追加情報
「現職教官を含む全教官職の任期制」,「法人化時点で常勤の全教官を審査」, 「再任不可なら2004年3月31日で失職」,こうした制度の導入が、医学系研究科で検討されています。
医学系研究科の玉井信研究科長と佐々木毅自己評価委員会学部専門委員会委員長は、昨年12月11日に、同研究科の教官に対して「教官の任期制導入について」という提案を行いました(以下「12・11提案」と略)。まず、この文書の提案内容を要約して紹介します。
医学系研究科では、上記文書で研究科・付属病院内の意見を募り、検討しているようです。
私たちはこの問題について、医学系研究科による専門的な研究・教育上の判断に異を唱えるつもりはありません。しかし、「12・11提案」は大学運営上の重大な問題を含んでおり、医学研究科・付属病院にとどまらず、全学の教官の職を揺るがす危険性を持っていると考えています。ここで全学のみなさんに私たちの見解を発表して、冷静な議論と判断を呼びかけます。
まず、任期をさかのぼって適用しようとしていることです。「12・11提案」にしたがえば、かなりの数の教官が、2004年3月末時点で任期切れとみなされ、再任審査を受けることになります。審査結果によっては再任不可=失職もあり得ます。多くの教官を、突如として1年数ヶ月後に失職する危機にさらすという、極端な不利益変更を提案すること自体が、常識を外れています。
また、任期をさかのぼって適用することも常識外れであり、法的にも疑義があります。2003年4月1日に、「任期は19XX年4月1日からはじまったものとみなす」という辞令を発行できるわけがありませんし、民間でも任期をさかのぼった労働契約は認められません。「1回目の任期は2004年3月31日までとする」という学内規程を設けようとしているのかもしれませんが、実質的には任期を遡及適用して業績を評価することにかわりはありません。すぎさった過去のルールを勝手にかえるなど、たとえ当人の同意があったとしても制度として認められるべきではありません。
では、なぜ2004年3月末なのでしょう。政府は、この翌日から国立大学を法人化しようとしています。「12・11提案」は、「法人化の前に現職教官をふるいわけしよう」というものだとみなさざるを得ません。あまりにも乱暴です。法人化の下での教官人事のあり方については色々な意見があり得ますが、いずれにせよ新制度の下でどうするかの問題です。法人化の前に教官を選別することは許されません。昨年10月に提出された東北大学の制度検討委員会中間報告(以下「中間報告」と略)でも、「法人化時点で東北大学の常勤職員である者は、本人の意思に反しない限り、所要の法律によって、国立大学法人東北大学の職員として継承する」と明言しています。私たちは「中間報告」には色々な問題があると考えていますが、この点は当然に尊重されるべきと考えます。
次に、全教官職に無差別に任期制を適用しようとしていることです。これは「大学教員等の任期に関する法律」(以下「任期」法)の趣旨から外れています。教員の任期は無限定につけられるものではなく、(1)教育研究の分野・方法の特性にかんがみて多様な人材の確保が求められる職、(2)研究助手の職、(3)計画により期間を定められた教育研究の職のいずれかにあてはまる場合にのみ、つけられるものです(「任期」法第四条)。
したがって任期制を導入する際は、ひとつひとつの教官職の性格をよく吟味し、部局の研究・教育計画との関係で任期制にする必要が明確にされねばなりません。全教官職に無差別に任期制を適用しようとする「12・11提案」は、そのような検討に立ったものであるとは考えらず、法の趣旨に反していると言わざるを得ません。
実は、他の大学でも医学系・理工系を中心に、全教官職に任期をつけようという動きが広がっています。その背景には法人化をにらんだ文部科学省の動きがあります。同省が作成した「国立大学法人(仮称)の中期目標・中期計画の項目等について(案)」(未定稿)によれば、評価項目としての中期計画記入項目のひとつ「教職員人事の適正化に関する目標を達成するための措置」に、「任期制・公募制の導入など教員の流動性向上に関する具体的方策」が盛り込まれています。任期制を取らなければ不適正であるかのような扱いをし、大学法人に導入を迫っているのです。私たちの組合が加盟する全国大学高専教職員組合(全大教=FUJ)は、文部科学省に対して、こうした法の趣旨に反する強制をやめるように申し入れています。
研究・教育には、プロジェクト的に一定期限で成果をまとめて終了するものもあれば、予測困難な長期間にわたって行わねばならないものもあります。一つ一つの性格を吟味せずに、教員の流動性のために全教官職を無差別に任期制とする制度が定着してしまえば、短期間で無理に成果を出そうと焦る傾向をあおることになり、大学の研究・教育活動を歪めることになると、私たちは危惧しています。
以上のように、「12・11提案」による「遡及適用つき全教官職任期制」は、引き起こされる雇用不安の重大さから言っても、人事のルールとしての不正常さからいっても、研究・教育の発展を妨げる点から言っても、実現させてはならないものです。
そして、これは医学系研究科だけの問題ではありません。吉本高志総長の出身部局である医学系研究科でこのような制度が採用され、それがまた文部科学省の意向にも適っているとなれば、他の部局に対しても類似の制度を採用するプレッシャーがかかることは、十分にあり得るでしょう。
私たちは1月17日に行われた総長交渉において、吉本総長に「12・11提案」への見解をもとめました。すると総長は、「私は医学部出身だが、今日の河北新報で初めて知ったので、私としては今の組合の質問に明確に答える資料をもっていない」と回答したのです。このような重大事が出身部局で起こっていることに気がつかないとは信じがたいことです。もし本当だとすれば、それこそリーダーシップの欠如と言わざるを得ません。私たちの訴えに対して北村幸久副総長は「法令違反の制度、運用がされることは断じてあってはならない」と述べました。
また、この日の交渉で私たちは「仮に非公務員型で法人化される場合でも、常勤の教職員は本人の意思に反しない限り雇用継承すること。恒常的な業務に継続して就いている非常勤職員についても同様とすること」を求めました。しかし総長・副総長は「雇用不安を起こしてはならない」「中間報告を基本から見直すようなことは考えていない」などとは述べたものの、常勤教職員についてさえも「法人の教職員として継承する」とは名言しませんでした。これは「中間報告」よりも後退した姿勢であり、私たちは重大な危惧を抱かざるを得ません。名古屋大学のように、総長が「雇用の継続とか、教職員の雇用の継続は基本原則だと思います」「職種とかそういうのでは差別はない」と言明している例もあります。私たちは、今後とも教職員継承を要求し続けます。
私たち職員組合は、政府案の国立大学法人化に反対するとともに、仮に法人化された場合でも研究・教育・労働条件を守り、改善するために様々な活動を行っています。もし法人化されれば大学の労使関係も民間企業と似たものになりますから、組合の役割はたいへん大きくなると思っています。
私たちは、もっと多くの教職員のみなさんに組合のことを知っていただきたく思います。より強く、より賢く、たよりになる組合のために、みなさんの力をお貸しください。ご意見や質問、加入の申し込みをお待ちしています。
2003年1月30日
東北大学職員組合
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