生まれ、変遷してきたことは明白であり、この点から制度発足当初から矛盾をもち、しかも、それが長い間放置されてきたため、その矛盾を一層大きくすることになっています。
一方、教育研究の高度化、巨大化は、教育研究における大量の技術職員を必要とし、その必要をみたすため、教務職員の任用が大学の権限で選考採用できるとされていることが利用されて技術職員的な性格をもった教務職員を生みだしてきました。
教務職員の職務実態は大学によって、また、学部や研究所のちがい、さらに学問分野などによって異なっていますが、概ね次のようになっています。
(1)単独または共同で独立した研究に従事する。
(2)教授等のおこなう研究への参加・分担
(3)大学病院での診療活動に従事する
(4)学生の実験・実習・演習の指導
(5)実験装置、機器の開発・設計・製作
(6)実験、測定のデータ処理
(7)動植物の飼育、栽培と管理
(8)論文などの整理、タィプ印刷
(9)その他
など、多岐にわたっています。これらの職務は、人によって単独で一つの職務にたずさわっているものもあるし、同一人でいくつかの職務に複合してたずさわっているのもあり、また、学部間、学部と研究所、専門分野のちがいなどによって、多様性をもっており、一概に論じられない面をもっています。しかし、要約していえば、(1)助手など教員と同等の職務、(2)技術職員的性格をもった職務に二分され、いわばこの両者の「混在職種」としてなりたっているといえます。なお、これ以外に少数ではあるが、教務職員として任用されていて、事務的職務に従事している部分がありますが、これは年をおって減少する傾向にあります。
教務職員の任用は大学の権限に委ねられており、公務員試験を必要とせず、選考採用によっています。これは教務職員が、大学の教育研究に密着した専門職務に従事するものとしておかれていることから、当然のことです。教務職員の配置は、教授、助教授、(講師)、助手などの定数に加えて、講座、学科目などの要員として「予算要求基準」でも明確にされています。しかし、相つぐ定員削減によって、また、助手の定員がないことや、待遇改善のため技術職員に教務職員定数を流用することなどによって、この「定員基準」も形骸化し、今日では厳密に守られているとはいえません。教務職員の具体的任用方法は学部、研究所などに設けられる選考委員会で選考し教授会に報告される例や、各学科の主任教授で選考される例や、主任教授によって選考する例など、大学によって、また学部や部門のちがいなどによってさまざまな方法がとられています。重要なことはこのいずれの方法をとるにしても教務職員の職務の多様性ともかかわって、本来助手として任用すべきものを、教務職員として採用することや、技術職員の待遇改善のために教務職員として任用するなどの例は全国的に共通してあらわれています。
このようなことがおきているのは、教務職員について、教育研究上の位置づけが明確でなく、法的規定も不十分な点が多く、その任用方法も「教員に準じた」取扱いをしているとしても、便宜的であったりするためです。このことが教務職員制度がかかえる矛盾をさらに大きくしています。
したがって、教務職員問題の解決のためには、これらのことを含めて、制度の抜本的解決がはかられなくてはなりません。
「教員」の一職種として生まれ、その後の変遷を経て今日にいたっている教務職員は、給与上は、教育職適用となっていますが、官名は「文部技官」とされています。教務職員は教(一)一級が適用されていますが、これは教務職員だけに適用される職名級であり、昇格もない事実上終身単一級という特異性をもっています。このため上位級に昇格できないばかりか、きわめて低い賃金水準におかれています。また教育研究のなかで研究者又は技術職員的な職務に従事しているにもかかわらず、教育研究上の位置づけは不明確でありしたがってその運用も各大学によって異なるなど、多くの問題をもっており、それだけに矛盾も大きいというべきです。
すでにみたように教務職員は、俸給表は教育職(一)表の適用となっていますが、官名は「文部教官」でなく「文部技官」です。これは重大な矛盾です。教員であれば当然保障されるべき諸権利や身分保障を欠き、また昇進がありえないことになります。とくに教務職員のなかには相当数の人が教員と同等に直接研究に従事していることを考慮すると、「教員でない」ことから合こる矛盾や問題点は教育研究活動の推進のうえからも重大といわなくてはなりません。
教務職員は教育研究上の位置付けが明確でなく、各大学における運用もまちまちになっており、その職務も多様性をもっており、そのため助手の職務に従事するにもかかわらず教務職員として採用し、そのまま昇任させなかったり、技術職員の一時的「待遇改善」のために教務職員定数を流用するなどの事例もあります。このような便宜的運用が、教務職員の評価を低くし、地位、待遇などを不利にしています。
教務職員の適用級は教(一)一級ですが、これは教務職員だけに適用される「職名級」であり、職名が「助手」などに変らない限り昇格はありえません。そして教務職員は「技官」であることから原理的に昇任はありえず、また現実にも昇任のない場合が多く、頭うちや枠外者がでる必然性をもっています。こうしたことが生ずるのは教(一)一級が事実上終身単一級であることによるものです。こうした状況は教務職員に特有ともいえる問題であり、その改善は急務というべきです。
大学教員には教育公務員特例法が適用され(助手は準用とされている)、人事等の不利益を保護することで一定の保障があります。また、研究の自由が保障され、そのための財政的措置も不十分ながらとられています。
しかし教務職員は、「教員でない」ことから、教育公務員特例法にもとづく身分保障はなく、教特法に定められた「研修権」の保障や積算校費・旅費の予算措置もとられていません。
さらに、育英奨学金返還免除職にもなっていません。これらのことから生じた矛盾は大きいものがあります。
教務職員の賃金は短大卒を基準として定められていますが、初任給は113,500円(昭和63年3月現在)であり、全体の水準は行(一)3級相当となっています。とくに教務職員特有の「職名級」によって、昇格の機会が全く閉ざされ、40才半ばで賃金の頭うちとなるなどの問題があります。また、30才代はじめから昇給間差額が低下し、40代に入ると急激に低下し給与額は行政職と逆転します。これは高等学校において教諭を助け、実習の指導にあたる実習助手と比較しても不利になっています。このため枠外のまま定年退職する場合もかなり広くみられる状況です。こうした状況は教務職員が公務員全体のなかでも、また教育職のなかでも著しく低い賃金水準にあることを示しています。
教務職員制度は1949年(昭24)新制大学の発足と関連した臨時職員制度の廃止によって生まれました。それは助手への任用洩れとなった者を任用するということで、暫定的性格をもった措置でした。以来40年、その間大学の教育研究体制も変化し、発展をとげるとともに、職員の高学歴化もすすみ、教務職員についても大学卒が圧倒的多数を占めるにいたっています。しかるに、なお暫定的制度としての教務職員制度は永続し、矛盾は顕わになり、それらは一切個々の教務職員に背負わされてきました。暫定的制度として生まれた教務職員制度の見直しと改善を怠り、それを永続化し、矛盾を拡大させてさた文部省と大学当局の責任はきびしく批判されなくてはなりません。
また教務職員に女性が多いということもあって、婦人研究者問題などの女性差別として解決を急ぐべき側面もあります。
教務職員はそれぞれに職務のちがいはあるものの、そのすべてが大学の教育研究上重要な役割を果しています。私たちは、教務職員が教育研究上果たしている役割にもとづき、教務職員の要求の実現と、大学の教育研究の充実、発展をはかること、さらに大学職員の連帯と団結を強化することを統一的に推進するものとして、教務職員問題の解決をはかる必要があります。
すでに教務職員問題について、国大協でも一定の検討が行われた経緯があるし、研究所会会議などでも検討されています。これらをうけて文部省でも教務職員の処遇改善について、人事院等に要望を行っています。今日、臨教審の「教育改革」「大学改革」の攻撃は、大学教職員に対する統制強化と、その力量、エネルギー等を財界、政府の企図する大学に奉仕させようとしています。この道は絶対に許してはなりません。私たちは、教務職員問題の抜本的解決のために次の提案をおこなうものです。
教務職員の職務は、(1)研究題目を担当して直接研究を行う職務、(2)学生の実験、実習、演習等の指導を行う職務に大別されています。そして最近の国立大学の状況として、高学歴化や職員採用の抑制などの情勢も反映して、教員的職務にたずさわる教務職員の比重を高めています。これらの人は当然助手・講師など教員とすべきです。このことは教務職員制度の発生の歴史が、無給助手から、副手、教務職員となったことからみても、教務職員の教員化は当然というべきです。また、実験、実習、演習などの指導も本来的には教員の職務であり、それらの職務にたずさわる者も教員化すべきです。このため、教員の定数増をはからせるとともに、現在もすすめている教務職員の助手・講師へのふりかえを大幅におこなわせます。当面、1級23号停以上の教務職員は上位級に定数を設けてその適用とさせます。
技術的職務にたずさわる教務職員は国立大学でも相当人数を占めています。この人たちについては教員化を追求するとともに、希望によって技術職員として処遇改善をはかり、さらに「専門行政職」の適用をはかることなどを要求します。当面希望によって技術職員として行(一)での処遇改善をはからせます。その際行(一)移行による不利益を防止するとともに従来からの行(一)職員に不利にならないよう定数上特別の措置をとらせます。
また、研修制度の確立やそのための予算措置をとらせることによって、地位、待遇の改善をはかります。なお、「教員へのふりかえ」と「技術職員への移行と専行職適用」は、当然のことながら、本人の希望尊重、職場の合意の尊重、当局による差別的人事の排除などを重視します。
教務職員制度の廃止問題については、方向として「教務職員制度の廃止」を展望しつつ、そのための合意形成を先行させます。