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法人化は東北大学をどう変えるか

 11/9(土)-10(日)仙台市茂庭荘にて宮城県教職員組合協議会主催の「2002年度 第52次・第32次合同教育研究宮城県集会 -憲法・教育基本法・子どもの権利条約にもとづく教育改革を-」がおこなわれました。大学問題に関する特別分科会(テーマ:「法人化は国立大学をどう変えるか」)での東北大学職員組合川端望執行委員(教文部長)の報告レジュメを掲載します。

2002年11月9日 宮城合同教育研究集会
特別分科会「法人化は国立大学をどう変えるか」

東北大学職員組合
執行委員 川端 望
書記局

1 本報告の課題

・国立大学法人の制度はどのようなものか、その問題点はどこにあるかを東北大学の事例に則して明らかにする
・当組合の法人化反対運動と法人化対策について報告する
・上記の点について、大学に限らない、広い教育上の見地から意見をいただく

2 国立大学法人化をめざす動きと事実経過

■文部科学省の案と国大協による受容

2002.3.26
国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議(文部科学省)最終報告『新しい「国立大学法人」像について』
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/14/03/020327.htm
→現在の法人化案の枠組みはこれ。
2002.4.19
国立大学協会臨時総会。『新しい「国立大学法人」像について』を容認する会長談話を基本姿勢とするかどうかをめぐって紛糾。多数決で承認。
http://www.kokudaikyo.gr.jp/katsudo/txt_soukai/h14_4_19.txt

「新しい「国立大学法人」像について」(最終報告)に関しての国立大学協会会長談話
http://www.kokudaikyo.gr.jp/iken/txt/h14_4_19.html

■東北大学の動き

 東北大学制度検討委員会が、「組織業務・人事制度」と「目標評価・財務/会計」について法人化に対応した制度設計案を作成。各部局からの意見聴取とパブリック・コメント募集を経て、10月15日に中間報告が出されたところ。
中間報告(東北大学内のみアクセス可能)
http://www.bureau.tohoku.ac.jp/dokuho/chukan2.pdf

■「今後、政府が想定しているスケジュール(『文教速報』第6367号による)」

2003.3 
国立大学法人法(仮称)案閣議決定
2003.4 
中期目標・計画について各大学ヒアリング
2003.6 
法案成立。中期目標・計画について各大学原案提出。
2004.4 
国立大学法人へ移行

3 現在の制度案のポイント

■組織業務

現在想定されている大学の運営機構
運営機構
出所:『新しい「国立大学法人」像について』

学長(総長)の権限を強化する
重要事項を審議機関で審議の上、最終的には役員会が議決する。
審議機関の委員選任、次期学長候補の選出などについて強力な権限を得る
教学(研究・教育)と経営を分離する
経営面での審議事項(基本財産、予決算、給与、役員報酬等)は経営協議会へ。
大学の将来計画、中期計画・中期目標は経営協議会と評議会で審議。
東北大学の案では予決算を評議会でも審議。
学外者の経営参加
運営協議会委員の約半数は学外者。東北大では総長が指名する
部局の運営も、部局運営会議が意思決定・執行機関となり、教授会は審議機関に

■人事制度

非公務員化
大学と教職員の関係は私法上の労働契約となる
労働三権は認められる
退職金通算や、年金等の国家公務員と同等の扱いは認められる
雇用保障はあやふや。東北大学は、教員は解雇しないことを暗黙の方針とするが、職員については解雇手続きを定めている。
総長選挙
二つの審議機関から選出された選考委員会がまず候補者を選ぶ。その後の手続きは流動的。
この方式では、現在の学長が次の学長候補者選出に大きな影響力を持つ

総長選挙
出所:『新しい「国立大学法人」像について』

人事制度
年功序列の排除を唱う
東北大学では、能力等級制度を導入し、基本給を能力給とする方針。ただし格付け・査定方法不明。公務員制度改革の案を真似ている。
非正規職員の繰り返し雇用を避けることを文部科学省が方針化
継承について
東北大学では常勤職員は継承する方針だが、それ以外については不明
教員評価
研究・教育・行政への貢献をポイント制で評価して一時金に反映させる。
60歳時点で過去5年間の評価に基づき、退職勧奨対象者を決める。

■中期計画・中期目標

中期計画・中期目標の期間は6年間。
フォーマットの制約が厳しいため、フォーマットに合った項目、数値化しやすい項目で計画や達成を表現しなければならない。
計画策定と結果報告に膨大な実務が予想される
中期計画の実施結果が運営費交付金に反映される。反映させる方法がいまだに不明。

■財務・会計

利潤追求は目標としないが、赤字を出さず、コスト管理をすることが求められる。
「自己収入をできるだけ追求するが、それで独立採算にできる事業ではないので国庫から必要な運営費交付金を出す」という原理

積算校費と人件費の2本建てから、これを一本化した運営費交付金に変わる

運営費交付金の算定方法に不明な点があまりにも多く、当然含まれるべき事項まであいまいである。
法人化後に採用した常勤職員の人件費。
退職金。

「一律x%切り下げ」などの形で予算削減がなされる可能性もある。
学生納付金(入学金、授業料等)の水準については、一定の制約内で裁量が認められる制度。標準的な自己収入(運営費交付金算定基礎となるもの)以外に、様々な形の学生納付金を学生(と親)に求める可能性もあり。

4 法人化案の問題点

■「独立行政法人制度は大学になじまない」という基本問題が解消されていない

・構想と実行の分離、目標設定と評価が容易な事業ではない
・最初に公務員削減ありきであって、研究・教育の発展が中心に座っていない
・財務の透明性・情報公開はある程度進展する可能性あり
・社会と大学のよりよい関係を築く制度は提案されていない

■国立大学法人の運営原理についての疑問点

トップ・ダウンに関して
政府−大学関係:これまでの国立大学の制度よりも大学の自主性が認められる部分があまりにも小さい
学長−教職員関係:大学内では教授会権限を学長の下にすいあげるものになっている 意思決定:確かに速くなるだろうが、その内容が研究・教育の見地からよいものになることは保障されない。
競争原理に関して(一般論としての競争の効用は否定されるべきものではない)
競争のルールが、深い洞察なしに管理的発想で決められている
民営化?文部科学省はコントロールを維持するために民営化はしない?

■大学運営上の問題

2004年春から法人化というのは、単純に見てあまりにも性急。
東北大では、想定される法案の内容を先取りして制度設計が進められており、コメントや提案に対して「法定事項だから動かせない」という硬直した回答が来る。

■具体的な制度設計に関する問題点

2002年10月14日の東北地区国立大学長会議にあたって、総長に要望書を提出(URL参照)
現在の組合の見地を要約している。
http://ha5.seikyou.ne.jp/home/touhokudai-syokuso/docs02/youbousho021011.html

■より広く社会的に見た問題点

大学の財政が厳しくなり、授業料その他学生納付金の引き上げに走る危険がある。
運営協議会委員が総長の意向や特定の狭い利益を反映してしまう危険がある(社会に開かれた大学を模索する上でも問題)

■大学病院のあり方

独自の問題を含んでいるが、調査研究が遅れているので、今回は保留。

5 東北大学職員組合の活動

■基本的な考え方

■とりくみ

2002/2 法人化問題について全教職員アンケート調査
(集計結果)
http://ha5.seikyou.ne.jp/home/touhokudai-syokuso/docs02/kyoubun020709.html
2002/2/25 「教職員の『非公務員化』問題に関する要請書」(関本委員長)を総長に提出。
http://ha5.seikyou.ne.jp/home/touhokudai-syokuso/docs02/yousei020225.html
2002/7/12 東北大学制度検討委員会A組織業務・人事制度委員会の案に対してパブリック・コメントを提出(法人化対策特別委員会)
http://ha5.seikyou.ne.jp/home/touhokudai-syokuso/autonomy/pub_com020712.html
2002/8/8 東北大学総長選挙にあたり、第3次選挙候補者にアンケート
http://ha5.seikyou.ne.jp/home/touhokudai-syokuso/docs02/enq020808.html
http://ha5.seikyou.ne.jp/home/touhokudai-syokuso/docs02/enq020819.html
2002/8/30 パートの権利学習会(講師:宮城一般労働組合 遠藤秋雄書記長)
http://ha5.seikyou.ne.jp/home/touhokudai-syokuso/docs02/part-bira020830.html
2002/8/30 東北大学制度検討委員会B目標評価・財務会計委員会の案に対してパブリック・コメントを提出(法人化対策特別委員会)
http://ha5.seikyou.ne.jp/home/touhokudai-syokuso/autonomy/pub_com020830.html
2002/9/12 教員評価に関する学習会(講師:野村正實経済学研究科教授)
2002/9/25 全教員にリーフ『「国立大学法人東北大学」で研究・教育はどうなる!?』を送付し、加盟を訴え(別紙)。組合加入のコーナーをWeb上に設置。
http://ha5.seikyou.ne.jp/home/touhokudai-syokuso/docs02/kanyuu-bira0209.html
http://ha5.seikyou.ne.jp/home/touhokudai-syokuso/kanyuu/kanyuu.html
2002/10/11 「東北地区国立大学長会議にあたっての要望書」を提出(高橋委員長)
http://ha5.seikyou.ne.jp/home/touhokudai-syokuso/docs02/youbousho021011.html
2002/10/24 学習会「民間企業における年功制・能力主義・成果主義」(講師:川端望経済学研究科助教授)
2002/11(予定) 「法人移行に際しての非常勤職員の雇用継承および待遇に関する要望書」提出(高橋委員長)

■成果と問題点

◇政策面
制度に関するおおまかなコメント、問題点の指摘はできる。
労働法制・労使関係の学習・研究があまりに弱く、制度改革で生じる問題についていけない危険がある
◇運動面
対案を持ち、実際に制度・運用を動かす力量があることを証明するに至っていない
◇組織面
非常勤職員は加入の訴えに敏感に反応。
組合員から教員へのはたらきかけは弱く、また反応も弱い。
組合の必要性、魅力の押し出し、弱点・欠点の克服について議論を本格化させているが、まだ抜本的対策に至っていない。

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