2003年12月5日
東北大学職員組合
法人化対策特別委員会委員長 吉田正志
教文部長 川端 望
法人化後の大学において、就業規則は私たちの労働条件を決めるもっとも基本的な規則となります。東北大学職員組合では、労働条件について従来から様々な提案を行ってきましたが、就業規則の具体的なあり方についても、法人化対策特別委員会で検討を行ってきました。そしてこのたび特別委員会の試案が「国立大学法人東北大学就業規則(案)」(以下「組合案」と略)としてまとまりました。これは組合執行委員会で細部にわたるまで確認したものではなく、今後とも改善を予定した試案ですが、組合の基本的な見地は盛り込まれております。組合では、この試案を11月27日の北村副総長・早稲田副総長との懇談の際に提出しており、また12月1日以後ホームページで公表しています。
この文書では、組合案のポイントについてわかりやすく紹介いたします。それぞれの職場で自由に議論していただき、また各段階での会議において大学当局案の検討を行う際に、参考にしていただければ幸いです。
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就業規則という名称は、使用者が労働者を管理するために定める規律のような語感を与えます。しかし、労働基準法(以下、労基法と略)が定める目的はそうではありません。労働契約はもともと労使対等のものですが、個々の契約だけでは労働者が使用者によって厳しい条件を押しつけられやすくなります。そこで国は、使用者が守るべき最小限の労働条件を労基法で定め、これを満たすような就業規則の制定を使用者に義務づけているのです。ですから、「総長は……できる」、「職員は……してはならない」といった使用者の裁量と労働者の義務ばかり盛り込むべきではありません。使用者と労働者双方の権利と義務、はたらく基本的ルールを盛り込むべきです。そして、そのルールには、人権や組織のあり方に関する今日の議論の到達点にふさわしいものでなければなりません。私たちはこのような見地から組合案を作成しています。
国家公務員の場合、大学と教職員の関係は権力関係でしたが、法人化後は対等平等の契約関係になります。それにふさわしい用語と解釈が必要です。以下は、公務員用の用語をどう変えるべきかの一例です。
「任用」→「採用」
「服務」→「職務」または「勤務」
「退職願」「休暇願」→「退職届」「休暇届」(労基法下では許可は不要です)
法人化のもとで総長の権限は強化されることが予定されています。私たちは、総長が大学の戦略や業務遂行に必要な権限を持つことを否定するつもりはありません。しかし、総長の権限は大学の使命と社会のルールに沿ったものでなければならず、何のために、どういう根拠によってふるわれるかは常に説明可能なようにしなければならないと考えています。ですから、根拠があいまいなままに「総長は……できる」「総長は……することがある」という規定や、事由の最後に「その他必要な場合」とするような規定は、総長に広すぎる裁量権を与えるもので不適切だと考えます。組合案は、どのようなときに総長がどんな権限を行使するかを、できるだけ明文で規定しようとしています。
各大学の案を見ると、国公法や先行独法就業規則(特に非公務員型の先例である「青年の家」)の引き写しが多く見られます。これは二つの点で好ましくありません。一つは、労基法の定めと趣旨を取り込めていない場合があることです(具体例は後述)。もう一つは、大学における職種や業務の特性が考慮されていないことです。専門家の示唆を踏まえ、大学らしい就業規則とすべきです(以上の点につき、深谷[2002]、盛[2002]、同[2003]などを参照)。
就業規則は、本則と、それに関連した多数の細則からなります。細則も法的には就業規則です。組合案は就業規則の本則しかありませんが、本則の中に基本的な内容を盛り込むようにしてあります。
各大学の就業規則案を見ると、本則には具体的なことをほとんど書かず、細則に委任してしまう例が数多く見られます。もちろん、細かなことを細則に委任するのは当然です。しかし、二つのことを踏まえる必要があります。
ひとつは、基本的なことは本則に明示することです。労基法第106条により、就業規則は教職員がいつでも参照できるようにしなければなりません。そして、参照できるようにすることの目的は、教職員が東北大学の働き方に関する基本姿勢を知ることができ、自分の労働条件を理解できるようにすることです。そのためには、本則だけでも基本的なことはわかるようにするのが適切です。例えば組合案では、第4章で給与の構成要素、給与表の種類、給与の決まり方について基本的な部分を明示しています。また第5章で週当たり労働時間、始業時刻と終業時刻、休憩と休息、多様な勤務形態、休日、休暇、休業の種類の基本的な部分を明示しています。
もう一つは、詳細を細則に委任する場合は、何をどの規則に委任するかを本則に明記しておくことです。これによって、本則と細則の関係を明確にすることができます。
何のために就業規則が存在するのかという、大学らしい理念を第1条1項に盛り込みました。また、大学が大学職員の特性を踏まえて職員の身分を尊重すべきことを第1条2項に明記しました。これはある私立大学で実際に書かれている規定です。
本則は国立大学法人東北大学の就業規則すべての中心ですが、事業場の勤務内容や雇用形態が異なる職員については別規則を定めた方がよい場合もあります。ここでは常勤(フルタイム)の職員と非常勤職員に分けていますが、「非常勤」とは主に時間雇用職員(パートタイマー)を指しています。仮に何らかの形でフルタイムの有期雇用職員を雇う場合は、さらに別の就業規則が必要です。
なお、国家公務員法(以下、国公法と略)のもとにある現在は、フルタイムの日日雇用職員も時間雇用職員と一括して「非常勤職員」と呼ばれていますが、労基法のもとでは、フルタイム職員を「非常勤」として扱うことは許されませんし、日本語としても不合理であることを指摘しておきます。
ここでは、国立大学法人東北大学にはたらく人の総称を「職員」としています。ただ他大学の案を見ると、総称を「教職員」として「教員」「職員」の下位分類を置くという方法もあり、検討の余地があると思います。
企業と異なり、大学の職員は職種によって労働条件が異なってこざるを得ないので、種別について定義をしておくと、混乱が少なくなると考えました。なお、組合案は、現在の区別に加えて、「専門技術職員」という種別を設定しています。技術職員や図書館職員の専門性を評価する立場からの提案です。
なお「外国人教師」・「外国人研究員」については、もし非公務員化によって制度自体が廃止される場合は不要になるかもしれません。
他大学案では、おそらく「青年の家」就業規則を引き写したために、採用方法が職種によって異なるという大学の特性を無視しているものが見受けられます。組合案では、教育職員とそれ以外に分けて示しました。教員の採用については、従来、教育公務員特例法(以下、教特法と略)第4条によって教授会の議に基づくことが定められていました。非公務員化で同法は適用外になりますが、その趣旨を活かすために、2項で教員選考は、部局教授会の定める内規によることを明示しました。
組合案は、総長が通知すべき事項の中に労働契約の期間を含めていません。これは、期間の定めのない雇用が通常の雇用であり、有期雇用や任期つき雇用は例外であるべきだという考えによります。
有期雇用者に対しては労働契約の期間を、任期つき教員に対しては任期を通知すべきことは当然ですが、採用しようとする者すべてにこれらを通知するというのは不適当です。
教員の任期制については本則に規定する必要はないと考えます。なお、組合は「大学の教員等の任期に関する法律」第4条に則り、任期つき契約は(1)先端研究・学際的研究など特に多様な人材が必要とされるとき、(2)自ら研究目標を定めて研究を行う助手の職務、(3)期限付きプロジェクトの職務、に限られるべきだと考えています。個々の職務の特性を無視して、部局や大学全体に一括して任期制を導入することは任期法の趣旨に反しますし、長期的な視野で研究・教育を進める上でも好ましくありません。
先行独法や他大学の就業規則(案)の中には、国家公務員時代と同様の誓約書を採用時に提出させる規程を盛り込んだものがあります。これは対等平等の労働契約にふさわしくないので組合案にはありません。
民間企業では試用期間を研修期間と位置付けている企業が多くありますが、大学においては採用されると直ちに部署に配属されて一般業務につくことになります。よって組合は、大学においては試用期間をあえて設けるべき理由はないと判断し、組合案に定めませんでした。
第8・9条が定める昇任・降任とは、階層的に定められた職位の間(事務職員であれば主任、掛長、課長など)を移動することを意味します。第39条が定める昇格・降格とは、就くべき職務の変更により俸給表の級を移動することを意味します。第40・41条が定める昇給とは、俸給表の号俸が上昇することを意味します。
なお、組合案の「その意に反して降格されることがある」という箇所の「降格」は「降任」の誤記でした。お詫びして訂正します。
先行独法や各大学の案では、降格事由に「その他、必要な適性を欠く場合」が含まれていることがあります。これはどのようにでも拡大解釈ができてしまい、不適切ですから含めるべきではありません。
配置替えとは国立大学法人東北大学内での異動のことです。これまで急な配置替えが事務職員の職場に混乱を引き起こしてきた教訓を踏まえて、原則14日前の内示としました。また、仕事能力の尊重、職場生活と家庭生活の調和という今日的理念を盛り込みました。
なお、さしあたり組合案には盛り込んでいませんが、本学では一部遠隔地の勤務があり得ますので、転居を伴う配置替えは、その都度本人の同意を必要とすることも検討すべきです。
他大学では、国公法や先行独法就業規則の引き写しのために、大学における職種の特性を考慮しない例が見られます。そのため、無制限な配置替え命令を可能としているものが多いので注意が必要です。
組合案は、まず、教員の専門性に鑑み、教員を他職種に配置転換しない原則を明記しました。私立大学で、懲罰的措置として教員が職員に転換させられて紛争になっている例がありますが、無用の混乱を引き起こすだけです。
次に教員以外の職種転換についても、労働条件に甚大な影響を与えるので、その都度当人の同意を必要とすると明記しました。
出向とは、国立大学法人東北大学に籍を置いたまま、他の法人等の指揮下ではたらくことです。先行独法や各大学の案の中には、配置替えと出向を一括して同じ条文で扱った上に、総長が無制限な出向命令を出せると規定しているものがあります。しかし、他の法人等の指揮下に移ってしまう出向は、大学内の配置替えよりも大きな労働条件変更であり、当人の同意が強く求められます。とくに法人化後の人事交流のルールが確立していないもとでは、絶対的な出向命令は、仕事上の混乱や家庭生活の破壊を引き起こす危険があります。組合案は、出向はその都度本人の同意が必要であることを明記しました。
先行独法や各大学の就業規則(案)の中には、本人の意思による休職とそれ以外の休職を分けずに書いてあるものがあります。これは不適切なので、1項と2項で分けて配置しました。ただし、出向する場合に必ず休職とすべきかどうかは、検討の余地があるかもしれません。また、労働組合業務に専従する場合の休職は、先行独法や多くの民間企業と同様に認められるべきと考えます。
組合案の「死亡したとき(全)」の「(全)」は不要なので削除いたします。 (web版およびPDF版では修正済みです)
現在の定年は教官63歳、職員60歳ですが、組合案は、定年を65歳としています。これは、法人化時点で実現することは難しいかもしれません。しかし、年金支給開始年齢の引き上げにあわせて65歳とすべきことは厚生労働省も明確にしており、少なくとも実現に向けた検討を開始すべきだと考えます。
なお、65歳よりも早くリタイヤしたいという職員が、退職手当の支給において不利にならないよう、細則で早期退職制度を整備することが必要だと考えます。
定年を65歳としたことと連動させて、再雇用の限度を68歳としました。
組合案の特徴は、解雇事由を限定していることです。
第一に、「経営上、やむを得ない理由がある場合」といった、整理解雇にあたるものを含んでいないことです。非公務員化されるとはいえ、身分保障(雇用保障)を教職員が失うべき理由はないと考えるからです。どうしても整理解雇を含める場合は、判例で確立している整理解雇の4要件(雇用調整の必要性、解雇回避努力を尽くす義務、整理解雇基準と適用の合理性、労働組合との協議)を明記すべきです。
第二に、「その他やむを得ない事情がある場合」などというあいまいな事由を含めていないことです。解雇はよほどのときでなければ行うべきではなく、「どんな事態かは想定できないが、とにかく使用者がやむを得ないと判断すれば解雇できる」というのでは、使用者の裁量が大きすぎます。
先行独法やいくつかの大学案は、国公法第101条をもとに、職務専念義務を明記しています。国公法第101条の条文は「職員は、法律又は命令の定める場合を除いては、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、政府がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。職員は、法律又は命令の定める場合を除いては、官職を兼ねてはならない。職員は、官職を兼ねる場合においても、それに対して給与を受けてはならない」という、いかにも権威的なものです。この条項は、一方では兼職を著しく制限しており、他方では、組合活動の極端な制限につながって紛争を呼んできました(例えば組合バッジの着用が「注意力」の一部をそらす云々といった論理)。いずれも、法人化後の労働契約にはなじまないので、組合案では一般的な表現としました。
職員一般の責務だけでなく、役員の独自の責務も明確にしてバランスを取りました。
職務従事義務を免除される理由として、現在でも職務免除扱いとなっている「勤務時間内の組合交渉への参加」を規定し、また大学の特性を踏まえて、「勤務時間内における研究集会への参加」を規定しました。
人権をめぐる今日的な論議の到達点を踏まえて、職員のセクシャル・ハラスメント防止義務を明記しました。
第31条と同じ趣旨から組合案に盛り込みました。
組合案は、兼業を許可制とすることを定めています。しかし、非公務員化によって勤務時間外に他の仕事をすることは法律上は問題がなくなります。利益相反の問題などをきちんと細則で規定すれば、兼業自体はより自由にしてよいはずだという意見もあり、検討が必要です。
組合案にはまだ明記していませんが、雇用のルールに関する近年の争点を踏まえるなら、以下のようなことを追加すべきかもしれません。他大学には事例があります。
「第○条 職員は、法の下に平等であって、民族、国籍、思想信条、性別、社会的身分又は門地により、処遇及び労働条件に関し差別されない」。
これは日本国憲法第14条に似ていますが、男女共同参画の重要性、法人化後は外国人が総長などの役職に就く制限がなくなること、研究・教育面での競争と評価のルールを公正にすべきことなどを考えると、改めて新鮮な意味を持ってくると考えます。
「第○条 大学内で行われた非違行為の事実を大学に通報した職員は、通報したことにより、いかなる不利益も受けない。ただし、誹謗中傷を目的とした通報に関しては、この限りではない」。
最近の民間企業の動向からしても、積極的に規定することを検討すべきと考えます。
先行独法や他大学の就業規則(案)の中には、文書配布や集会に対する過度な規制をかけているものが見受けられます。すべての文書配布の事前届け制、「……のおそれのあるもの」というあいまいな理由での文書内容の規制、すべての掲示物の許可制、すべての集会・演説の許可制などです。これらが実施されれば、労働組合の正常な活動も妨げられてしまいます。現在、職員組合は、大学業務を妨げないように注意しながら、全教職員向け宣伝や、この文書のような建設的な政策提案を行っていますが、これらも規制されてしまうでしょう。明らかに行き過ぎであり、合理性のない規制です。
使用者が文書配布・集会を規制できるとすれば、違法行為であったり、業務の遂行を妨げたりする場合のみでしょう。組合案は第27条で職場の秩序維持義務を規定しており、これで十分だと考えます。もちろん組合はこの条文を守るつもりで提案しています。
なお、職員と学生に対する規制を同列に考えたと思われる例もがありますが、それぞれ性質を異にすると考えるべきです。
非公務員化されると給与法が適用されなくなるので、給与体系は大学ごとに設定することになります。ただし、他大学案でも現状を維持しているものが多く、組合案でもそのようにしています。法人化まで残り時間も少ないので、拙速な改編を行うべきではありません。
他大学案では、給与に関する規定を細則に丸投げするものが見られます。これに対して組合案の特徴は、給与の種類をすべて本則に明記していることです。これにより、職員は給与の構成部分を一目で理解することができます。また、給与の構成は人事管理の基本姿勢をあらわすものですから、ぜひとも本則で明記し、詳細部分だけ細則に委任すべきです。
なお組合案は俸給という名称を使っていますが、非公務員化に伴い、本給または基本給に変更することを検討すべきかもしれません。
組合案は、従来の給与表の種類に加えて、「専門技術職俸給表」の設定を提案しています。第3条4項で「専門技術職員」の設置を提案したことに対応するものです。
組合案は、現在と同じ、1年に1号俸昇給のルールを本則に明記します。性急な変更をおこなうべきではないと考えるからです。
退職手当は、国家公務員退職手当法が適用されなくなるので、法的保障を失います。よって、支給することを明示しなければなりません。
国家公務員である現在は、8時30分始業、17時終業で拘束8時間30分、勤務8時間、休憩30分です。休憩の他に、勤務時間内に30分の休息時間をとれるので、実質的には労働7時間30分、休み時間1時間となっています。
8:30-12:00:労働 | 12:00-13:00:休み | 13:00-17:00:労働 |
法人化されると労基法が適用され、休憩が45分以上になる一方で休息時間の法的保障がなくなります。多くの先行独立行政法人では、勤務8時間として拘束時間を8時間45分に延ばし、休憩45分、休息15分としています。すると、実質労働時間は15分延びて7時間45分となり、終業時刻は17時15分になってしまいます。
8:30-12:00:労働 | 12:00-13:00:休み | 13:00-17:15:労働 |
組合案も、一応この始業・終業時刻としています。しかし時短が世界の流れです。実質的な現状維持(形式的には15分の時短)とする可能性も検討すべきです。他大学案にそうした事例もありますから、不可能ではありません。
組合案は、始業時刻・終業時刻を変更する可能性を認めていますが、これはあくまで特殊な状況下でのものであり、使用者の裁量での変更が恒常的にあってよいわけではありません。
先行独法や他大学の就業規則(案)を見ると、始業・終業時刻の変更の一種として、いくつかのシフトを定める方式が規定されています。たとえば、A組は8時30分から16時45分、B組は9時から5時15分などというものです。しかし、これは使用者が裁量的に始業・終業時刻を変更するものですから、労基法に違反している疑いがあります(労働法専門家による指摘として、深谷[2002]を参照)。
これは「交替制勤務」だからよいのではないかという意見もあるかもしれません。しかし、交替制勤務を導入する場合は、あるシフトと他のシフトのそれぞれの始業・終業時刻を定め、さらにあるシフトから他のシフトに勤務が変更になるローテーションのパターンや周期などの就業時転換について、就業規則に定めておかねばなりません。労基法第89条に定められた就業規則の絶対的必要記載事項です。これによって、労働者は事前に始業・終業時刻を知ることができ、どこからが時間外労働かもわかるわけです。ところが始業・終業時刻の変更の一種としてシフトを定めてしまうと、使用者の裁量で始業・終業時刻が変更でき、極端な場合は上司が「今日は8時30分から17時15分勤務だったけど、明日は9時30分から18時15分でよろしく」という変更をしてもよいことになりかねません。労基法逃れであり、超勤手当支払いを不当に回避している疑いがあります。
こうした始業・終業時刻変更は、おそらく、昼休みの窓口対応、教員の夕刻以後の会議への事務職員の対応、機械装置の運転などを念頭に置いてのことと思われます。これらについては、早出・残業に超勤手当を支払うか、正式の交替制勤務を導入するか、変形労働時間制を導入することなどによって対応すべきと思われます。
組合案は、教員が授業や教授会以外の仕事を裁量的に進めることを認める規定を置いています。この趣旨は明確と思いますが、法的には労基法第38条3項により、過半数代表者との労使協定に基づき、専門業務型裁量労働制を導入しなければなりません。しかし、専門業務型裁量労働制をどのような条件の下でどれほど導入できるかがまだ不明確なために、詳しく規定することを控えています。
なお、まだ組合案に反映させておりませんが、組合は、裁量労働制の有無にかかわらず、教員の業務負担に関しては、標準負担を設定してそれを越える部分に増単手当を支払うという、私立大学で広く見られるしくみを提案いたします。
組合案は、休日の振替を可能としていますが、ここには労基法上の制限がかかることに注意が必要です。まず、休日振り替えの結果、労働時間が週40時間を超えてしまえば、割増賃金の支払が必要です。また、あらかじめ振替日を指定しなければなりません。そうせずに休日労働を命じた場合は、割増賃金が発生します。
組合案も、この点の誤解を招かないように整理すべきかもしれません。
創立記念日を法定外休日とすることを提案します。これまでと異なるのは、事務組織も休みとなることです。
非公務員化によって勤務時間法等が適用されなくなり、労基法等が適用されると、休暇の法的保障水準は切り下がります。しかし、組合案は、従来と同水準以上の有給の休暇を維持すべきと考え、これを定めています。
なお、改善提案として、リフレッシュ休暇の創設、親族死亡の場合の忌引き休暇の期間延長、とくに配偶者・父母は7日で子は5日という不均衡の是正、結婚休暇の延長、子の養育休暇の男女差の解消などを特記事項で述べています。いずれも、職場生活と家庭生活の両立という今日的課題に応えようとして考案したものであり、コストもそれほどかけずに実現できるはずです。
非公務員化によって、育児休業の法的保障は3年から1年に切り下がります。しかし、組合案は、従来と同水準の育児休業を維持することを定めています。
なお、本則だけでは明瞭に表現できないのですが、組合は任期つき教員も任期の定めのない教員と同様に育児休業をとることができるように就業規則で保障すべきだと考えています。その際、育児休業の取得中は任期の進行を停止すべきです。これらの点は育児・介護休業法が有期雇用者を適用外としているために法的には保障されていませんが、就業規則に明記すれば実現できます。こうしないと、たとえば医学系研究科のほとんどの教員に育児休業を認めないとか、3年の育児休業を取っているうちに任期が終わってしまった、などという理不尽な事態が生じてしまいます。
非公務員化によって、介護休業(休暇)の法的保障は6ヶ月から3ヶ月に切り下がります。しかし、組合案は、従来と同水準の育児休業を維持することを定めています。
なお組合は、任期つき教員の介護休業について、前条の育児休業と同様に保障すべきと考えます。
組合案は、研修の機会を保障する総長の責任と、職員の技能向上の義務を明記しています。本学が、職員のキャリア・アップを支援する姿勢と、高い水準の仕事をしていこうという姿勢をとることを示すものです。
これまで教員は、教特法第20条によって勤務地を離れた研修機会が保障されていました。授業や会議がない時間帯に、自宅で研修を行うことができた根拠はここにありました。非公務員化によって同法は適用除外となりますが、組合案では、同法の精神を引き継いで、従来と同等の水準の研修機会を保障することを明記しました。
知的財産権の帰属問題は大学教職員にとって重要な今日的問題ですから、本則に規定することが望ましいと組合では考えました。
職務発明に関する権利については、大学が法人に帰属させることができることを定める一方で、個人補償の必要性を明記しています。著作権については、人格著作権が作者に帰属することを明確にするとともに、財産としての著作権については、大学に二次利用の権利を認める一方で、著作者への個人補償を義務づけています。
先行独法や他大学の就業規則(案)では、「その他、この規則に違反し、又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき」などとあいまいな理由で懲戒ができるようになっています。しかし、懲戒という重大な措置は恣意的に行われないようにすべきですから、あいまいな事由は盛り込むべきではありません。組合案は、懲戒事由を具体的なものに限って列挙しています。
国家公務員は、懲戒を含む行政処分の妥当性について、人事院に苦情を申し立てることができますが、非公務員化されると、それができなくなってしまいます。使用者側が懲戒処分を一方的に決めることができるのは不公平です。そこで組合案では、懲戒処分の妥当性について、第三者委員会としての懲戒委員会が審査することを提案しています。
組合案は、懲戒処分に相当する行為を部下が行った場合の監督責任を明文で規定しています。
組合は、職員に損害賠償の責任があるかどうかは、ケース・バイ・ケースと考えています。ですから、「その損害の全部又は一部を賠償させることがある」としており、当然に全部を賠償させるのではないという見地をとっています。
先行独法や他大学の就業規則(案)の中には、職員の安全衛生注意義務を先に書いて、その後に理事会や大学の安全衛生管理義務を定めているものがあります。これは労災を防止する責任は事業者にあるという、労働安全衛生法第3条の趣旨を理解しない発想であり、リーダーの責任を重視する法人化の理念にも反しています。まず総長の責任を1項に書き、続いて職員の協力義務を2項に書くのが適切だと考えます。
組合案は、職員が健康診断を受ける義務を負うことを認めていますが、大学が指定した医師以外の医師の健康診断でもよいことにしているのが特徴です。これは、職員が健康な状態で勤務することを保障する一方で、使用者が職員の健康状態に関する個人情報を悪用することがないように保険をかけるという意味を持っています。また、医師を選ぶ権利の尊重という、医療に関する今日的な考えを取り入れる意味もあります。
就業規則が、万一、法の定める労働条件を満たさない場合は、法令が優越することを明記して、順法の精神を示しています。
労基法が定めるとおり、就業規則よりも労働協約の方が高い条件を定めるときは、その労働協約が適用される労働組合員については、協約の条件が優越することを明記しています。
以上
※組合の政策提言・政策資料はこのページ内で公表しています。
重要なものを以下に列記します.